第40話 ダークナイト
「ダイモンのおっちゃん?」
アイナが驚いたような声を出した。
「オマエら、これが何だか分かってるんだよな?」
「——ああ。分かっている」
ティリオンがダイモンの並々ならぬ殺気を感じ取った。
「だったら悪いことは言わねえ。今見たことは全て忘れて、ホームに帰んな。勿論、他言は無用だ」
「光麻草は強い幻覚作用、記憶力の低下、知能領域の欠落と、脳に深刻なダメージを与えることで知られている。これを野放しにするわけにはいかない」
ティリオンはきっぱりと言った。
「ハァ~」
ダイモンは深いため息を吐いた。「オマエらホント、何も分かっちゃあいねえな」
握りしめていた斧を身近でブンブンと素振りしながら、悲しい表情を見せて話を続けた。
「光麻草の副作用はティリオン、オマエの言う通りだ。しかし、効能を薄めれば麻酔の効果を持ち、医術にも役立てられる。何より自殺願望者に与えれば、
「光麻草の栽培がのちの憂いとなるならば、ここで断ち切らなくてはならない。
ダイモンは煙草を口に咥えると、指先から小さな火球だし、火をつけた。
「なあティリオン、オマエも吸ってみねえか? 一口吸えばそのありがたみが分かる」
指先で煙草を挟むと、吸い口をティリオンの方に向けた。小屋の中で嗅いだ甘い臭いの放つ煙だ。アイナが最近嗅いだことのある臭いとはこれのことだと気が付いた。
「興味はない」
ティリオンの素っ気ない返事にダイモンは唇を尖らせた。そして再び煙草を咥えると、
「そうかい。せっかく仲良くなれると思ったのにな。残念だ」
煙草が足元に落ちた瞬間、ダイモンは斧を振りかざしティリオンに向っていった。
振り下ろされた斧の刃先を、ティリオンを背負っていた杖で防いだ。しかし、斧の威力で杖が真っ二つに折れた。
「そんな安モンの杖で、オレの攻撃が防げるかよッ!」
「動くなッ!」
ダイモンが声をした方を向く。左脇を見遣ると、眉間に皺を寄せた恐ろしい表情で、アイナが弓を引いていた。「ちょっとでも動いたら、ウチがこの矢を放つでおっちゃんッ!」
ダイモンの動きが止まった。そして斧をティリオンから戻すと、その刃先をアイナに向けた。
「やってみろよ嬢ちゃん」
ゆっくりとアイナの方に歩み寄る。
アイナはその勢いに気圧され、ダイモンと同じ歩幅分、うしろに下がる。
「脅しとちゃうでッ!」
「いいや、嬢ちゃんにはその矢は撃てないね」
「なんでそんなことが分かるん?」
「オマエ、人を殺したことがあるのか?」
「……」
「その矢を放つということは、オレを殺すということだ。いつだったか、宇治とかいう男を殺ったとき、あんときはオーガに変異していた。でも、オレはオーガじゃない、人間だ。今まで人を殺したことがあるんなら、ハッタリだとは思わねぇ。でも嬢ちゃん、その若さで心に十字架を背負う覚悟はあるのかい?」
「アイナッ、耳を貸すな。今すぐ撃てッ!」
ティリオンが折れた杖の先をダイモンに向ける。風の刃がダイモンを襲うが、少しも怯むことなく突進してくる。
「んなもん、俺には効かねえッ!」
斧を振り上げティリオンを切りつける。右肩がざっくりと割れ、鮮血がほとばしる。
「ングッ!」
「おじさんッ!」
「言っとくが二対一でオマエらの方が有利、なんて考えてるんならそれは間違いだ。既にオマエらはオレのガジェットの能力にはまってるんだぜ」
「なに?」
「オレの能力『
ポシェットから青紫色の小瓶を取り出し、それをグイッと飲む。薄緑色の霧がダイモンを包み込み、傷が癒えていく。
「カネはいつの時代だって世界の主役さ。この草があればどんどん稼げる。前の世界ではそりゃあ苦労したさ。あまりにも貧乏してたんで、いつもピリピリしてた。『貧しいってのはな、牛丼屋の店員に怒鳴りちらすオッサンを生み出すこと』なんだよ」
ティリオンの肩からどくどくと血が流れていく。震える指先で傷口を押さえると指の隙間から光が漏れ、肩が治癒されていく。
「風属性魔法に治癒魔法か……オマエも随分
ダイモンの言葉に吐き気を覚えた。ティリオンはキッと彼を睨むと、その場に唾を吐き捨てた。
「そうやって聖人ぶった態度を見せて、オレに殺された先人たちのように、オマエもこの畑で死んでゆけッ!」
ダイモンは負傷し膝をついたティリオンになおも斧を振りかざす。
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