家族旅行
旅行は準備から楽しもう
七月中旬に差し掛かった。もう一学期の期末試験は終わっていて、夏休みを待つのみである。
さて、俺たち一家の恒例行事として、「夏の家族旅行」という物がある。暁家一同で一週間ほどの旅行に出かけるのだ。今年は、七月の最終週で海へ旅行に行くことになっている。
そこで、俺達は旅行の準備をしていた。旅行というのは、準備期間から楽しむ物だと俺は思っている。姉さんと紗也も交えて、通販で旅行先で欲しいグッズを見繕う。
「今年は海よね? 水着はもちろん、海で遊べるおもちゃも欲しいわね! 浮き輪にビーチボール」
「あとは、
「浮き輪・ビーチボール。あと一つなんて言った?」
「
「オッケー、りょかりょか」
姉さんはネット通販のサイト『アマゾネス』を使っていい感じの商品を見繕っていく。
「浮き輪は背もたれとか欲しい? トーラス型でいいか?」
「値段はどれくらい変わってくる?」
「そんなに差はないかな」
「俺は何でもいいぞ。紗也は?」
「私もどっちでもいいわ。ボディボートも買うのよね? 寝そべるのはそっちですれば良いし、浮き輪はシンプルなのでいいんじゃない?」
「分かったわ。色はどうする? 私は水色にしようと思ってるのだが……」
「私、ピンクがいい!」
「俺は青色でお願い」
「りょーかい」
「ビーチボールはこれでいいか?」
姉さんが指さしたのは、赤・緑・青の三色で塗られたオーソドックスなビーチボール。
「良いと思う」「左に同じく」
「オッケー」
「いかだは色々あるなあ! ただ平べったいのから、天井があるタイプ。大きさも色々。どれがいいかな?」
画面をスクロールさせながら姉さんは俺たちの方を向く。
「私達三人+大人二人が乗れるサイズは欲しいわね」
「そんなに広い必要あるか? 大人勢は浜でのんびりしてそうだけど……」
「まあ……確かに。私達三人が乗れるサイズってなると、どのくらいの値段になる?」
「ちょい待ち……これとか、これとかかな? \10000かあ」
「う! 結構するもんだな……」
「まあ、いいや! せっかくの機会だし、これ買っちゃおう!」
「「いいの?!」」
「いいの、いいの。大学生らしく、ぱあっと買ってやるよ!」
「「おおーー!」」
「サップか。これ、どう思う?」
「これを買った人はこんな商品も買っています」に誘導され、姉さんはサップに興味を示した。サップとは、大きめの板の上に立って水上を移動するスポーツである。確かに、出来たら面白そうだと思う。だけど……
「姉さんがサップ? バランス取り損なってこける未来がはっきり見えるんだが?」
運動神経の悪い姉さんには向いていないと思う。
「いや、私はしないよ。私は和也がこける無様な姿を見る役だ」
「どういう役割だよ、それ」
「うーん。私、興味あるかも。一緒にやってみようよ!」
なんとここで、紗也がサップに興味を示した。マジか、紗也ってチャレンジャーだな!!
「ほう。紗也がやるなら、俺もチャレンジしたいな」
「勿論、慧姉もチャレンジだよ!」
「むう……。まあ、一人だけ浮き輪ってのもどうかと思うし……」
「決まりね! 初心者用の道具を購入しましょ!」
「あとはなんだろ? うーん」
夏、海、遊びなんかのキーワードで検索する。特集記事に目を通していると、色々面白そうなものが目に入る。
「サブウィングって知ってる? こんなやつなんだけど」
「それどれ。へえ! 面白そうなスポーツね! でも、絶対難しいよ」
「私にも見せてくれ。うーむ。難しそうだな」
「確かに、数日で習得できる物でも無さそうか。じゃあ、無しで」
「だが、水中を自由に動き回れるってのは楽しそうだな。いい感じの道具を作ってみようか?」
「道具が無くても、魔法でどうにかなるんじゃないかな? ほら、水操作を使ってジェット噴射を再現する……とか」
「「なるほど、確かに」」
「そう考えたら、水鉄砲も要らないわね。二年前に買った『高威力水鉄砲』、今年はお留守番ね」
「「だな」」
「ビーチコーミングか。これもいいかも」
「「何それ?」」
「漂着物を集める事だって。いわゆる『綺麗な貝殻集め』みたいなやつだ」
「それ良いわね。SNS映えしそう」
「なるほど、標本を作るって事か。遊び疲れた後、海岸沿いでそういうのをするのは楽しいかもな!」
「そのためにも、図鑑を持っていきたいな」
「そうだな。海洋生物は私の専門外だからなあ」
専門外って……。確かに、姉さんは生物にもかなり詳しく、一般常識以上の知識を有している。だけど、流石に貝殻を見て「これは○○だな」と判断はできないようだ。
SNS映えといえば……
「星の砂とか集めれないかな?」
「いいわね……! でも、私達が行くのは静岡でしょ? 星の砂って南国にしかないわよね?」
「それもそっか」
「でも、星の砂って綺麗よね……。実は今、女子の間で流行ってるのよーー!」
「へぇーー。前に星の砂入りのストラップを買ってたのはそう言う事だったのか」
「まあねーー。うちのクラスの女子だと、8割は持ってると思うわよ」
「マジか。ちなみに、姉さんは?」
お洒落にあまり興味を示さない姉さんだが、果たして……?
「私か? 私は別に興味ないなあ。有孔虫の殻に魅力を感じる感性を私は持ち合わせていなくてなあ」
「「有孔虫……」」
確かにそうだけれども! 言い方ぁ!
「他に必要な物って何だろ? バーベキュー用の道具は祖父ちゃんが買ってくれるって話だよな?」
「そう言っていたな。うーん、海でする遊びねぇ……」
「釣りは?」
「わざわざビーチを貸し切りにしてるのに、釣りはもったいなくないか?」
「それもそうね。釣りならどこでも出来るし」
祖父ちゃんは、砂浜を1週間貸し切りに出来るツアーを申し込んでいるらしい。人が居ないビーチで遊ぶなどなかなか出来ない機会だ。時間は有効活用したい。
「地引網とかどうだ? 釣りよりも効率的に魚介類を捕まえられるぞ」
「地引網! いいわね!」
「ふーむ。買えるのかな? 最悪、私が作ってもいいが……」
「じゃあ、姉さんに任せるね。買うなり作るなりして」
「任された」
「私、自撮り棒を持っていきたいわ! ビーチをバックに写真撮りたい!」
「いいね! 俺も使いたい!」
「小型ドローンがあるが、それじゃあ駄目なのか?」
「「……それで大丈夫」」
その後、地引網は漁業権が無いと出来ない事を知った。非常に残念である。
◆
ネット通販で買うべき、遊び道具はこんなものだろう。
なお、水着は、明日みんなで見に行くことになっている。女性二人(一人は姉だが)の水着……。実に楽しみである!(←お巡りさん、こいつです)
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