第49話 アイナの檄
ティリオンはウォーホールの背後に着地すると、そのまま地面を蹴って重い拳の一撃を憎き背中に浴びせた。
ウォーホールはそのまま土壁へと激突する。だが不幸にもヘルメットが敵の頭を防護したのだ。
土煙の中から立ち上がり、ウォーホールは手の甲で口から流れる血を拭った。
「なかなかいいパンチをしてるじゃない? ワタシに痛めつけられる趣味は無いけど、今のはとっても感じたわ」
ピッケルをブンブンと二度振り回すと、ゆっくりと腰を落とした。そして地面に片手を付けると、
「ワタシのガジェット能力をとくと見るがいいわ……」
ウォーホールがカッと目を見開く、「
叫ぶと同時に、足元にマンホールのような穴がぽっかりと開く。ウォーホールはその穴の中に消えた。
アイナが賊たちを相手にしながらティリオンの方を気に掛ける。
グールが焼かれたことは知っていた。しかし肝心の敵ボスの存在が分からない。アイツを倒さない限り、
ティリオンが首を左右に振って、ウォーホールの姿を探し出す。しかし、穴に入った敵の姿をどこにも捉えられない。
「フフフ……」
と、薄気味悪い声だけが洞窟内を反響する。
すると、ティリオンの背後に穴が開く、それをアイナが見逃さなかった。
「おじさん後ろッ!」
その声で咄嗟に身をよじった。穴の中からウォーホールが出現し、ピッケルの先端で、彼の背中を切りつける。
アイナのおかげで素早く行動できた。その甲斐もあり軽傷で済んだが。穴を伝っては出現する戦法はなおも続いた。
「
どこから声が出ているのか分からなかった。穴はいたるところに開いてはいるが、ティリオン自身は中に入ることが出来なかった。おそらくウォーホールが許可した者のみ、穴の中を移動できるのであろう。
無数の穴を見て、「これではもぐら叩きだな」と大胆にも笑みを浮かべた。
(もぐら叩きか……どの穴から出てくるか分かれば……)
そうこうしている内に、奇抜なまでの攻撃手法によりティリオンの身体は次々とピッケルで穴を開けられていく。流血の度に治癒魔法で回復していくが、それも段々追い付かなくなっていた。
アイナの方はすでに矢が尽きていた。洞窟の内外から侵入してくる新たな賊の姿を、忙しく動かす視線の中に捉える。
「しゃあないな……」
先ほど取り返した、愛用のナイフの柄に手を掛ける。こうなったら白兵戦しかない。
アイナの窮状を幼いラパン族たちが察した。賊の目を盗み松明用の木片をせっせと拾い集めてくる。そして集めたものに両手をかざすと、木片が細断され形状が矢へと変化していく。
(この子ら……ガジェット能力で矢を作れるんか……)
小さな子らが生きるために危険を省みず、自分のために行動している姿に、アイナは何だか目の奥が熱くなって泣けてきた。
即席の矢を受け取り、再び諦めかけていた心に炎を点す。
「おじさ……ティリオンッ!」
アイナは涙を拭いながら、喉が張り裂けんばかり叫んだ。「この子らの未来のためにもお願いだから勝ってッ! もし負けたらウチがアンタをしばきまわしたるからなッ!」
ティリオンは血を流し過ぎて意識が朦朧としていた。
もう治癒魔法を発動する暇すら無い。穴からの攻撃は加速度的に増え、いつどこから現れるかもしれない敵に、一方的に攻撃を受けていたのだ。
ところがアイナの檄に触れ、身をブルっと震わせる。
(こんなところで人生を終わるわけにはいかない)
それはこの世界で生きていくことを決心したときから、常に思っていたことだ。
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