[きゅ〜っ]不審者にもの申すもの




 やれやれ、お疲れさまだ相棒よ……我が眷属けんぞくの防犯防災システム君よ。


勝手に私物化しちゃっただけだけど、君のおかげで僕は非常に助かった。




 ちょっとカメラ視点で様子を見たら、熊男な冨樫とがし先生は三階から一階へ階段を降りているところだった。


現在地は対角線上の西の端っこ辺りにいるので、彼が不審者を見つけるまでにはもう少しだけかかるだろうか。


冨樫先生、さっきは一階に向かっていたのに何故か三階を先に見回ることにしたらしかった。


やっと満足して一階に取り掛かることにしたみたい。





 証拠隠滅しょうこいんめつってわけじゃないけれど、この部屋周辺の録画をしっかりちゃっかり消去してから、全ての起動スイッチをオフにした。


これで校内の防犯カメラたちも一時休業。


まあ、誰も僕が自由自在にこいつらを操れたとは思うまい。


何か言いがかりをつけられても知らぬ存ぜぬを通す所存だ。





 さて、本体としての僕はというと……もうひと仕事やっておかなきゃ気がすまない。


放送室兼システム制御室をふらりと出で、迷いなく生徒会室前ゲンバへ向かう。


手には銀色に輝く刺股さすまたを持っている。


ちょうどよい具合に通りすがりの壁際に立てかけられていた得物えものである。


これは……まるで僕に使ってくれって言っているようじゃないか。


っていうことで、ちゃっかり拝借したんだよ。




 階段を駆け降り一階へ。


東に視線を向けると、いつもならば数十メートル先の突き当りに生徒会室の扉が見える。


しかし、今は防火シャッターが視界をさえぎり、その底辺あたりで暴れ藻掻もがく人物がいた。


うん、ご承知の通りさっき僕がワザとはさんじゃったからだね。


むしろ居てくれないと困るよねっ。





 神田川はガムシャラに身体をくねらせて、今まさにシャッター下のわずかな隙間すきまから脱出するところだった。


びしょ濡れで、ゼェハァと肩で息をしながら立ち上がる。


それから、やっとこちらの存在を察知した。


「おや? そこにいらっしゃるのは神田川前顧問ぜんこもんじゃないですか、お久しぶりです。今日は学校に何の用です?」


「……ぅるさいっ。そこをどけ!」


「おやおや、ずいぶん忙しそうですねぇ? それに、すいぶん濡れちゃって」


邪魔じゃまだと言っている!」


「そう言われても、素直にどくわけにはいかないんですよ。……だって僕、わざわざ貴方の邪魔をしに来たんですから。よかったら、ちょっとチャンバラごっこに付き合ってくださいよ」


「うるさいっ! うるさいっ!!」


せっかく僕の方からご機嫌伺きげんうかがいのご挨拶あいさつをかまして、にこやかに会話を楽しもうと思ったのに……先方のご機嫌は、めちゃくちゃ斜めに傾いているらしい。


刺股さすまたをグッと構えて挨拶あいさつしても、先方あちらからすれば失礼しちゃう行為かも知れないが。


困ったなぁと途方に暮れて見ていたら、神田川はふところから棒状の何かを取り出した。


スポッとかれ、打ち捨てられたのは小さな木製のさや


奴の手には果物ナイフの刃がギラリと光る。


あ〜あ、こんな危ないものまで持ち出しちゃって……僕のせいじゃないからね? 自分で持ち込んで、自分で出しちゃって、幼気いたいけな男子生徒を襲っちゃおうっていうんだからね、アンタ。自己責任なんだからね?


コイツの今後人生がどうなろうと……知〜らないっと。





 ブンブンと無造作に振り回される|果物ナイフ。


カンカンと高音を響かせながら、刺股さすまたで打ち払う。


軽くて頼りないと思っていたが……刺股さすまた君は、なかなか丈夫な武器だった。


相手から視線を外さずに立ち位置をずらす。


互いに睨み合いグルグル移動。


突き出されるナイフを避けながら、間合いをはかる。


“敵より  遠く、我には近く”……そんな言葉が心をよぎる。


ヒュンっと長柄ながえをしならせて、こちらからも攻撃だ。


僕だって、刺股が捕獲ほかく護身ごしん用なのは百も承知。


これでたたいたりなぐったりなど効果がイマイチなばかりか、本来ならば間違った使用法だろうが知るもんか。


ビュンビュン振り回して、ちゃっちい果物ナイフなど翻弄ほんろうしてくれるっ。


バシッっと奴の手元をたたみ、凶器を叩き落とすことに成功。


そのままブンッと方向転換、相手の顔面やら喉元のどもとねらって容赦なく突くべし突くべしっ。


最後はマニュアル通り胴体を壁にい付けた。


これぞ正しい刺股の使い方☆


えっと……危ないから、良い子は絶対真似しないでねっ。


お兄さんとの約束だよっ。





 チャンバラ合戦はそこで終了。


一階の廊下を西の端からズンズンドスドス突進してきた冨樫とがし先生が現れたからね。


途中の昇降口からは、警備会社のガタイの良い警備員さんたちも合流したようだ。


ゾロゾロとむさ苦しい男たちが大集合で、神田川も観念したようす。


「......っく そう。ナゼだ、あの鈍くさい春田が……どうして、あんな……」


だがしかし。警備員さんに捕獲されながら、ブツブツつぶいた神田川の台詞セリフに物申したいっ。


「あの、ちょっと。事あるごとに鈍くさいって言われるのは納得いかないんだよ。アンタの影響で、僕の学校でのイメージが鈍くさい系一色になっちゃって、すんごく迷惑してるんだよっ」


ここぞとばかりに撤回しろってギャンギャン文句を言ってやったさ。


今言っとかないと一生言えないって気がついたのさ。


僕の青春を返せっ。


神田川は、一瞬だけ鳩が豆鉄砲を食ったような顔になった。


そして直ぐにフンってそっぽを向いて、そのまま警備員さんたちに捕獲され連行されていった。


冨樫先生は無言で見てきただけだった。


その顔に、コイツ何で今更そんなことでがなり立ててるんだよって書いてあったけどね。


そうだけどねっ。


今更だけどもねっ。

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