シャルローゼさんの日記2

◆Side シャルローゼ


 外国人である私たちにとって、日本の高校には不思議な制度が沢山あります。アニメでしか見た事が無かったそれらを直に見れて非常に興味深く感じています。


 一つ目は生徒会制度。よく、日本のアニメでは「生徒会」という物が出てきます。学生の考えを重んじて運営を行う高校はアストロフォールにもあります。ですがそれも、結局は「学生からこのような意見が出ました」という報告を受けた先生が、方針を決めます。最終決定権は先生にあります。ですが、アニメに出てくる「生徒会」は先生と対等、あるいはそれ以上の権力を持っており、学校の運営に大きな影響を与えています。クラブの予算決定や、修学旅行の行き先、その他様々な事を決定しているのです。


 私が留学する予定の学校にも「生徒会」があると知り、わくわくしていたのですが……実際にはそこまでの権限は無かったです。ちょっと残念です。

 でも、生徒会という物はちゃんと実在し、様々な業務を行っていました。権限は強くない物の、楽しい学園生活や学校の発展に貢献している所を見させてもらいました。

 例えば、修学旅行のパンフレット(日本では『しおり』と呼ぶそうです)の製作を行っていました。美術部などの力も借りつつ、見事な「しおり」を作っていました。また、過去には先生と交渉し、お小遣いの上限を上げようと嘆願したこともあったそうです。

 それから、とある学校行事を取り仕切る役割もありました。その学校行事とは「文化祭」、二つ目の日本の不思議な物です。


 日本には文化祭という物があるそうで、アニメでもその様子が描かれていました。ですが、肝心の文化祭の内容は、よく分かっていませんでした。学校内で何かを売ったり、劇をしたり、踊ったりしているのですが、「結局何をしているのだろう? まあ、パーティーのような物なのかな?」と思っていました。


 そして、その文化祭が昨日と今日で行われました。すごく、すごく楽しかったです! 是非、アストロフォールの中学校、高校でも文化祭を開催すべきと考えました。


 文化祭は、開催の数か月前から準備が始まります。友達が言うには文化祭とは「クラス毎に何かをして、どのクラスが一番面白い物だったかを競う物」だそうで、その内容は劇・ダンス・露店・ポスター発表など何でもよいそうです。「そんなバラバラな出し物で、どうやって面白さを競うの?」と聞いてみると「雰囲気で? あえて言うなら、どれだけ努力してそうか、かな?」と返されました。正直、この時点では、彼女の言っている意味が分かりませんでした。面白さ結果を競うのに、努力過程が指標になる。意味が分かりません。


 さて、私達のクラスなのですが、劇をすることになりました。仲良くなった暁君という男の子が調べた古典文学を、演劇部の人が台本にして、それを私が英訳しました。英語で劇をするのだそうです。

 また、小規模ですが露店も行う事にしました。そこでは手作りのハンカチ(手ぬぐいと呼ばれていました)やアクセサリーを販売する事になりました。


 英語で書かれた台本を暗記するのに、役者たちは大変苦労していました。なかなか覚えられずに、何度も何度も言いよどんだり、言い間違えたりしました。発音も、何度も注意しました。

 その度に、役者の子達は、恥ずかしそうにしつつも笑顔を向けました。「しまった~! 次は間違えないようにするぞ!」と。時には弱音を吐く人も居ましたが、彼も最後まであきらめずに、必死で努力していました。


 そうして徐々に私たちの劇が仕上がっていきました。(発音が下手だとは言え)ほぼ完に劇として仕上がり、後は当日を待つだけとなりました。



 いよいよ、文化祭の一日目になりました。私達の劇は午後からなので、午前中は他のクラスを見る事になりました。仲のいい友達と一緒に色々見る事になりました。

 その中で、奇妙な露店を見かけました。赤をベースカラーとした露店が沢山並んでいて、様々な遊びが出来るようです。「縁日」を再現したものだそうです。縁日とは、祭事の日に神社などの前に出来る屋台だそうで、神社を訪れる参拝客を楽しませるものだそうです。

 その中に、奇妙な物がありました。子供用のプールです。プールには何やら小さな球体が沢山浮かんでいました。


「へいらっしゃい! あー。Hello? Japanese OK?」


「はい、日本語で大丈夫ですが……。へいらーしゃいとはどこかの方言ですか?」


「えーと……。『はい、いらっしゃいませ』が短くなったもの……かな?」


「なるほど、歓迎の言葉なのですね」


「そうですね。スーパーボールすくい、やっていきますか?」


「スーパー? ……えっと?」


 友達が実践しながらスーパーボールすくいという物を教えてくれました。水に浮かんでいるボールを、ポイという網ですくうゲームだそうです。


「簡単そうに見えるけど、難しいのよ……それ!」


 友達が一つボールをすくいました。ポイに張ってある紙で出来た網が濡れてしまいます。


「もう一つ……。ああ、破けちゃった!」


 濡れてしまった紙は直ぐに破けてしまいます。なるほど、いかに破かずにボールをすくうかというゲームなのですね!


 私もチャレンジしましたが、二つしか取れませんでした。その二つのボールはお土産に頂きました。良く跳ねるボールは子供に大人気のおもちゃだそうです。家に帰ってから思い切り投げると、良く弾んで面白かったです。



 他にも様々な遊びをしていると、いつの間にか午後になっていました。

 私たちは劇の準備に取り掛かります。



 劇が始まる直前、クラスのリーダーが言いました。


「今まで、みんなよく頑張ってくれた! 今日と明日、その成果を発揮する事になる。俺自身緊張しているし、みんなも緊張していると思う。今までの努力を自分のミスで水の泡にしてしまわないか、と思って不安になる人もいるだろう。もちろん、誰かが失敗しても、その人を責めるような人はこのクラスにはいないと思うが、それでも失敗してしまった本人は責任を感じてしまうかもしれない。だから、最後に俺から大切なことを伝えておきたい。それは『一番楽しんだ人が優勝者だ』という事だ。俺は生徒会の人間として、色々なクラスを見てきたが、このクラスは『どのクラスよりも文化祭の準備を楽しんでいた』と思う。どのクラスよりも沢山努力し、どのクラスよりも準備に励み、そしてどのクラスよりも笑っていたと思う。もうこの時点で、俺達は優勝だと思う。最後まで笑うぞ! 最後まで楽しむぞ!」


 彼の言葉で、私は納得しました。「面白さ結果を競うのに、努力過程が指標になる」という一見矛盾した言葉の意味が。

 面白さは決してその結果だけに宿る物ではありません。「どれだけそのクラスが努力したのか」という過程にも面白さが宿るのです。私達のクラスは、準備の過程で沢山の笑いを生んでいました。その過程は、観客の皆様に知られることはありませんが、確かに私たちの心の中に残っています。



 一日目が終わり、二日目の公演も終わり、そしていよいよ閉会式。

 生徒会長の口から、今年の一番面白かった出し物、つまり優勝が発表されました。


「今年の優勝は……『英語で見る古典文学』だ! 優勝したクラスに盛大な拍手を!」






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