『入道雲はどこまで』
1
今日はなんだか薄暗い。窓から入るお日様の光の明るさでわたしはその日の空に気分を悟る。
オレンジ色で暖かい光ならお空はご機嫌。青白くて冷たい光ならご機嫌斜め。だから今日は機嫌が悪いんだと思いなんだか寂しい気持ちになる。
だけどお空さんの事を思うとわたしなんかが寂しい気持ちになってるとお空さんに申し訳なく思っちゃう。だってあなた泣いているもの。しくしくとなく時もあれば赤ちゃんのように大声をあげて泣いている時もある。
けれど今日は大声をあげて泣いてはいないのね。あなたの事を見ずともわたしにはわかるの。なぜなら窓から泣き声が聞こえないもの。
さぁて今日はどんな顔をしているのかしら。お母さんにおはようと言う前に先にあなたに挨拶をしてあげるわ。
「…。」
わたしは勢いよく開けた白くて分厚い遮光カーテンをゆっくりと閉じた。シャラシャラとカーテンレースの音を立てながら。
「お母さんおはよう。」
「おはよう。あら、どうしたの、具合でも悪いの?」
「ううん。今日は一番ゆううつな日なの。お空さんが。」
「なんだまた空の話ね。そんなくだらない事言ってないで早く準備しないと学校遅刻しちゃうからね。てかあんたそんな憂鬱なんて言葉どこで覚えたのよ。」
「ゆううつなものはゆううつなの!」
そう、私は今日はゆううつなの。
なぜかって?それはお空さんのせい。お空さんが私をゆううつにしたの。
あなたは泣いていなかった。ただただにらみつけるように、薄暗く、奥の方に灰黒い表情を残しながらピカピカ光らせていたの。まるで俺を怒らせたら雷を落とすぞと言っているような感じ。
わたしは通学路を歩いている時、学校で授業を受けている時、お友達と楽しくお話をしている時、お家に帰ってからもあなたを怒らせてはいけないと常に顔色を伺いながら一日を過ごしたわ。
結局お空さんはその一度も怒らなかったの。少なくともわたしの前では怒らなかった。
ピカピカと常に目を光らせてはいたけれど、わたしがお利口にしていたおかげかしら。どこかの誰かはもしかしたら怒らせてしまって雷を落とさせてしまったかもね。
夜になってもお空さんは機嫌が悪く、お月様さえも一度も見せてくれる気配はなかった。
「明日はご機嫌かしら。」
お部屋の窓からあなたの事を見つめ、わたしはゆっくりとカーテンを閉めた。
シャラシャラ音を立てて。
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