第14話 ドキドキ !? 初・体・験🖤
「いいわ。シましょう? ルクス」
彼女はそう言った。
そして、壁とベッドとの間に設けられたスペースにある突起をいじって、部屋の明かりを弱くした。手慣れたものだった。
「ほら、そんなとこにボーっと突っ立ってないで、こっち来なさいよ」
そう言って、さっさとベッドの縁に腰かけた。僕もそちらへ歩み寄ろうとするが、右手と右足が同時に前に出て転びそうになった。
「もう、なにやってるのよ?」
薄暗がりの中、ティアナの苦笑する声がする。胸の中がくすぐったくなる声だった。
数歩しか離れていない距離を、苦戦しながらモタモタと、なんとかベッドまでたどり着く。そして腰を降ろした。
オズオズと彼女の方を見る。
思わず叫びだしたくなるくらい、彼女はかわいかった。
本当に僕、これからティアナとするんだよな。まず、どうすればいいんだろうか。
こういう場合、まずはそう……キスからだよな。
よし、さりげなくチュッって……、ハイ僕キスした経験もありませんでした! まさか初手から詰みとは……。
いや、逃げちゃダメだ、ルクス! ファイトだ、ルクス! 押忍! やってやるです!
ティアナの細い肩に軽く手を置いて、ゆっくりと顔を近づける。
「あ、キスはダメ」
えー。ダメなのー?
「じゃあハグは?」
「ダメ」
「手を握るのは?」
「ダメ」
オイオイ、オラ面白くなってきたぞ。
キスもダメ、ハグもダメ、手を握るのもダメで、×××はしろって……できるかーい!
思わず突っ込みを入れそうになって彼女を見ると、その肩がわずかに震えているのに気がついた。
「――じゃあ、触らないから、ふたりで横になろうよ」
「それなら……いい」
僕らは広いベッドに並んで横になって、薄暗い天井をぼんやり見つめた。
◆
「……アンタと会うのって、すごい久しぶりよね」
「お互い、別々の魔導学院だったからね」
「前に会った時は、アンタまだチビだった」
「ティアナだってチビだったじゃないか。僕よりチビだった」
「たいして変わらなかったじゃない」
「そうかな?」
「そうよ」
「……」「……」
「おば様は変わらないわね。相変わらずきれい」
「たしかに母上は昔から変わらないなあ」
「とても七人も子供がいるなんて思えない。アンタのお姉さんだって言われても、信じる人いると思うよ」
「本当に?」
「本当よ」
「……」「……」
「アンタって『色欲』なんでしょ? ――エッチなの?」
「知らないよ! ……たぶん、年相応だよ」
「フーン、年相応にはエッチなんだ?」
「……ティアナはどうなのさ?」
「……しらない。たぶん、年相応よ」
「……」「……」
「アンタ、童貞?」
「……」
「……でしょうね」
じゃあティアナは? とは訊かなかった。
でも、今日これまでの会話や反応で、絶対初めてだって思った。
思って——だから、こんなことになって申し訳ないって気がした。いや、全部が全部、僕のせいってわけじゃないんだけど。
「……小さい頃、よくこうして一緒にお昼寝したわね」
「そうだったね」
「お風呂も一緒に入ったっけ」
「……うん」
「お医者さんごっこもしたことある」
「……小さい頃ね」
「よっ、と――」
不意に、ティアナが起き上がった。僕も釣られてそうする。
「アンタが脱がせて」
「え?」
「私の服よ」
「……」
「お医者さんごっこと一緒でしょ。――アンタがヤレ」
ついに、キタ。
◆
薄暗い室内だ。部屋の半分ほどのスペースが、大きなベッドで占められている。
そのベッドの縁に、僕とティアナは向かい合って腰を降ろしている。
ツインテールにまとめられた艶かな髪。かすかな灯りを照り返し輝く、宝石のような紅い瞳。薄闇に浮かび上がる、陶器のごとき白い肌。
完璧なまでに均整の取れた造形は人形を思わせるが、その控えめな胸は微かに上下しており、彼女が作り物でないことを伝えていた。
今、その美しい顔にははっきり、「不機嫌」と書かれている。
「――ねえ、シないの?」
鈴を転がすような、ティアナの声。しかしド直球な表現に、思わずギクリとしてしまう。
たしかに僕の腕は、彼女の服を脱がすべく伸ばされたまま、固まってしまっていた。
緊張し過ぎで指が
もっとスマートに振舞えないのかって?
いやムリですよ。だって僕、童貞ですから!
「するなら早くシて。どうせシない限り、ここから出られないんでしょう?」
少女は部屋の入り口のドアに視線を向ける。僕もつられてそちらを振り向く。
そこには例の文字。
「ここは『×××しないと出られない部屋』です」
ああ——、どうしてこうなった?
ここに来て僕はまだ、頭の中で何度もその問いを繰り返している。
「――何考えてるの?」
「……第1話の回収が無事に済んだなって」
「……何言ってんの? アンタ」
うん、ごめんなさい。急にわけわかんないこと言って。
とはいえ、僕の緊張はMAXに達していた。口の中はカラカラだし、指先は冷たいし、股間は当然ガチガチになっている。
頭の中でしゃべり続けてないと、どうにかなってしまいそうだった。
さっきからずっとモタモタしている僕を、ティアナはじっと見つめている。
視線を感じて、余計に焦る。
焦る。
焦る。
――ふう。
ため息が聞こえた。
次いで、
ガバッ―—!
急にベッドに押し倒された。
僕が。ティアナに。
僕の視界には、天井を背景にしてティアナの顔がある。
近い。
「あのね。この際だから、きちんと伝えておくね?」
ティアナがくすぐったい声でそう言った。
「私、アンタがダイッキライ」
その声は氷のように冷たかった。
★★★ 次回 ★★★
『第15話 誓い』、お楽しみに!
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