魔法で出来る事、出来ない事
「和也! 紗也! 凄い成果が出たぞ! 聞きたいか? 聞きたいよな! 聞きたいって言え!」
日曜日の夕方。魔法の練習をしていた沙也と俺の前に、姉さんがタブレットを片手に現れた。姉さんの性格上、研究成果は真っ先に家族に自慢したがるのだ。今回の実験は魔法関連だろうから、親には見せないと思うけど。
「聞く聞くーー! 何が出来たの?」
「なんと……! 魔法で金を生み出す事が出来ました!! ワー! ドンドンパフパフーー!!」
「「な、なんだってーー!」」
とマンガのようなポーズで驚きを表現する紗也と俺。へーー。金を生み出しちゃったかーー。え゛?
「ちょっと待って、姉さん。それほんと? 嘘じゃなくて?」
「もし本当なら、結構大変なことだよ? うんん、大変どころじゃないわ。社会が混乱するレベルよ!」
「嘘『では』ない。だが、本当というわけでもない」
「は?」
「私が魔法を使う事で、1時間当たり金原子が4.1×10^2個生成する事が可能だった。」
「……?」
「それは……かなり少ない?」
「ああ。人間の体内に含まれる金原子の数すら10の18乗オーダーとされているからな」
「それじゃあ、金原子が400個って言うのは……」
「海水から金を採取する方が効率的なレベルで少ないね! 経済には全く影響はないだろう」
「「なーんだ……」」
楽して大金持ち! って訳にはいかないようだ。そりゃあそうか。
「と残念に思うかもしれないが、実際には大発見があったんだよ! 魔法の神髄を解き明かしたと言っても過言ではない!」
「ほう?」「どういう事かしら?」
「今回、金を合成した方法だが、『金が欲しい』と願っても駄目だったんだ。君達の言葉を借りるなら、イメージが曖昧過ぎたんだ」
「「なるほど」」
「だが、『空気中に存在する原子が核融合を起こして、最終的に金原子に成長してほしい』と願った結果、金の生成が確認された。また、この過程をより鮮明かつ『偶然が重なれば科学的にも起こり得るだろう』という条件を整えたら、合成量が増えたんだ! まあ、増えてあの量なんだけどね」
「「なるほど」」
「つまり、魔法とは『偶然が重なれば科学的にも起こり得る範疇』の願いが叶うと考えるべきなんだと思う。例えば、紗也が使っていた水の弾丸?の魔法では、こんな事が起こっていると考えられる」
<水蒸気の凝縮>
(1)偶然、水分子と水分子の間に強い水素結合が生まれた。
(2)これまた偶然、水分子二個と別の水分子の間に強い水素結合が生まれた。
(3)これが繰り返された結果、水蒸気は水球と呼べる大きさにまで成長した。
<水球の氷結>
(4)偶然、水球内の水分子同士の間に強い水素結合が生まれ、それが偶然全体に広がって行った。
(5)氷になった。
<水球の発射>
(6)氷球に含まれるすべての水分子が偶然一方向に運動量を持った。これは不確定性理論により、偶然起こり得ることが保証されている。
(7)氷球が発射された。
「という訳だ。『魔法とは、偶然が重ならないと起こり得ない奇跡中の奇跡』を引き起こす物である』というのが私の理論だ」
「「な、なるほど?」」
「私の理論が正しければ、引き起こせる減少と引き起こせない現象を区別することが出来る。という訳で、色々検証してみようではないか!」
◆
「つまり、姉さんは『魔法で出来る事、出来ない事』の境目が分かったって事だよな?」
「そうだな。逆に、効果的な『イメージの仕方』を伝授する事も出来ると思うわ」
「じゃあ、早速だけど質問。今日は炎の魔法を使えないか試してみたんだ。でも、熱気は出せても、炎は出なかった。この理由、分かったりする?」
水・土・風が使えるんだ!火も使いたい!!
「ふむ。そもそも、和也と紗也は『炎の正体』は何なのか知っているか?」
「「炎の正体?」」
「まずは、基礎中の基礎。燃焼とはどういう反応か説明できる?」
「燃える物質と、空気中の酸素が結びつく反応だよな?」
「確か酸化反応って言うのよね?」
「そうだな。一般的に燃焼とは『急速に起きる酸化反応』よ。さて、酸化反応は基本的にはエネルギーを発生させる反応だ。水素の酸化反応を利用して燃料電池が作られているのは二人も聞いたことがあるんじゃないか?」
「水素自動車とかだよな?」
「水しか出さないって言うやつね」
「ああ。酸化反応はエネルギーを放出する。燃料電池だと『電気というエネルギー』が得られる。では、ろうそくなどの燃焼では何というエネルギーが得られる?」
「熱だな」「熱よね?」
「正解。だが、熱エネルギー以外も発生しているぞ。何かわかるか?」
「電気……は発生しないよな?」「なにだろ?」
「正解は『光』だ」
「「あ!」」
「燃焼反応によって、熱だけでなく光というエネルギーも放出される。この光を私達は『炎』と呼んでいる訳だ」
「なるほど……」「じゃあ、魔法で炎を作るのは、難しいのかしら?」
「一応、光を屈曲させて炎っぽい光を再現することは出来るだろう。だが、君たちが思う炎は再現できないかな」
「そっか……それは残念ね……」
と悔しがる紗也。俺もちょっと残念だ。だけど、こう考えれば、かっこいいのではなかろうか?
「ちょっと考えてみてよ。俺達が魔法で作った『熱』は『不可視の炎』とも言えるんじゃないか? 燃焼反応でも、光はあくまで副産物だろ?」
不可視の炎。そう考えれば、非常にカッコよく、また性能もいい攻撃手段と考えられるのではなかろうか?
「そうね! 確かに見えない『ファイヤボール』って物凄く怖いわね! 敵の不意打ちとかに使えそう!」
「だろ!」
「それじゃあ、熱を飛ばせるように練習しましょ! 目指せ、不可視の炎使い!」
「おーー!」
俺たちがやる気に燃える(炎だけに!)のを見ながら、姉さんは呆れ顔で
「敵の不意打ちって、平和な日本に敵なんていないじゃない」
とつぶやいた。
それが聞こえた俺は心の中でつぶやいた。「姉さん。それはフラグだよ」と。
◆
紗也と俺は一週間かけて魔法の細かいコントロールを練習した。
土の弾丸(泥団子ともいう)を的に中てるのは比較的簡単だった。次に氷の弾丸も上手くコントロール出来るようになった。
「水蒸気を集め、氷にして撃ち出す。」この時間を出来るだけ短縮し、今では5秒で発射できるようになった。いい感じである。これで、いつ異能バトルに巻き込まれても、ある程度戦えるだろう。
なお、泉の水を操作するなど、「水蒸気の凝集」のフェーズを省略できる状況ならば、2秒ほどで発射可能である。
しかし、『不可視のファイヤボール』はなかなか成功していない。どうしても熱が霧散してしまうのだ。結局、一端諦めることにした。
「『シールド』! よし、良い感じね」
「『物理結界』! うむ、良い感じだ」
さて、次に俺達が試したのは守りの魔法である。『結界』の魔法を一度使ったことがあるが、あの時は咄嗟に自分を守るために使った。今から考えれば、粗い魔法だったと思う。
明確に『自分に向かってくる物理的なエネルギーを消失される』事をイメージする事で、攻撃を無効化する事が出来る。試してはいないが、本気を出せば拳銃でも弾く事が出来るのではなかろうか?
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