ファンタロイド
メル
第1話 発端(プロローグ)
砂嵐は荒れる度に目の前の景色を刻々と変えてゆく。
豪風は砂の山を一瞬毎に削り取り、丘は谷になり、行き止まりは道になり、その自然の造形力は人の想像をははるかに超える。
見渡す限りの砂漠に荒れ狂う暴風は屈強で鉄の意志を持った王国騎士のユバルの意思も削りとってゆくかのようだ。
昨晩までの涼やかな月夜が嘘の様な暴風。これから起こる事の、始まりであるかの様に荒れ狂い、この暴風に乗せて世界へ事態の深刻さを伝えに行くかの様にも思える。
哨戒用漠船は想定外の砂嵐に途中で壊れて徒歩を容儀なくされた。他に何艇も出たのに影すら見えないのは、考えたくない事だった。
やっと見つけた岩場で少し身を休めていたユバルの意思に少し緩みが走る。ここでそのまま嵐が行き過ぎるのを待って出発しても、時間は少しの遅れにしかならない。確かにこの危急の事態を一刻も早く知らせしなければと思うのだが、荒れ狂う嵐を前に竦んでしまう。自分に何かあればこの事態が発覚するのは先になる。それよりは嵐の去るのを待つのも手ではある。しかし、とユバルは思いなおす。この嵐がこれから始まる大事の始まりならば、この嵐は去る事はないだろうし、もっと大きくなるだろう。
何があろうと一刻も早くこの事態を伝えなければ。
ユバルは意を決し、口を一文字に締め直し、目に意志の光を宿り直した。
不確かな形がない世界にまた足を踏み出してゆく。
ユバルが騎士を目指したのは父の影響だった。どこであろうと何事にも動じない父だった。ユバルの幼い頃に仕事の話を良くしてくれた。
それを良く理解できない幼いユバルの頭を撫でながら、塩辛い笑顔を向けてくれた。ユバルはその笑顔がとても好きだった。そしたユバルも騎士になろうと決めた。
ユバルは思いを巡らす、王国の行く末、仲間や母や妻の事、娘の小さな手を、そして寡黙で立派な王国騎士だった父を思い出し歩き続ける、そのうち何も考えなくなった。
厳しい砂嵐は止まる事を知らない。しかしユバルはしっかりとした足取りで進む。 そして進む。
ユバルには前を行く、憧れた父の大きな背中が見えていた。
刻々と猛烈な力で砂漠を削りだしていく嵐さえも、小さく思えるその事態はゆっくりではあるが確実に動き出した。
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