[じゅ〜いちっ]姉と兄と妹で……あと末っ子に弟くん




 僕に向かって、美咲が呆れたような哀れみの視線をよこす。


「あちゃぁ。もしかして、未だに私達の事情を話せてなかったの?」


「……だって僕、めっちゃ避けられてたし……さっきまでメッセージメールすら読んでもらえそうもなかったし……」


「しゃーないなぁ、もうっ。さっさと話しちゃいなよ、お兄。それじゃぁ映奈えいな先輩、お兄の話を聞いてやってくださいねっ」


「?? ……もちろんよ」


「ほらお兄……くわしい話は後でもいいけど、核心だけは職員室に行く前に言っちゃいなさいよ」


「うん、……わかったよ」


小声で付け足された妹の、鈍くさすぎ〜って言葉がグサリと刺さる。


すっかり定着している形容詞に反感の意を込めて、妹をジロリと見やる。


何か文句でも? っていう視線が返された。


ううっ、反論の余地もございません。





 小首をかしげる夕原さん。


切り揃えられた前髪がサラリと揺れる仕草が可愛いです。


「それで、何の話??」


つぶらな瞳を細めてにらまれて、先をうながされる。


すんません……久しぶりに間近で会えたものだから思考が脱線したんだよ。


べつに勿体もったいぶるようなことじゃないし、話してしまおう。


「僕と美咲と、結城先生は血の繋がった姉弟姉弟兄妹きょうだいなんだよ。末っ子に小学生の弟がいて彼とは父親が違うんだけれど、まあ四人とも母の子どもだから……仲良し四人姉弟ってことだね」


それが僕たち家族の現状だ。


美咲も相槌あいずちを打ちながら詳細をフォローしてくれる。


「そうそう。私たち三人とも、未亡人だったお母さんが再婚するにあたって春田の義父ちちと家族になったけれど……長女の穂波ほなみ姉は、大学卒業を期に独立して教師になったんです」


「えぇっと……ってことは……美術部の結城先生は、春田くんの……お姉さん!?」


「はい、正解。私たち、間違いなくほなみこうすけみさきの間柄なんです〜」


「え……でも、名字が……」


「ああ。おねえは、つい最近この学校の理事長子息と結婚して結城ゆうき姓になったんですよ。だから、結城ゆうき 穂波ほなみって名乗ってます。神田川先生の後任がなかなか決まらなくって、旦那さまに頼み込まれたんだって言ってました。それで仕方なく後任を引き受けることになったって……断りきれなかったみたい」


「えっ、でも……ハグとか頭ナデナデとか、姉弟でもやり過ぎっていうか……ちょっと不自然じゃないかしら……」


戸惑とまどいがちに疑惑を言葉にする夕原さん。


それに対しウンウン激しく同意と、首を縦に振る我が妹よ。


「ホントそう思いますよねぇ。私もゲンナリしてますもん。姉はめちゃくちゃブラコンなので……お兄限定でひっつき虫になるんです。アレでも校内だからって控えめにしてたらしいんですけれどねぇ……」


言葉通りのゲンナリな表情で説明がなされる。


おいおい、当事者の僕を差し置いてゲンナリされても困るんだ。


是非ともあにの名誉挽回フォローをお願いしたいのに。


夕原さんの表情がちょっと引きつっているのは、気のせいだろうか。


気のせいだと思いたい。


「それに貴方たちって、今までそんな素振りをしたことがなかったよね……誰にも言っていなかったの?」


夕原さんが重ねた疑問に美咲が答える。


「お姉が勝手すぎるのよ。私たちが理事長の親戚だっていう話が広まるのも、新入り教師のお姉が私たちと血の繋がりがあるってバレるのも、やりにくくて不都合だから絶対に言うなって厳命されていたんです。だから、私たちは先生と生徒として接していたのよね、お兄?」


「うん、そんな感じ。僕たちも理事長と親戚だって気を使われたりするのは嫌だったから、お互いの利害関係が一致していたんだよ。家族会議において満場一致でそのほうが良いんじゃないかってなったんだ。でも、夕原さんには早めに説明をしておくべきだったね……ごめん?」


そういう設定ならば無闇矢鱈むやみやたらとベタベタしたり、過干渉かかんしょうはしてこないだろうと思っていたんだけれどもなぁ。


我慢に我慢をしていたが、人目がないとタガが外れるらしかった。


それであんなことに……あの美術室で誤解を招いた大惨事。


僕も、姉のブラコンさ加減を甘くみていたんだよ。


幼少期からずっとあんな感じでなれてしまっていたのも、その自覚がなかったのもまずかった。


末っ子の弟も可愛がっているが、なぜか僕に対してだけオカシクなるのはイタダケない。


因みに姉夫妻は恋愛結婚だし、新婚熱々なのである。


僕などにかまわず、旦那さまとイチャイチャしておけば良いのに……ぼくは別腹なのだとか。


うん、全くもって理解不能な思考回路なのだった。








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