第6話
(※ロバート視点)
ジーナの発した、たったの一言で、状況は一変した。
「これも買うことにするわ」
彼女がそう言って、追加で商品を持ってきた。
おれは、冷や汗が止まらなかった。
それは、ぎりぎりで保たれていた均衡を崩す行為にほかならなかったからだ。
「すまない……、ジーナ、それを買うと、お金が足りなくなってしまうんだ」
そう彼女に告げた時、明らかにその顔色が変わった。
不穏な空気に包まれる。
明らかに、彼女の機嫌は悪くなっていた。
「そう……、それならしかたがないわね」
彼女は商品を棚に戻しに行った。
おれはその間に、会計を終えた。
そして買ったものを持って、おれたちは店から出た。
「あの……、ジーナ……、本当にすまない。さっきのも買ってあげたかったんだが……、今日は持ち合わせがなかったんだ」
「おかげで、恥をかいてしまったわ」
「本当にすまない。いつかこの埋め合わせはするから……」
「もういいわ……。今日は家に帰りましょう。家までの荷物持ちは、よろしくね」
「ああ……、もちろんだ」
おれたちはジーナの家に向かって歩き始めた。
デートこれで終わり、というわけではないだろう。
これから彼女の家に向かうということは、つまりそういうことだ。
おれは胸の高鳴りを感じていた。
ジーナの家に到着した。
彼女が玄関の扉を開け、おれは荷物を中に運び入れた。
両手が空いたので、おれはジーナを抱きしめた。
これから、おれは彼女と……。
「……離して、今日はそういう気分じゃないの」
おれは彼女の態度に、困惑していた。
「今日はもう帰って。あなたは、店で私に恥をかかせたことを、反省しなさい」
「そんな……」
おれは彼女を離さなかった。
しかし、そんなおれに、彼女は冷たい言葉を浴びせた。
「離してと、言ったでしょう? 二度も同じことを言わせないで」
「す、すまない……」
おれは咄嗟に彼女から離れた。
「罰として、あなたとは一週間、会わないわ。あなたは前回のことを、学んでいないようね」
彼女が蔑むような目つきで言った。
「そんな……」
おれは彼女に言い返すことができなかった。
確かに以前にも、似たようなことがあった。
おれが彼女の機嫌を損ねてしまい、一週間あってくれなかったことがあった。
あの時、ジーナの機嫌を損ねてはいけないと学んだはずなのに、つい勢いに任せて迫ってしまった……。
「それじゃあ、ロバート。また、次のデートを楽しみにしているわ」
「ああ、おれもだよ……」
おれは彼女の家をあとにした。
残念だが、しかたのないことだ。
それに彼女は、機嫌を損ねてしばらく会わないことはあっても、おれのことを捨てたりはしない。
それがどうしてなのかわからないほど、おれは馬鹿ではない。
当然、彼女がおれのことを愛しているから、という理由しかない。
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