第31話 生活資金を貯める
これらふたり分の装備品を揃えるために必要な経費は二〇万ビットも掛かった。これでもいろいろ値切ってくれたという。着ていたスーツを下取りに出しても返ってきた電子マネーは差し引きで一万ビットくらいだった。
自室に戻り、ティリオンは腕を組んで考えた。
(生活資金を貯めなくては)
そこでティリオンは温めていた計画を実行に移すことにした。
題して『尻拭き用葉っぱ販売作戦』。
「てか、ホンマにやるん?」
彼の自室に呼びつけられたアイナは半信半疑だった。「ウソやろ?」
「嘘では無い。大した技術を持たない俺たちが資金を稼ぐにはこれしかない」
「まあ確かにぃ、ここには山のように葉っぱが咲き乱れているけれども、それホンマに商売になるん?」
「柔らかくトゲの無い葉、加えて表面積を大きく持つ物。逆に表面がツルツル過ぎるのはダメだ。理想はフキの葉。蓮の葉は水を弾くほどの滑らかさを持つため不適合だな」
こうしてふたりは野山へ分け入った。適合しそうな葉はすぐに見つかった。
「
と丁度良い大きさの葉をティリオンの風属性魔法で刈り取る。さらに風圧で地面より浮かせ、不純物を取り除いたのち、アイナが収集する。思ってた以上の効率を誇り、葉を集めた麻袋はすぐにいっぱいになった。
昼食後に麻袋の中を覗くと、葉が萎びて強度が不足していることに気が付いた。
「このままやったら、葉っぱが破れるやん!」
アイナの指摘通りだった。そこで、半日だけ葉を天日干しすることになった。余分な水分を飛ばすと同時に、付着する虫を殺す目的も兼ねていた。干し過ぎた葉は枯れ葉となるため加減が難しい。それらを調査したところで初日を終えた。
翌日、早速市場に卸しに行くことになった。ダイモンから鳥車を借りる。原理は馬車と同じで、巨大鳥「オードリー」にリアカーを牽引させるものだ。ティリオンは手綱を握りしめ市街地に向った。
「どこで売るん?」
川を下り牧歌的な景色が続く道中、ふとアイナが訊いてきた。
「市場で露店を出すにはギルドの加入や場所代などいろいろ面倒な点も多い。尻拭き葉っぱを一括で卸すほうがいいだろう」
「トイレットペーパーを大量に消費するところか……レストランとか?」
「それもあるが、宿が一番良いと思うがどうだろう?」
辺疆国家キャリバーンでは、民家が少なく定宿できる場所は重宝された。逆に言えば人の出入りが激しい場所だとも言える。これはネットを通じて予めリサーチしていた。
ところが——
「んなもん要らねえよ」
と、宿の亭主に葉の束を冷たく突っ返された。
「ええ、何でなん? お尻拭くのに絶対必要やろ?」
アイナが食い下がった。
「お前らアムル山の山奥から来たな? 田舎や辺鄙な場所では葉を使うんだろうが、都会ではそんなもん使わねぇよ!」
「へ?」
ティリオンとアイナは互いの顔を見遣った。
「だいたいケツを葉で拭いただけなんて汚ねぇじゃねえか!」
「ええッ?」
「では、ここでは何でお尻を拭くのです? まさか紙ですか?」
今度はティリオンが訊いた。
「いや、だから紙で拭いても汚ねぇだろって話だ。ごくごく一般の生活者はな……これだよ」
カウンターの下から何やら丸くて白い塊を摘まみ上げて見せた。
「これは……?」
「毛だ。羊のな!」
「羊毛ッ?」
「コイツを水に浸してケツの穴を洗うんだよ。常識だろうがッ!」
ガーン!
ティリオンとアイナが白目を剥いた。
「た、確かに……紙や葉で拭くより、そっちの方が清潔……やんな? ウォシュレットみたいなもんか」
「ああ」
ふたりは茫然と立ち尽くした。やがて我に返ると、持参した葉を手に提げて宿をあとにしようとした。そのとき、亭主からこんな声を掛けられた。
「それはそうとお前ら、今日はアレ、持ってねえのかよ?」
「アレ?」
ふたりが振り返る。
「アムル山の葉と言えばアレだろ。ほら乾燥させたヤツを紙で巻いて吸うと、めちゃくちゃ気持ちよくなるアレだよ」
ふたりは顔を見合わせた。何のことを言っているのかさっぱり分からない。
「ああ、知らねえならいいや。今言ったことは忘れてくれ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます