[じゅ〜にっ]戦い終わって日が暮れて




 ドン引きな夕原さん。


所在なさ気な妹の美咲。


ちょっと逃げ腰な僕。


彼女に誤解されたままなのも嫌だけど、嫌われるのはもっと嫌。


はっきりと言葉にされるその前に、いっそ逃げ出したい衝動しょうどうられていたりする。


もう手遅れなのだけど。


いつまでも通路ここ駄弁だべっているわけにもいかないだろうと、気まずい空気のまま三人そろって歩きだす。


そういえば冨樫とがし先生に呼ばれていたんだったよ。




 


 職員室では、数人の先生たちが僕らを待っていた。


真っ先に駆け寄ってきたのは姉である。


幸助こうすけくんっ! 無事で良かったっ……」


ガバリと抱きつかれ、室内がドン引きである。


スリスリとほおずりされて固まった。


ちょっと。人前では教師と生徒として一線を画すんじゃなかったのかよ。


自称、美人敏腕美術教師のイメージ戦略はどこへやった?


「はいはいはい、感動の再開は後回しで〜。そして、妹の私のこともちょっとは心配してくれたって良いんじゃないのかな〜」


それをベリッっとがす我が妹よ……兄ちゃんはそのしたたかさを分けて欲しいぞ。


「むう。美咲ちゃんはしっかり者だから心配ないないのよ。幸助くんは、ほら……すきだらけだからさ……」


「ちょっと、その表現……傷つくんだけど……」


「だって事実じゃん? だから私にこうされちゃうんじゃない〜」


再びのハグ。


眉間みけんにシワが寄るままににらんでみるが効果なし。


「いつも嫌だと言っている」


「あら、そうだったかしら?」


「はいはいはい、そこまで。冨樫先生〜、私たちに用事があったんですよね?」


美咲は姉と僕とのやり取りを中断させて、冨樫先生を呼ぶ。


陸上部顧問の熊男先生が、ノッシノッシとやって来た。


彼の説明によると、異例の事態だが警察署と警備会社合同で僕たち一人ひとりを個別に事情聴取するのだそうな。


それって寄ってたかって質問攻めにされる気がするんだよ。


正直いうと、とっても面倒くさそうである。




 不審者の神田川は、とっくに警察に引き渡されてこの場には居ない。


奴にもこの場で簡単な事情聴取がなされたという。


美術室は、奴が在職中に使っていた合鍵を返却していなかったことと、現在も教室の鍵が古いままであったことが犯行を可能にした事実が明らかになった。


今回は神田川が夕原さんに個人的に逆恨みをしていた結果、更衣室の窓を破壊して追いかけ校長室に逃げ込まれた。


勝手な逆恨みを晴らすことが叶わなかった神田川が職員室の合鍵の束を手に入れて、次に生徒会室の重要書類と金銭に標的に切り替えた矢先に防災防犯システムが暴走して、その挙げ句に野次馬ぼくとチャンバラする羽目になった。


警備会社も警察も、そういう結論に達したらしい。




 奴の罪状としては、先週の美術室侵入事件と今日の校内乱闘事件が立件されるだろうと説明された。


美術室の件は、防犯カメラの録画画像が証拠となる。


今日の件は、カメラの記録とともに目撃者と被害者、オマケの野次馬の証言が有効になると判断されたとのことだった。


そんなわけで、被害者の二人と関係者らしき僕と冨樫先生が話を聞かれるということらしい。


順番に校長室へ呼ばれるので、ここで待機するように指示された。





 ぼんやりと室内を見回していると、警備会社の職員さんが数人で作業している。


書類を書いている人、端末を操作して何やら調べている人、携帯電話を使っている人。


その他に職員室を出入りしている人が数人いるようだ。


電話の人がけっこうな大声で話しているので内容が聞こえてきてしまった。


「そうなんですよ、何故か現場の防火防煙シャッターとスプリンクラーが勝手に作動していてですね……通路と生徒会室が水浸しで…………ですです、……原因不明で……該当時刻がいとうじこくの……制御室……録が消えちゃてて、ええ……誰かが操作したという形跡は…………はい……はい。……仕方がないですね……では、そういうことで……はい……」


通話を終えて、ふぅ〜ってめ息をらす職員さん。


ゴメンナサイ。


そして、お疲れさまです。


器物損壊きぶつそんかいの犯人は、同室内でこうして貴方を観察してます。


自首するつもりはございません。


きっと信じちゃくれないし。





 警備会社の話によると、原因不明の誤作動が不審者の捕獲ほかくに一役買ったが、システムに負担がかかって大ダメージをこうむってしまったそうだ。


制御システムは何をやってもうんともすんとも言わない状態で、どうやら壊れてしまっているらしく全面的に改修工事プログラムの再構築が必要らしい。


整えられたプログラミングを書き換えて好き勝手をしたばっかりに、かなり無理な仕事をさせてしまったな……システム君には気の毒なことをしてしまった。






 校長室では、警官さんと校長と風紀の先生と警備会社の責任者さんの四人のオジサマ方が待っていた。


僕たちは順番にそこへ呼ばれて、簡単に話を聞かれることになっていた。


夕原さんと美咲は直接の被害者として。


冨樫先生は通報者と当日の責任者として。


僕は、本来ならば無関係なはずなのにわざわざ現場まで出向いていって不審者と対峙たいじした物好き野次馬野郎として。


────いやいや、ちょっと。


ちっとも無関係じゃないんですって。


大切な彼女と妹のピンチだったんだから。


けつけないわけがない。


それに、これまでに奴には色々とやられっぱなしで……いいかげん鬱憤うっぷんが溜まっていたし。


たとえ鈍くさくってもヤルときはやるんだよ、僕だって。


────……ってな事を切々と訴えた。





 風紀の先生が三白眼を見開いて、重低音で尋問じんもんする。


ほんとは事情を聞くだけなんだけど、めっちゃ怖いから尋問だ。


本職の警察官さんよりも怖かった。


出る幕のなかった警察官さんは苦笑いだったし、校長先生は終始無言でめ息交じり。


警備会社の責任者さんなんて、君の話は面白いけど……って言いながら笑顔が引きつっていたような。


女子二人は校長室で安全に過ごしていたのだから、わざわざお前が危険人物にちょっかいを出す必要はこれっぽっちもないんだっ、怪我もなく無事だったから良かったものの、何かあって保護者に説明する方の身にもなりやがれっ、このスカポンタンが〜〜……って、こってりしかられたんだよ。


一気にまくし立てられて、どこで息継いきつぎぎしてるのかって心配になったほどだったさ。


そんなこんなで、軽はずみな野次馬行動をやらかしたお馬鹿な生徒という僕に対する見解は、どうあがいてもくつがえすことができなかったんだよ。







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