何故か火は出せないようだ
「『ファイヤ』!『フレイムショット』!! うーん、上手くいかないわね……」
「『赤き花弁よ、咲きほこれ』! セリフはかっこいいが、失敗だなぁ」
「失敗が続くと、『自分はこの魔法を成功させれないんだ』って思ってしまうから、余計に魔法の成功確率が下がる。負のスパイラルよね……」
「だなあ」
人間は何かを分類する事が好きな生き物だ。その一環だろうか?ラノベに登場する魔法も「属性」という概念で分類されている。例えば、紗也が好きなアニメ『人魚姫、冒険者になるってよ』では魔法は火、水、木、金、土に分けられている。この分類法の由来は五行説という思想であり、「万物はこれら5つに分類できる」という中国発祥の思想である。
また、俺が好きなラノベ『TSしたオタクは異世界でアイドルになる』では、魔法は風、火、水、土、光、闇に分類されている。この由来については四大元素+光と闇だろうか?四代元素は古代ギリシア辺りが発祥の思想だったはずだ。
ともかく、魔法とはこのように分類できる物……と俺達ラノベ好きは考えるのだ。
さて、この考えを姉さんが使った魔法「ドライヤー」は風であると言えよう。アクアクリエイトは水。
という訳で、俺達は次に火魔法を試そうと考えたのである。手から紅に輝く炎が揺らめく――。かっこいいと思うだろう?
だが、一向に成功しない。熱を放出する事は出来たのだが、炎という形にはならないのだ。何故だろうか?
結局、火属性の魔法の使用を諦めることにした。紗也が言ったように、失敗が続くと、自分の能力に対して疑念を抱いてしまう。そうなったら、魔法の発動条件を満たさなくなる。適度に休憩し、既に使用出来ると分かっている魔法を使って気分を上げるのが重要なのだ……と思っている。
次に試すのは、土かな。なんとなく地味なイメージがある属性(少なくとも紗也と俺はそう思っている)だが、使えて損になる事は無いだろう。
◆
「『変形』からの……『硬化』! 『変形』からの……『硬化』……。よし、完成だ!」
「『ジオメトリ』……『フィックス』! 私も出来たわ!」
土魔法と言えば、ファンタジー世界では壁を作って身を守ったり、家を作ったりする。だが、現代日本において、弓矢を持った盗賊もブレスを放ってくるドラゴンもいない。土壁を作っても「出来たね」「だね」で終わってしまった。
そこで、紗也と俺は芸術作品を作ることにした。海辺で砂のお城を作る感じだ。ただし、手は一切使わず、魔法のみで製作する。
魔法の本質は『イメージが具現化する』なので、イメージ力が出来栄えに直結する。空間把握能力やデザイン力が物を言う。
「かず兄のそれはドラゴンよね? かっこいいわ! かず兄の騎竜かしら?」
「紗也はお城だな。西洋風のお城ってデザインが難しいイメージだけど、紗也は上手だな! そのお城は、プリンセス=サヤが住んでいるのかな?」
「プリンセス=サヤって……。ちょっと恥ずかしいわね」
ふむ。俺が竜騎士で紗也が姫か。いい設定だな! 早速、その設定を使って遊ぼう!
「姫様。この度、
片膝をついて
「面を上げよ。よい、面を上げよ。そなたの事は聞き及んでいる。竜を乗りこなすその姿は、竜神のようであったと。そなたのような優秀な人材が、配下になるとは、私も嬉しいよ」
「光栄でございます」
「早速だが、私に迫る強大な敵を打ち滅ぼしてほしい。カンブーン国のアサインメントが私を暗殺しようとしているそうなのだ」
「アサインメント……?」
「それは自分でやりなさい」
「ちっ! つい『お任せあれ!』って言ったら、『じゃあ任せるわね~』って言ってやるつもりだったのに!」
「ふ! 俺をだまそうとは十年早いな!」
◆
「そういえば、姉さんは?」
「さあ? あ、おばあちゃーん! 慧姉見た?」
「実験したいから大学に行くね! って言って出て行ったわよ」
「「ああーー、なるほど」」
姉さんの行動原理は「興味があれば、直ぐに調べる」である。
姉さんがまだ幼稚園児だった頃、彼女は「あのキラキラしたものなに?」「この音なに?」と親に疑問をぶつけていたそうだ。それに対し、俺達の両親は丁寧に教えてあげ、「何事にも疑問を抱くのは良い事よ」と褒めていたそうだ。
その後、成長した姉さんは、疑問を抱いては自分で解決するようになり、実験の虜になった。
「三つ子の魂百まで」とはよく言うが、姉さんはまさにそれに当てはまっていると思う。何事にも疑問を抱き、解決の為に奮闘する。そんな姉さんを俺は尊敬している。
その日、姉さんが家に戻ることは無かった。徹夜で実験をしているのだろう。身体を壊さないようにしてほしい。
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