掌編小説・~文芸部紫文乃シリーズ3~『ミツバチ』』

夢美瑠瑠

掌編小説・~文芸部紫文乃シリーズ3~『ミツバチ』


  掌編小説・『ミツバチ』


 私は、たびたび登場してお目汚しする、某高校の文芸部員の<紫文乃(むらさき・ふみの)>です。

 文芸サークルの会報兼同人誌・「土筆」にも、たびたび投稿して、他の部員たちと切磋琢磨して、文学的な教養やら文章力、自己洞察力とかを高めるために頑張っています。

 で、また、月末の締め切りが近づいてきたので、ポエム風のエッセイを下書きしていました。

「ミツバチ」というタイトルです。

 全体のテーマが「春の訪れ」で、その時偶々、勉強部屋の窓にボンボンみたいな花粉の塊を足にくっつけた、可愛いミツバチが蠢動?していたので、「書いてみようかな」、と何の気なしに思ったのです。


(以下エッセイ)

”「ミツバチ、というのは可愛い昆虫です。顔も可愛いし、花の蜜を集める、という習性も夢があって可愛い。

 ハチミツは栄養価が高くて人間の役に立つし、ローヤルゼリーになると人間には作り出せないような、不可思議な霊薬という感じで、EXTRAなBONUSのあるミツバチは昆虫の中のセレブだなあ?とか思う。

 昆虫にはいろいろあって、どれも私は好きですが、ミツバチみたいに人間の役に立つ愛らしい昆虫というのは、考えてみると貴重ですね?

 虫媒花を受粉する蝶とかも、随分美しくて、目を楽しませますが、受粉以外には特に実用性は無い。

 ミミズは畑を耕しますが、ミミズがいなくてもそれほど困らない。

 害虫を退治する蜘蛛なども益虫の範疇ですが、外形は不気味なだけで、「蜘蛛が好き」なんていう変な人はあんまりいない。

 つらつら考えてみても、寧ろミツバチなんて役に立つ動物、の範疇でもかなりEXCELLENT、という感じかもしれない…

 生態系を維持するという意味では無意味とか無駄な生き物なんていない。だけど、

それ以上に人間に特殊な恩恵をもたらしてくれるミツバチは、考えてみるとすごくユニークで、神様が恩寵を与えた、そういう輝かしいような運命の、昆虫の中の貴族かもしれない…

 ただの虫けらみたいにミツバチを侮るなかれ、です。

 もっと下等な生物だとパンとかお酒とかヨーグルトの発酵をつかさどるイースト菌や麹、とかもあるけど、それほどにユニークな生態ではない。

 ミツバチは有名なミツバチのダンス、をして仲間同士でコミュニケーションをしている。

 数学的で優雅なコミュニケーション…つまりすごくイルカチックに賢いところもある。

 どこまで可愛いのか、とか思います。(なんでもカワイイ、とか言いたがるのはJKの通弊かもしれませんが…)

 そういう風に考察を巡らせていくと、今、私の勉強部屋の机の窓の外で…」

 

 そこまで書きかけて、ふと目をあげると、何ということでしょう!

 さっきは窓の外に二、三匹遊んでいただけのミツバチが、なぜかどこからか真っ黒に大挙して押し寄せてきて、今は無数のミツバチの大群がガラスに蝟集して、暗くなるほどに窓の外を埋め尽くしているではありませんか!

「キャー!これはいったい何?」

 目を丸くして悲鳴をあげましたが、「鳥」というホラー映画みたいに、ミツバチは増えていく一方です。

 ぶんぶんいう羽音が、窓を震わさんばかりに響いています。

 文字通りに「蜂の巣をつついたよう」な大騒ぎです。

 これは警察か保健所に連絡するべき事態だ、と判断して、ケータイを取り上げました。が、スマホの大画面に変な画像が映っています。

 大写しにしたミツバチの写真にドクロと骨の✖の字の絵が、重ね合わせにオーバーラップしていて、その下に赤字でこんなメッセージが添えられているのです。

「ワレワレハ『BEE KILLER』。テロリスト集団ダ。全世界ノミツバチノ巣ニ

CCDヲ起コシテ全滅サセルタメニ一斉蜂起シタノダ。フフフ…ケータイノ電波ハ全テ乗ツ取ツタ…」

 何てこと!CCDというのは確かミツバチの「コロニー崩壊」という意味です。

 それが全世界に…?

 ああ…ひどいことが起こってしまった。

 一体どうしたらいいのだろう…


 おろおろしていると、スマホに誰かからテレビ電話がかかってきました。

 「誰だろう…?」

 さっきの画面はもう消えていました。

 そうして、知り合いの叔父さんのちょっと滑稽な顔が映っていました。

 変な髭を生やしているし、すごい金壺眼なんです。 

 例によって白衣を着ているみたいでした。

「はい、もしもし?」

「ああ、文乃か? わしじゃ、わし。茶筒おじさんだ。お前のスマホにも、テロリストから予告が来たか?大変なことになったな。ミツバチがたくさん窓の外に来ているじゃろ?」

 茶筒おじさんというのは、母方の叔父で、いわゆる「マッドサイエンティスト」みたく、研究所を作って発明をして暮らしている変わり者です。

 でも、本当にいくつか特許を取って、優雅な生活をしているのです。

 こういう時にはもしかしたら頼りになってくれるかもしれない…

「おじさん…!どうしたらいいの?私、警察に電話しようかと…」

 ハチはどんどん増えて、恐ろしいようなパニック状況になっています。

 もし窓が開いていたら、と思うとぞっとします。

「うん、もちろんそうすればいいんだけどな、警察もてんてこ舞いで、電話がつながるかどうかわからん。それにどうせすぐにはどうにもできないだろう。

 とりあえず、わしがハチの追い払い方を教えてやろう。

 人間でもな、ハチのダンスの真似事ができるんじゃ。

 いいか、やり方を教えるからよく聞けよ。」

「う、うん。わかった」

藁にもすがる思いで、私は握りしめたスマホの画面を必死な眼差しでのぞき込みました…

  

 「いいか、文乃。ミツバチを追い払うダンスをするにわな、まず服を脱いで…」

 「?おじさん、なんで服を脱ぐの?関係ないじゃん」

 「服を着ていると生体反応が伝わりにくいんじゃ。

 自然のままの生き物の姿でないとハチとコミュニケーションしにくいからな。

 だから素っ裸になって…」

 「ふうん…しょうがないわね」

私はしぶしぶブレザーとスカート、キャミソ-ル、ブラ、パンティ、と順番に脱いでいきました。

 まだ三月なので肌寒くて、鳥肌が立ちましたが、今はおじさんだけが頼りなのでしょうがありません。

 画面の中の茶筒おじさんは少し「好色そうな」表情をしていて、余計嫌でした。 

 「ムフフ、いや失礼。そうしてからな。三遍回って…」

私は嫌でしたが、ハチが怖いのでしょうがなく三遍回りました…

 「で、『ワン!』と鳴くんじゃ」

 「ワン!…って、おじさん、ふざけてるの!そんな場合じゃないのに!」

思わず鳴いてから私はてっきりからかわれていたのだと思って、抗議しましたが、     「まあ待て、文乃。窓の外をご覧」おじさんは落ち着き払って言いました。

「えええ?あら?」

 あっなんていうことでしょう!さっきまで私が花畑のお花でもあるかのように群がり寄ろうとしていたハチたちが、どんどんあっという間に飛び去っていくのです! 

物の2分もしないうちにハチたちはすっかりいなくなり、また青空が広がりました。

 ワー助かったあ…私は心の底から安堵しました。

「おじさん!」ありがとう、と言おうとしたときにはもう電話は切れていました。

 私はでも、世界中がまだ大騒ぎなのだと思って、テレビを点けましたが、普段通りにニュースショーをやっていて、ハチの「ハ」の字も出てきません。

「…?」

私はキツネにつままれたような気分でした。


ーーー 実は真相はこうだったのです。

 茶筒おじさんは養蜂業をやりたいという友達のために、「ミツバチを集める電波」を開発していたのですが、ついにそれが完成して、で、あんまり嬉しかったので、ちょっとお酒を呑んで、そうしたら美人の姪の私にイタズラをしたくなったんだそうです。

 発明家の、マッドサイエンティスト?のおじさんは、もう他人のスマホとかリモートコントロールするのはお茶の子なので、番号を知っている私のケータイに細工をして、エコロケーションで窓が閉まっているのを確認してから、例のテロ予告の画面を捏造して、それからミツバチを呼ぶ電波を発信させたのだそうです。

 そうしてスマホのワイドレンズ機能で、驚く私の様子と、必死になって全裸で踊って?いる私の様子を覗(うかが)って、ニマニマしていたらしいんです。

 

 おじさんは平謝りに謝っていましたが、私は烈火の如くに怒って、「警察に言わないで上げるからその代わりに…」と言って、前から欲しかったオメガの80万円もする世界時計を買ってもらいました。

 おじさんは悄気て居ましたが、私は意に介さず、「オメーガ悪いんだからしょうがねーだろー!」と、内心で罵ってやったのでした。


「ミツバチってカワイイ」とか書いていた私ですが、その事件以来私はミツバチも蜂蜜も見るのも嫌になって、ホットケーキにもママレードしかかけない女の子になってしまったのでした…



<終>


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

掌編小説・~文芸部紫文乃シリーズ3~『ミツバチ』』 夢美瑠瑠 @joeyasushi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ