[はち〜っ]不審者を追いかけるもの




 冨樫とがし先生は、夕原さんと美咲の頭をポンポンとでてから二人をふたたび校長室に押し込むと、竹刀を片手にのっしのっしと職員室を突っ切って、廊下へ。


僕はカメラの視点を切り替えつつ彼を追う。


どうやら警備会社の到着を待たずに、単身で神田川を探しに行くようだ。


さすが熊男。


じつに豪胆ごうたん





 じつをいうとお探しの不審者は廊下の水道脇に隠れていたのだが、熊男はそれに気づかずアッサリ通り過ぎていったのだった。


のっしのっしと歩み去る後ろ姿を見送って、神田川はそーっとそーっと廊下へ。


抜き足差し足忍び足……それから、おもむろに反対方向へと早足で全速前進。


職員室までのバタバタとは正反対で、忍者もびっくりな滑らか消音走法。


階段をけ降り一階の廊下を進む。


その先のき当りは生徒会室だった。





 あの場所には各委員会や部活の活動予算や、個人情報が記載された重要書類が置いてあったはず。


生徒が扱う金額だから大した額ではないけれど、後期予算だけでも数十万円くらいにはなるんじゃなかろうか。


在職中の神田川は生徒会の会計監査も兼任していたから、この時期のこの場所生徒会室にソコソコな額の小金が保管されていることも把握はあくしているのだろうね。


お金はともかく、生徒の情報が外部に持ち出されたら大事になりかねないな。






 はたして神田川の次のねらいはそれだった。


先ほど職員室の鍵置き場から持ち出した鍵束を取り出した不審者は、スムーズに解錠し生徒会室の扉を開けて室内へ滑り込む。


スチール製の書類戸棚にも鍵がかかっているので、それも鍵束の鍵の一つで難なく解錠。


中身をゴソゴソ漁っている。


生徒会と各委員会の連絡網や生徒の写真一覧などの書類束を取り出した。


それから部費などの入った手提げ金庫も持ち出した。


もちろん証拠画像は録画&配信継続中。


たとえ窓から逃げ出せたとしても、指名手配は待ったなし。






 でもさ、それじゃつまらない。


どうせなら、もうちょっと付き合ってもらおうか。






 防犯カメラから思考を切り替え、メインの防犯システムへアクセス。


えっと、たしかこの辺りにスプリンクラーの制御システムがあったはず……おっ、ヨシヨシこれこれ。


起動させて……あっ、マズい、ストップ。


うっかり校舎内全域放水しちゃうところだったよ。


えぇっと、これをこうして、こうで……これでヨシ。


一階東側、生徒会室及び会議室のみ放水!!!


シュバババババババババババババ


ザザザザザザザザザーーーーーーーー


思ったよりも勢いよく水が出た。


おかげで、不審者はずぶれのねずみ


いやいや、水もしたたるイイ男??






 ビショビショな中年男は、諦め悪く書類束と手提げ金庫を手にしたままで廊下へ避難。


ここは一階なんだから、さっさと窓から外に出ればいいのにね。


客観防犯カメラ的には、熊男が一階に向かってきているのでこれ以上校内をウロウロするのはお勧めじゃないんだが……もしかして、もっとかまってほしいのだろうか?


遊んでほしいというのなら、僕だってやぶさかではない。


もうちょっと付き合ってやろうじゃないか。


何が出るのかはお楽しみ……っていうかお約束? 


っていうか、あとはコレしかないでしょう。


フフフのフ……なんたって防犯防災システムなんだもの。




 先ずは火災訓練アナウンス。


……ポチッとな。


校内に響き渡るけたたましい警報音と機械的な音声。


「カジデス、カジデス。イッカイ、セイトカイシツフキンデ、カサイガハッセイシマシタ。スミヤカニ、ヒナンシテクダサイ』


「カジデス、カジデス。イッカイ、セイトカイシツフキンデ、カサイガハッセイシマシタ。スミヤカニ、ヒナンシテクダサイ』


「カジデス、カジデス。イッカイ、セイトカイシツフキンデ、カサイガハッセイシマシタ。スミヤカニ、ヒナンシテクダサイ』


一瞬だけビクッっと身をすくませて、逃走しようとする神田川。


逃 が さ ん !!!!!


次に防煙防火シャッター始動。


……ポチッとな。


……いやさ、べつにボタンを押しているわけじゃないんだけれど、気分だよキブン。


ガガガガガッとシャッターが下りてゆく。


その下側をくぐけようと、腹ばいになって進む神田川。


だから、逃さんっ!!


ガシッ!!!!


一気に奴の背中にシャッターを直撃させる。


グリグリ、ガシガシ……暴れる奴をしっかりと取り押さえるために、念入りに下降させておこう。


グエッグエッっと藻掻もがく不審者。


面白いけど、中身が出ちゃうと面倒だ。


程々に手加減しておいたほうがいいのかな。


とりあえず、システム君ぼくの仕事はここまでで。




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