空間固定の魔法
「魔法使いらしいクリスマスパーティーってどんなのだろう……?」
元々、魔法使いらしい(宗教色の薄い)クリスマスパーティーをしたいと考えたきっかけはシャルローゼさんの生い立ちである。
「そうですね……。うーん……? クリスマスの飾りが魔法で浮いていたり?」
「あー。霊魂珠がもっとたくさんあれば実現できそうだけど……って感じだな」
「アストロフォールに帰ったら、霊魂珠を探してみます! 他には……クリスマスケーキが魔法で運ばれてきたりとか? 日本の仏教説話にそんな話、ありませんでしたっけ?」
仏教説話。ざっくり言うと、僧侶が超常的なことを成し遂げた話や、悪人に罰があたったりするタイプの古典文学の事である。
「確か、中国に修行に行った僧侶が『え? お前、お皿を念力で飛ばせないの? ザッコwww』とバカにされて、それに対抗すべく『日本の神通力を見せてやる!』って話がありましたね」
当時は「えらいお坊さんは神通力が使えるのか!」と思われていたのかもしれないが、現代人からすると「超常的な能力なんてあるわけないじゃん」というツッコミが入るだろう。
と今までは思っていたが、陰陽術や魔法の存在を知ってしまった俺は「昔の人は魔法を使っていたんだろうなあ……」と思うようになっている。
「そうそう! そんな話でした! それを始めて読んだ時は、『昔からざまあ系は人気だったんだ~!』と驚いちゃいましたよ」
「あはは……。確かに? でも、それを言うならシンデレラとかもざまあ系なのでは?」
「なるほど。確かにそうですね! 私もかぼちゃの馬車に乗ってみたいです……」
「『お姫様になりたい』ではなく、『かぼちゃの馬車に乗ってみたい』……」
「あー、その、何と言うか……。元々、お姫様みたいなものですし……」
「確かに!」
流石、アストロフォールの
「魔法で再現できませんかね? かぼちゃの馬車」
「うーん。そういえば、植物を圧縮加工すれば、鋼鉄よりも硬くて軽い素材が出来ると聞いたことが。そう言う意味では、かぼちゃの馬車も実現可能……?」
「かぼちゃを何百個も集めたら、可能かもですね!」
俺達が使う魔法は、(ある程度)科学法則に縛られている。かぼちゃ×100を加工して馬車を作る事は出来ても、かぼちゃ1個を馬車にはできない。質量保存の法則だな。
「そう考えたら、ネズミを馬に変える魔法ってヤバいよな……。生命倫理的にアウト……」
「ですね。クローン動物すら禁止されていますものね」
◆
「それはともかく、クリスマスパーティーの話でしたよね。日本ではどんな感じで祝うんでしょう? プレゼント交換と……あとは……?」
「豪華な料理を食べて。ケーキを食べて。ゲームして。って感じかな?」
「なるほど、なるほど。ゲーム……。ビデオゲームですか? トランプゲーム?」
「ボードゲームが多いかな。頭を使う系のゲームが沢山あってさ。親が知育玩具に凝ってた時期があって、それで」
「チイクガング?」
「知識を育成するおもちゃって書いて知育玩具。頭の体操になるおもちゃって意味かな」
「ほえ~。知らなかったです……。やっぱり、留学してみると、知らない表現を色々学べますね!」
知育玩具。確かに、普段使いはしない単語だよな。
「シャルローゼさんはビデオゲームとかってするの?」
「時々遊びますね。むしろ、ボードゲームはあまり遊んだことがないです」
「そうなんだ! じゃあ、パーティーの時は、みんなで遊んでみようか!」
お嬢様だからと言って、「ビデオゲームのような俗っぽい物で遊んではいけません」のような教育を受けている訳ではないようだ。
◆
家に帰った俺は、霊魂珠を手に取った。シャルローゼさんが言った「魔法で宙に浮く飾り」という物を再現してみようと思ったからだ。まずは、S字フックを宙に浮かせてみようか
「えーと。『空間固定』」
S字フックが部屋の中心から動かないようにイメージする。重力を無効化しても、風にあおられたら動いてしまうだろう。だから、仮に風が吹こうとも、仮に人間がぶつかろうとも、部屋の中心にピン止めされているかのように振舞うようイメージしたのだ。
霊魂珠は俺が抱いたイメージを吸収し、魔法を発揮した。想像した通り、空中に浮かんでいる。
「えい!」
指でつついてみる。しかし、全く動く気配が無い。成功だな。
「自分でやって言うのもなんだが、気持ち悪いな……」
例えば、物を見えないくらい細い糸で吊り下げた場合、それは浮かんで見える。しかし、指で触ると振り子のようにぶらぶらと揺れてしまい、糸の存在がバレてしまう。
しかし、S字フックが空中に固定されているのは魔法の為。当然糸で吊るしている訳じゃないので、指でつついても振れる事は無い。
その様子があまりにも非日常的であり、気持ち悪さを覚えたのだった。
「どれくらいの重さまで耐えれるだろ?」
中身を空にした学校の鞄を吊り下げてみる。びくともしない。
教科書を一冊ずつ追加していくが、余裕で耐えているように見える。
「もしかして、俺がぶら下がっても平気だったり?」
恐る恐る、フックにぶら下がってみる。結果は……
「おお! 空中に浮いてる!」
流石、魔法。俺の体重をかけても、びくともしなかった。
「それなら、こんな事も出来たり……」
俺は、次なる命令を霊魂珠に込めた。その命令とは……。
◆
「ただいまーー! 和也? なにやってるんだ?」
「やっほ、姉さん。どう?」
「……支柱の無い鉄棒か?」
「そうそう! 霊魂珠に『鉄の棒を空中に固定せよ』って魔法を込めたんだ! 面白くない?」
「ははは、確かに面白いな。スッゲー違和感あるぞ。動画、撮ってやろうか?」
「お願い」
「……はい、撮れたぞ。面白い動画が取れたよ」
「共有しといてくれる?」
「ああ、勿論」
「それにしても、暑いなあ……。冬とは言え、運動したら汗びっしょりだよ……。ちょっと気温を下げていいか?」
鉄棒にもたれかかりながら、俺は言う。暖房魔法で部屋の気温を上げていたのだが、今となっては暑すぎるよ。
「ああ、別にいいけど……いや待った!」
「『冷却』! え?」
姉さんの静止が俺の耳に届く前に、俺は魔法を使用。強く願った俺の思いは、傍にあった霊魂珠に吸い込まれ……。
「へぶ!」
鉄棒を空中に固定していた魔法が上書きされてしまった。もたれかかっていた物が急になくなり、俺はひっくり返ってしまう。
「だから止めたのに……。大丈夫か? 怪我はないか?」
「あ痛たたたた……。大丈夫、ありがと姉さん」
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