第4話 足りないモノを見抜くこと
「
屋敷の主たる『
その一部屋。
部屋にある無数の本棚。そこに隙間なく埋められている本。
その量はその者の知識を示していた。
この学者と劉備が出会ったことは偶然ではなく、運命と言えるだろう。
この運命を利用しない手はない。
招かれた部屋にて、劉備は水鏡に現状を相談して、状況を打破する答えを求めた。
すると、流石は高名なる水鏡先生、彼は即座に答えを出した。
「人に恵まれていない」
聞き捨てならない言葉だと劉備は思った。
関羽、張飛、
今の自分にとっては十分すぎる程の人材が揃っていると思っていた。
※趙雲は関羽千里行の後、劉備を慕って彼の配下に加わりました。
執筆していなかったので、ここで補足させて頂きます。ご了承願います。
しかしだ。
水鏡はそれを一笑したのである。
すかさず劉備が彼らを「素晴らしき武人たち」と庇うと、水鏡は指で彼の言を制して
「だから天機を逃している」
「力だけで世の中は動いていない」
「部下を愛する情だけでは貴公は君主失格でしょう」
痛烈である。
劉備も曹操と同様に人の才を愛しており、そしてその才を見抜く力があると自負していた。
ところが、見えていなかった。全くもって見抜けていなかったのである。
そこを鋭く指摘されたのだ。
水鏡の弁は続く。
「関羽、張飛、趙雲・・・彼らが一騎当千の武人であることは否定しません」
「しかし」
「この激動の世の中を臨機応変に立ち向かえる者たちではない」
「そういう人物がいないから・・・あなたはいつも勝てないのです」
聞いて劉備は思う。
(・・・理想だ)
水鏡先生の教えは理解できる。
しかし、そのような人物が世の中にいるとは到底思えなかった。
ましてや、この地に、この野に天下を動かせる人物がいるはずがないと思えた。
ところがだ、
「いますよ。しかも二人」
水鏡の立てた二本の指が劉備の目に映った。
「『
「その二人のどちらかを得られれば、天下は獲れるでしょう」
とても信じられなかった。
天下広しといえども、その才には限りがある。
如何に才があろうとも、人が出来ることには限りがある。
『天下を動かす才はない』
劉備はそのように決めつけていたのかもれない。
しかしだ。高名なる水鏡先生の論弁を聞いて、その望みを、そして希望を持ち始めていた。
「先生・・・ご教授ありがとうございました」
教えを請うた劉備は水鏡に深々と頭を下げた。
それを見て、水鏡は締めの言葉を吐いた。それは常日頃より彼がよく言う口癖だった。
「
それは互いの立場を考えれば、ありえない光景だったのかも知れない。
しかし、いつの世も忘れてはいけない。
『礼』が無ければ『義』はついてこないということを。
頭を下げて感謝の意を示した劉備に、水鏡は一つのプレゼントをするのであった。
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