第2話 そして主要人物の登場
「・・・というわけだ」
とても事態の状況の深刻さとは裏腹の軽い口調で、男は話し終えた。
「というわけだ、じゃないですよ。こんなに深刻な事をよくもそんな呑気に話せますね」ともう一人の男。
「俺が必死に喋っても事態は変わらんだろ。お前は感情で情報を推し量るような奴でもないしな。それに思っているよか楽観的でもねぇ」
ソファーに沈み込み今にも眠りそうにゆっくり目を閉じながら、屈強そうな男、ギルフォード・ライラスは変わらぬ軽い口調で言った。
「反応見ない前から勝手に決めつけないでください。とても深刻そうには見えませんよ、はいコーヒー」
カップを渡しながら、端正な顔は表情が無い様見えるが、テオ・クリムスも事態にそぐわない涼やかな声色で呼びかけコーヒーを渡す。
「それにしては楽しそうに見えるけどな」
「まあ、最近の王子の成人の儀の準備が退屈でした、とは大きな声では言えませんが」テオはやわざとらしい苦々しい顔になった。
「はは、相当だな。だってよ、ジジイがお前貸せってしつこかったんだよ。諸外国との折衝、成人の儀の調整、警備配置とかでさ」
「うちの団がやることじゃないですよ」
「まあな。でも成人の儀なんざ、うちの誰もやったことのないんだよ。戦時やら何やらで何十年かぶりだってんだからよ。だから祭事書にも明るいお前の知恵が必要だってのがジジイの言い草だったんだよ。これを機にお前を内務に移動させるいい機会にしようとしてんだろ。俺だって初めてだ。入隊から前線配備の立派な軍人だからよ。ま、俺はお呼びでないけどな。それこそ」
「僕も初めてですよ。毎日地味な作業や終わらない意味の無い会議、退屈の会話に飛び交う術数権謀、隊長を恨みましたよ。政治は嫌いです、内務なんてまっぴらですよ。あとダルトン様をジジイ呼ばわりも不穏当です」
「ははは、ジジイはジジイだろ。内務の件は、ジジイだけじゃなくてラーズなんかも動いているらしいぞ。初めての割には上手くこなしてるみたいじゃないか。噂になってるぞ。そのうち正式に任免されたりしてな」とコーヒーを流し込みながら楽しいそうにギルは笑う。
「僕はこの団以外どこにも行きませんよ。あなたが一番それをご存知でしょう。それに団では事務仕事を代わりにやっているのは僕ですよそれをお忘れなく」
「すまねぇ。冗談だ。お前があんまりやるもんだから、ラーズに嫌味言われてよ、からかっただけだ、そうだなどっちにせよ俺らの仕事じゃねえやな」と頭を下げ、顔だけ上げてニカッと笑った。良い笑顔だった。
「で、だ。3日3晩満身創痍で駆けてきたその騎士が言うには、甲冑を着た異形の者が襲ってきたと報告しているわけだ」
「それだけではなくその異形の者があまつさえ人語を解し、隊列を組んでいた。つまり知性を有しているようだった。
「トカゲだとさ。はは。そしてその一軍が塔を制圧した」
「ダルトン様はどの様に」
「儀式が控えてる、大規模な派兵は避けたい。しかし事態は深刻だ。まずはその塔を制圧したその一軍の情報取集とその後の可能なら速やかの排除」
やっとテオがギルフォードの方に向きなおる。
「それはつまりは・・・」
怒りの様な表情で嗤ってから言葉を引き取った。
「俺らの仕事だ」
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