桜、ビュウと飛ばされて。

それは、桜の兄弟たちが父なる太陽に照らされ、華麗に喜びのダンスをしながら降りていく、ある朝のことでした。

たくさんいる兄弟の中で、ドレだけはひとり、桜の木の曲がり角を右にまがり、ふたつまっすぐ行った、町の郵便ポストよりもっと遠い、隣町の郵便ポストまで飛ばされてしまいました。


赤く、硬くかたまったペンキの上に一枚、桜の花びらがあることは、風の強いこの町では、珍しいことでした。

通りがかった隣町の人たちは、小さな女の子がおきでもしたのか、と皆、そう考えていました。


じろじろと町の人々に見られていくことの、ドレはなんと恥ずかしいことでしょう!

そのうちアレは頬を赤くしたため、桜の花びらは濃いピンク色に染まりました。


ところが、見たことがないほどあざやかなピンク色の花びらに、みんな興味津々。

隣町のポストの周りには、あっという間に人だかりができてしまいました。


それを見て、ドレは顔を青くします。

多くの人に見られることは兄弟みんなでなら慣れていましたが、一人ではじっくりと眺められたことがなかったからでした。


桜の花びらはピンクなので、花びらは今度は、薄く明るい紫色になりました。

人だかりから、ほおう、綺麗だなぁ、と、沢山の声がドレへ届きます。


それを聞いて、ドレは嬉しくなり、ついとび跳ねました。

タタン、トトン、タン、タタン。

桜の花びらの華麗なダンスが、赤いステージで繰り広げられます。


ツイー、ツイー、と、鳥が鳴くのにあわせ、ドレは隣町の人たちをしばらく、楽しませました。



少し休んでいたドレに、突然、ビュウ、と風がふきつけました。

それはとても強く、最初はドレも一生懸命ポストのへりにつかまっていましたが、やがてとばされてしまいました。


隣町の人はみんな、このしばらくの間楽しませてくれた桜の花びらが行ってしまうのは惜しかったのですが、笑顔で見上げ、見送ってくれました。


眩しい太陽の光の筋に射抜かれ、チラチラと光が見え隠れするのは、それはそれは美しいものでした。

それはもう、兄弟たちに負けないくらい。


やがて風がそっとドレをおいていったのは、ああ、何ということでしょう!

もとの桜の木、ドレや兄弟たちの故郷でした。


ドレはひらひらとおちていき、兄弟たちと一緒に、母の大地のもとへ降りたちました。



夜、兄弟たち――アレ、ソレ、コレはドレに三人だけいる兄でした――は、ドレと一緒にコンクリートで眠りにつきます。

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