第30話 エルフっぽく見える装備品

 一時間ほどで頭痛と吐き気が収まったころ、ティリオンはダイニングへと向かう。そこにはティリオン以外の者が皆、集まっていた。


「昨日と違い、今日はえらく遅いじゃねえか。待ってたんだぜ」

 声を掛けてきたのはダイモンであった。「ほら、頼まれてたヤツだ!」


 頼まれていたものとは、エルフ族を彷彿とさせるような衣装のことである。


「なぁなぁおじさん、ウチの格好見てよ」

 アイナはティリオンの起床を待たずに先に着替えていた。

「ほう」

 思わず感嘆の声を上げた。


 まず髪飾りには畜獣ダチョウ『オードリー』の羽を用いたもの。狩人レンジャーとして風を読む際に、羽を介して頭部で感じられるようにと作られた物。


 胴衣は猛水牛ギガントバッファローの皮で作られたモスグリーン調のレザーベスト。丈夫で傷がつきにくく、何より軽い。左側上腕には保護のためのアームガードが付いている。レザーのため『臭い』がきついが、あとでチェルシーが夜光苺ナイトベリーをすりつぶしたものを塗りこんで消臭してくれるという。


 腰は胴衣と同じレザーのハーフパンツに、カブトワニのショルダーバック。カブトワニの皮は今回の装備品の中でもっとも高価であったが、薬品ポーションやスマートフォンを所持するには、水濡れに強いものを持つべきというダイモンの提案によるものである。


 それから、レザーの弓掛ゆがけ——弓を引く際に手指を傷つけないための手袋。これはチェルシーが鹿の皮をなめして作ったオリジナル作品だ。


 ニーソックスは転移初日に落としてきたものを拾って再利用。幸いほころびびは無く、使用可能。ブーツも買ってきてもらったが、動きにくいとのことで、これもアイナの自前のスニーカーを履いた。ただし、白だと外敵から目立つということで、迷彩色を施してもらう。


 武器はチェルシーお手製の短弓。ロングボウより一回り小さい。しかし、初心者には十分だということで、これを所持することに決めた。


「実は嬢ちゃんにもうひとつプレゼントがあるんだぜ。ダークエルフにピッタリなアクセサリーだ」

「え、なになに、まだナニかくれんの? めっちゃテンション上がるんやけど」

 アイナは目を瞑り、ダイモンにアクセサリーをつけてもらう。そしてわくわくしながら自分の首周りを見て仰天した。

「ちょっ! 何よコレ!」

「どうだ、いかにもダークエルフっぽいだろ? 角リスザルのドクロを三つ繋げたデスネックレスだ」


 小動物の頭蓋骨ドクロが三つ、皮ひもで通したネックレスを首の下にぶら下げられたのだ。


「キモイわッ!」

「どうしてだよ、いいじゃねえか! エルフの中でも闇落ちした冷酷な種族、ダークエルフっぽく見えるだろ?」

「いやいや、こんなん全然可愛くないんですけど! ちょっとこんなキモイの外してぇなあ!」

 こうしてアイナのダークエルフとしてのコンセプトが固まった。



 ティリオンも自室で着替えて、皆の前でお披露目した。

「なかなかええんちゃうん?」

 開口一番、アイナが甲高い声を上げた。


 ティリオンはハイエルフの魔導士という設定。全体的な色合いは目立たぬような色が良いと、初めから指定していた。


 胴衣はレザーローブ。ただし、動きやすさを考慮して脱着が可能。そのすぐ下は袖なしのレザージャケットである。黒を基調とした近世代の軍服を思わせるようなデザインだ。

 腰から下はレザーのスロップ。動きやすいように膝のあたりをゆったりとさせている。


 問題はブーツであった。元々ティリオンの身長は160センチしかない。外国人の血が混ざっているという設定上、身長の水増しは必要で、彼はいつもシークレットシューズを履いていた。


 これでもこの世界では平均値くらいなのだが、ハイエルフという設定でも、その身長差は必要とした。彼の劣等感とは別の思惑だが、これを解決するための厚底ブーツは必須。ダイモンが用意した靴底では厚みが足りないため、普段から履いている物から靴底を取り外し、アタッチメントとしてレザーブーツに急遽取り付けたのであった。


 武器はレッジーナから貰った杖。

「ただし、魔晶の方はチャージ数が無くなる都度、取り換えなくっちゃあならねえぜ。何てったってソイツは乾電池みてぇなもんだからな」


 詠唱する魔法の威力によって魔晶の消耗度は違う。市販品なら四、五回発動すれば、蓄積された魔力を消費して砂糖のように粉々に砕けるという。


「戦闘の長丁場を想定して余分を持ち歩くんだな」

 ティリオンはダイモンの助言にうなずいた

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