第7話

 (※ロバート視点)


 ジーナに、一週間も会えない……。


 今頃彼女は、何をしているのだろうか……。

 ほかの男と会って……、いや、会っているとしても、ただ友人と会っているだけだ。

 会っても、おれのように、体を重ねることはない。

 しかし、この不安な気持ちは何だ?


 クレアに言われた言葉が、心のどこかに残っていた……。


 まさか、そんなことはないと思うが……、万が一ということもある。

 彼女が尻軽だなんて、思っているわけではない。

 しかし、一度気にし始めたら、どうしても確かめたくなってしまう。


「よし、明日、ジーナを尾行しよう……」


 それで、はっきりとする。

 クレアの言っていたことは、所詮ただの噂だ。

 彼女は男友達が多いし、異性からよく言い寄られるから、それで嫉妬した女たちが、根も葉もないうわさを流し始めたに違いない。


 ジーナの美しさにはかなわないから、そうやって自分たちを慰めることしかできないのだろう。

 とにかく、明日この目で確かめれば、ハッキリとする。

 彼女は、尻軽なんかではない……。


 翌日になり、おれは彼女の家の近くで待ち伏せをしていた。


 しばらく待っていると、彼女が一人で家から出てきた。

 街の方へ向かっている。

 おれはバレないように、距離を保ちながらあとをつけた。

 いったい、どこへ行くんだ?


 しばらくついて行くと、彼女は足を止めた。

 そこは、よく待ち合わせに利用される場所だった。

 いったい、誰を待っているんだ?

 まさか、男?


 いや、落ち着くんだ……、先入観で目が曇っている。

 男だとしても、ただの友人に決まっている。


「あ……」


 彼女が到着してからすぐに、待ち合わせをしていた男が現れた。

 どうやら、どこかへ二人で行くみたいだ。

 おれは再び、距離を保ちながら後をついて行った。


 一時間近くつけているが、二人が特に親密だというような様子はない。

 やはり、思い過ごしだったんだ。

 噂は、所詮噂でしかなかった。

 おれは、安堵のため息をついた。


 しかしその時、予想もしていないことが起きた。


「お前、あの人の後をつけているな?」


 突然後ろから、声を掛けられた。

 振り返ると、おれの知らない男だった。

 ジーナが一緒にいる人物とは、別人である。


 今おれがいるのは、人通りのない裏の路地だ。

 まさかこいつ、ずっとおれをつけていたのか?

 つけていることに夢中で、そのことに気付かなかった。


「何の用だ? お前には、関係のないことだろう?」


 おれは目の前の男を見ら見ながら言った。

 こいつ、やけにガタイがいいな……。

 姿勢から判断して、何か、格闘技でもやっていそうな感じだった。

 そんなことを思っていると、彼が口を開いた。


「おれはジーナさんに、頼まれているんだ。あとをつけてくる奴がいないか、見張ってくれって。彼女はよく、ストーカーの被害に遭うからな。男友達が多いから、よく勘違いした奴がストーカーになるんだ。お前みたいなやつがな」


「なんだと?」


 それは、聞き捨てならなかった。

 男友達だと?

 それは、お前の方だろう?

 何も勝手に、彼女の側にいるような態度をとっているんだ?

 お前は単なる、有象無象のうちの一人だろう?

 彼女に利用されていることにも気づかずに、哀れだな……。


「このままだとジーナを見失う。そこをどけ」


「嫌だと言ったら?」


 おれはその問いに言葉では答えず、拳を繰り出した。

 しかし、あっさりと躱されてしまい、顔面にパンチを食らってしまった。

 頭がふらふらとして、おれは地面に倒れた。

 鼻血がでている。


 おれはまた、男に拳を繰り出したが、あっさりと躱され、膝蹴りを腹に食らった。

 地面にうずくまり、あまりの痛さに動けなかった。

 そんなおれに、男は容赦なく次々と攻撃を浴びせてきた。


 おれは地面に倒れたまま、ずっと痛みに感じていた。

 どうしておれが、こんな目に……。

 ジーナの隣にいるのは自分だと勘違いしたこの男に、成す術がなかった。


 しかし、いくら暴力でマウントをとっても、それは虚しいだけだぞ……。

 彼女の隣にいるのは、このおれだからだ。

 まったく、勘違いをした男というのは、これほどまでに滑稽なものなのか……。

 哀れだな……、そんなにおれを殴っても、お前が有象無象であることに変わりはない。

 精神的には全く問題ないが、体の方は限界だった。


 ずっと殴られ続け、おれはそのまま、意識を失った……。

 

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