クリスマス編

クリスマスシーズン

 文化祭が終わり、それから一か月以上過ぎた。そして、12月中旬。町にはイルミネーションが輝いており、テレビではクリスマス特集が連日のように取り上げられ、日本全国が「クリスマスだ、ひゃっほぅ!」みたいな空気になっている。


 そして俺達にとっては、二学期の期末考査の試験結果が返って来る時期である。幸い、うちのクラスは真面目な人が多いから、ヤバいことになっている人は……


「ぎゃああーー! 赤点取っちまった……!!」

「一点差でアウト……だと? た、先生に土下座すれば許してくれねーかな?」

「お前らまだまだだな。俺は一点差で赤点回避だぜ」

「ふ。俺なんて55点、赤点よりも15点上だぞ! やっぱり、賢い方が女子にモテそうと思ってな」

「「「す、すげーー!」」」


 いた。一ノ瀬とその仲間たちだ。一ノ瀬は赤点を回避したようだが、55点は普通に悪い方だ。何せクラス平均点は73点のテストだ。赤点を取らないのが当たり前の試験である。


 勿論、平均以下が居るのだから、平均以上もいる。


「萩原は? どうだった?」


「満点だ。ふふ、やったぜ! 暁は?」


 流石学年トップの男。当然のように満点を取っている。


「91だ。俺的には良かった方かな?」


「ふむ。どこを間違えたんだ?」


「色々。大問一の正誤問題で5点落として、最後の問題の『姉川の戦い』をド忘れして4点落とした」


「ああ……。いやらしい問題だよな」


「ホントそうだよ!」


 そう。俺が落とした正誤問題は

*****

A:○○である

B:△△である


1:両方とも誤り

2:Aのみ正しい

3:Bのみ正しい

4:両方とも正しい

*****

 という形式の問題だったのだ。


 これ、嫌じゃない? 少なくとも、今学生の人なら100人中95人は同意してくれると思う。片方分かっていても、部分点がもらえない形式なのだ。ほんと、嫌になる。


「まあ、ドンマイとしか言えんな」


「くそ、次こそは……。とも思わんな。もう、これ以上は望まないよ」


「別にそれでも良いと思うぞ。推薦狙うなら話は変わってくるだろうけど」


「そう言う萩原は推薦狙ってるのか?」


「会長が進学した大学へ行こうと思ってる!」


「……あそ。そうだよ、生徒会長さんとの関係はどうなんだ? いい感じなのか?」


「うーん。良いとは思うが……。仲はいいんだけどさ。でも、付き合うってのはハードルが高いだろ?」


「うんうん。そうだな。知らんけど」


「それに、俺はお付き合いするなら、結婚まで視野に入れたいんだ。生半可な気持ちで付き合って、お互いに黒歴史が残るのは良くないだろ?」


「なるほど。それは確かに分かるような気がする」


 同窓会で「そういやお前、○○と付き合ってたな! 今は?」「もう別れたよ」「あ、ごめん」みたいな空気になるのは、辛いだろうな。


「先に御両親に挨拶すべきだと思うか? 付き合った後に、ご両親に報告したら、トラブルが発生する可能性もあるだろ?」


「うーむ……。今時、そんなことあるのかな? 相当の名家でもない限り、子供の恋愛に親が口出しする事は無いと思うけど……。さっきからこっちを見てる福原はどう思う?」


 女子側の意見も大事だろう。という訳で、近くにいた女子に話を振ってみる。


「ああ、ごめん。盗み聞きしちゃって。えーと……どうだろ? 萩原君と会長さんなら大丈夫じゃない? 家柄も同じくらいだし、成績も同じくらいだし」


「うーむ。だがなあ……」


「萩原は凄いな、そこまで真剣に誰かの事を思えるなんて」

「うんうん。そこまで人を想えるっていいよね」


「俺も、こんな気持ちになったのは初めてだから、正直自分でも驚いてる」


 そんな風に言う萩原を見ていて、俺はふと良い事を思いついた。


「せっかく12月なんだし、クリスマスデートに誘ってみたら?」


「え? 付き合っても無いのにデートっておかしくないか?」


「そうか?」


 萩原と俺は福原の方を見る。


「別に『デート→お付き合い』も『お付き合い→デート』も問題ないと思うわよ?」


「そうなのか。で、でも、クリスマスデートに誘うとか、どうやるんだ……?」


「普通に、『クリスマス、一緒に出掛けませんか?』とか言えばいいんじゃないか?」

「うんうん。もしくは、『どこどこのイルミネーション、綺麗らしいのですが、一緒に見に行きません?』とか」


「そ、そんなハードルの高い事を言えと……?」


 萩原が珍しくアワワワとしている。いつも冷静な人が慌てている様子って、ちょっと不思議な光景だな。



「かず兄~。テスト、どうだった?」


 とそこへ紗也が乱入。点数の見せあいっこをしてから(ちなみに、紗也は87点だった)、話の続きをする。


「暁さん的にはどう思う? クリスマスデートって」


「うーん。分からないなあ……。でも、クリスマスに予定が入ってるって、ちょっと憧れるかも! いいんじゃない? 頑張って誘いなよ!」


「むむむ……。ま、前向きに検討しようと思う……」


「「「ガンバ!」」」



「クリスマスに予定……か。そういえば、昔は一緒にクリスマスパーティーをしたな」


 思い出すのは小学生の頃。俺の家に紗也も来て、姉さんも一緒になって子供三人で遊んだっけ?


「なっつかしーー! 料理食べて、ケーキ食べて、ゲームして。次の日から冬休みなのを良い事に、夜更かしして!」


「そうそう! 今年も開きたいな……どうだろ?」


「良いと思う!」


 こうして、実に数年ぶりに、俺達はクリスマスパーティーを開くことにしたのだった。



萩原「なるほど、あれが自然な誘い方なのか」

福原「あれは参考にならないわ」






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