水着を選ぼう1
「駐車場がいっぱいだ……。二人、先行ってるか?」
「いや、どうせ慧姉とは合流しなくちゃだし、このままで。かず兄もそれでいいよね?」
「もちろん。しっかし、休日のショッピングモールはの混雑具合は半端じゃないなあ……」
家族旅行に備えて、水着を新調しに来た俺たち一行。だが、ショッピングモールに入る前の段階で、困難に直面してしまった。偶然、団体さんが出て行ってくれたりしないかなあ……。
結局、車を止める事が出来たのは15分ほど経ってからだった。目の前で1台分だけスペースが空いたときの感動と言ったらもう、筆舌に尽くしがたい物がある。それは言い過ぎか。
さて、女の子の買い物は長いと良く耳にする。覚悟して臨む事にしよう。
◆
「なあ、もう何でもいいから早く帰ろーよー」
真っ先に根を上げたのは俺ではなく姉さんだった。俺もまだ満足してないんですけど!
「ちょっと待って、まだ俺も決めれてないんだぞ? 姉さんは、もう決まったのか?」
「私は向こうで売ってる無地のやつ!」
「……まさかとは思うけど、競泳水着を指してる?」
「そうそう! シンプル・イズ・ベストだろ?」
競泳水着は競泳水着で、一部の人は喜びそうだな。健康的な雰囲気に魅力を感じたり?そう考えると競泳水着もいいかも?……うわぁ。自分で言うのもなんだが、ドン引きな発想だわ。
「せっかくだし、もっと可愛い水着、選べよ……。おーい、紗也ーー! ちょっといい?」
「どうかした?」
「姉さんが、『私はシンプルな競泳水着で』なんて言うからさ……。いい水着、見繕ってやってくれない?」
「慧姉……。せっかく遊びに行くんだし、競泳水着は辞めようよ! 任せて、慧姉にぴったりなのを探すわ!」
「どーせ、可愛く着飾っても、私を見る人は居ないんだし……ってわわわ。引っ張らないで!」
「かず兄が見てくれるって!」
「和也に可愛いって思われても意味ないじゃんーー……」
二人は遠ざかって行った。
さて、俺もいい感じの水着を探そうかね。
「うーむ。男性用の水着なんて大して種類無いだろって思ってたけど、誤算だったか。色々あって悩む!」
まず目についたのはハワイアンな柄の水着。ハイビスカスとヤシの木がプリントされている。ちょっとこれは目立ちすぎるかな?一応、候補に入れておく。
次に目についたのは、水色の背景に白色のラインが入った水着。さっきの水着を見たからか、この水着は非常にシンプルに見える。候補に入れておこうかな。
紺色から水色になるグラデーションが付いた水着。模様は入っていない。だが、グラデーションが映えているため十分お洒落だと思う。三つ目の候補である。
紺色の背景に、赤と黄色のラインが描かれた水着。シンプルではあるが、アクセントがいい味を出しており、地味という訳ではない。
紗也に相談してみようかな。俺一人では決めきれないや。
◆
「あ、紗也! ちょっといいか?」
「かず兄? どうかした?」
「水着、どんなのがいいかちょっと悩んでて。後で相談に乗って欲しいんだ」
「分かったわ! 私に任せて!」
「姉さんは?」
「向こうの試着室。可愛いの見つかったから、今はサイズを確かめてるとこ」
「なるほど。俺が見に行くのはまずいよな? 俺は向こうで待ってるよ」
女性ものの水着売り場に俺が入っていくのは気が引ける。姉さんの水着は紗也に一任して、俺は退散するとするか。
「別に不味くないんじゃない? ほら、あの人とか」
紗也が指した方を見る。試着室の前で、男性が水着の感想を言っている。中にいるのは恋人だろうか。彼女の水着を選んでいるのか。
「リア充め……! 羨ましくなんてないんだからな!」
「なにそのエセツンデレみたいな発言? でも、確かにあそこまで仲良くしてるのを見ると、ちょっと羨ましくなるよね……。それはともかく、慧姉の様子、見に行きましょ!」
「ああ」
「慧姉? 試着できた?」
「あ、ああ。だけど、ムリ、ムリムリムリムリ! この格好は恥ずかしすぎるよぅ!」
「ビキニの中では布面積が広いタイプじゃない。 開けるよ?」
「う、うん」
「いいじゃない! サイズもぴったり!!」
姉さんが身に着けていたのは水色の布地に白いフリルが付いた水着だった。確かに、布面積は広く、初心者にはいいかもしれない。
「で、でも……。この姿を和也に見られると思うと、ちょっと……。こんな風にお腹を晒す格好には慣れてないから……。って和也?! なんでここにいるの!!」
「紗也に案内されて。いいじゃないか。スゲー可愛いじゃん!」
「はうううう! あんまり見ないでえ……」
姉さんは真っ赤になった顔を両手で覆う。なんか、恥ずかしがられると、俺まで照れてくるんだが?
「というか、姉さん。風呂上がりの格好を見られてもあんまり恥ずかしがらないじゃないか? なんで水着で恥ずかしがるんだよ?」
「それとこれとはちょっと違うじゃない……。こういう水着姿を異性に見せるのって……なんていうか……誘ってるみたいで恥ずかしいの!」
「大丈夫。姉さんをエロい目で見るほど落ちてない。今の所」
「何、最後の一言! 今後はあるって事?!」
「かず兄……。流石にそれはドン引きだよ……」
「待ってくれ! ないない! 無いから! 今のは言葉の綾でして!!」
「和也をからかうのは、このくらいにして。なあ、紗也。ほんとにこれを買うのか? やっぱり恥ずかしいよう」
「確かに、ここだと恥ずかしいかもだけど、海に行ったら案外恥ずかしくもないよ! 心配ない。サイズもぴったりだし、買っちゃいましょ!」
「う、うん……」
◆
「次はかず兄の番ね! どれか候補はあるの?」
「今の所、この4つかな」
「なるほど……。派手な物からシンプルなものまであるわね……」
「似合わないかな?」
「うーん。かず兄は身長ある方だし、スタイルもいい。顔は分かんないけど。どれも着こなせると思うわよ」
「おい。上げて落とすのは辞めてくれ。なんだよ、『顔は分かんないけど』って……」
顔は普通ならまだ分かる。だけど、『分かんない』って評価はなんだ?際限なくひどいって意味なのか?
「ああ、悪い意味じゃなくて。身長とかスタイルは客観的に見る事が出来るんだけど、顔ばっかりは
「そういうもんかな? 確かに、俺は紗也も姉さんも可愛いと思うけど、客観的にどうなのかって言われると自信ないな」
実際、紗也が誰かに告白されたって話は聞いたことが無い。「俺も可愛い
姉さんについては……まあ性格や趣味があれだし、そもそも本人が恋人を作らなさそうだし……。弟としては、いつか良いパートナーを見つけて欲しいと切に願うよ。
そんな姉さんは、こんな場面でも、科学的な話を始めた。
「そうね。美醜感覚は遺伝子レベルで組み込まれてるんじゃなくて、生まれた後に成立する概念でしょ? 昔からずっと一緒にいる相手は、可愛く見える物なのよ」
「そうなのか? ああ、でも言われてみたら、平安時代の『美人』と今の『美人』は違うよな」
「そうそう」
「なるほどね。まあ納得だわ。あれ、どうした、紗也?」
何故か、
「なんでもない! さあ、かず兄の水着、選びましょうーー! おーー!」
「「おーー?」」
よく分からないが、張り切って選んでくれるのは嬉しいし、頼もしいな!
最終的に、紺色の背景に、赤と黄色のラインが描かれた水着を選んだ。
次は紗也の水着選びだな。
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