第9話

「おい、金をよこせ」


 リビングにやってきたロバートは、私を睨みながらそう言った。


「え……、でも、今月のお金をもう渡しましたので、来月になるまでは──」


「金を渡せと言っているんだ! このままだと、ジーナに見放されてしまうかもしれないんだ!」


 彼の表情はゆがんでいた。

 私は怖かったので彼に従うしかなかった。

 とりあえず、残っている今月のお金を、彼に渡した。

 これで、今月の生活はかなり厳しくなる。


「よし、これでジーナとの次のデートは何とかなりそうだな」


 私から乱暴にお金を受け取り、彼はにやにやしていた。

 よく見れば、彼は怪我をしていた。

 顔にも痣が残っている。

 ただ転んだ、というわけではなさそうだ。


 これは、もしかして……。


     *


 (※ロバート視点)


 今日はジーナと一週間ぶりに会える日だ。


 おれは待ち合わせ場所で、彼女が来るのを待っていた。

 彼女に会えるのが待ち遠しかった。

 顔には少し痣が残っているが、腫れはほとんど引いている。


 金のことに関しては、クレアから脅し取ったから万全だ。

 前回のようなことにはならないだろう。


「お待たせ」


 ジーナが笑顔でやってきた。

 あぁ、今日もなんて美しいんだ……。 

 しかも、この前おれが買ってあげた服を身に着けてくれている。


「その服、よく似合うよ」


「ありがとう。それじゃあ、行きましょうか」


 おれたちは歩き始めた。

 今日のデートも、買い物である。

 当然支払いはおれだが、今回は多めに持ってきているので問題ない。


「あ、このお店、素敵ね。入ってみましょう」


 おれたちが入ったのは、宝石店だった。

 なるほど……、そうきたか……。

 これは、大丈夫なのか?

 まあ、たぶん、何とかなるだろう……。


「これが欲しいわ」


 おれは彼女の求めたものを見て、驚いた。

 そんなに高いものを買うのか?

 いや、しかし、一応所持金内ではある。

 

「君ならきっと似合うと思うよ」


 結局、それを買うことになった。

 しかし、今回のデートの予算は、思った以上に多いようだ……。


「さて、次の店に行きましょう」


 彼女は笑顔で歩いている。

 まあ、彼女の嬉しそうな顔を見られるのだから、少々買った物が高くてもいいか……。


 その後もデートは順調だった。

 最初の買い物は破格の値段だったが、その後の買い物は、そこまで高いものではなかった。 

 あくまでも、宝石と比べての話だが……。


 おれたちは買い物を終え、ジーナの家に着いた。

 今日は彼女の機嫌もいい。

 このまま、家に入って、そのあとは……。


 おれは家に入って、荷物を降ろした。

 ジーナと目があう。

 おれは、ごくりとつばを飲み込んだ。


「ジーナ……」


 おれは彼女に、そっと顔を近づけていく。

 しかし彼女はうしろを向いて、二、三歩進んでおれから離れた。


「ロバート、あなたに話があるの」


「え……」


 いったい、何だろう……。

 もしかして、クレアと別れてくれ、とでも言うのだろうか。

 しかし、世間体のことが気になるから、できればそんなことはしたくない。

 彼女も今まで、おれにそのことを強要したことはない。


 しかし、彼女がそう言われたら、おれはクレアと別れるだろう。

 確かに世間からの風当たりは冷たくなるかもしれないが、ジーナのことが第一優先だ。


「実は私、婚約者ができたの」


「……え?」


 彼女の言葉を聞いて、おれのなかで、何かが崩れ去ったような気がした……。

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