第44話 謎のメッセージ

 ダイモンとの死闘を終えたティリオンたちは、レッジーナとチェルシーに事の顛末を伝えた。だが、ティリオンのダメージ量が思いのほか多く、彼だけそのままベッドへと移送されることになった。


 その日の晩に出てきた夢の中で、ティリオンは堂家からいろいろと質問を受けた。

「ダイモンさんが今際の時にあなたに遺した言葉……あれは何だったんです?」


 ダイモンとの死闘、そして彼が身元で囁いたメッセージは当然、すでに堂家によって吸い上げられている。隠し事は一切できない。しかし、そんな彼にも、その内容がいまひとつ理解できないでいた。


「『オレたちは、野山 海 湖 草原 だ』これが何を意味するのか全く持って分かりません。あなたの記憶を探っても、これらを暗示させるような言動を彼から受け取っていない。なぜ、ダイモンさんは唐突にこんなことを述べたのでしょう?」

「暗号にしろ符丁にしろ、アンタが理解できない言葉であるのなら、俺にとっても何の意味も持たない。隠し事はできないのだから」


「そう。あなたの見聞きしたこと、体験したことは隠す事ができない。いや、眠らない以外にひとつだけ秘密を隠せる方法がある」

 堂家はティリオンの目を下からそっと覗き込む。「あなたの『考え』の中に留め置くことです」


「考えの中?」

 ティリオンは眉間に皺を寄せる。


「ある秘密があったとして、それを口に出せばあなたが体験してしまう。だから頭の中で考えるように仕向けた。あのような意味不明な単語を羅列して」

 ヒューと息を吸って、「暗号を用いて、ティリオンさんに何かを気づかせたかった、と考えるのが自然ではないでしょうか? 彼は一体あなたに何を気づかせたかったのでしょうねえ?」


 ダイモンが死ぬ間際に遺した単語は、一見すると景色を思い浮かべただけのように思える。だとしてもアムル山には野山や草原はあっても湖が無い。国自体は海に面しているらしいが、巨大な山岳地帯に囲まれているため見ることはできないという。ティリオンにとっても意味不明だった。


 しかし、あの単語から何かを連想させて、それを思いつかせることが目的であればどうだろう? 政府高官の堂家にバレないように、何かを気づかせることは可能だ。  


 それにあの状況下の中で思いついたのであれば、それほど複雑な暗号ではない。きっと簡単な暗号だ。そう考えたとき、ふっと閃いたことがあった。


「今のティリオンさんの表情。何かを思いついたような目ですね?」

 表情の変化を堂家は見逃さなかった。だが、それを詰問するような真似はしなかった。むしろ穏便に事を済ませるような発言をしたのである。


「まあ、何を吹き込まれたにしろ、我々の距離感、信頼関係は変わらないと考えております。そうですよね、ティリオンさん?」


 確かに堂家の言う通りだ。これ以上余計な議論を交わして、互いの利害関係を悪化させるわけにはいかない。もし仮に堂家が隠し事をしていたとしても、異世界に渡ってきた事実は変えようもないのだ。互いの詮索は不毛な議論とも言える。


「ダイモンのことはあれで良かったのか?」

 不意にティリオンが訊ねた。「あれでもアンタたちが送った人間なんだろ?」


「それについては他人への干渉となってしまうのでお答えできません。無論、いろいろ思う所はありますが、ああなってしまったのは彼にとって抗えない運命だったのでしょう。ただ先遣せんけん隊として活躍していただいたことは事実、ご冥福をお祈りするばかりです」


「ペナルティーとかないのか?」

「私にあなた方を罰する権利などありませんよ」

「そうか。それを聞けて安心した」

 ここで、ふたりの夢の中での会話は終了した。


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