第26話 拠点×経路×機関
「どう?」
チェルシーが顔を覗き込んできた。
「どうって何も起きへんで」
「イメージが足りない。もっと『吸う』イメージを持って」
「吸うって言われてもな……」
アイナは目を
(じゃあ、やっぱ関西のうどんかな?)
今度はうどんを啜るイメージを持つ。吸うよりも圧倒的に効率が良さげな気がしたからだ。すると、どうだろう。大地が微かに光り神秘的な力が地面から足を伝わって、やがては体へと昇ってくる。全身の血管がドクドクと脈打つ感じがして、気が付くと自身の髪を逆立てるようになった。
「え、何これ? めっちゃ足の裏がスースーするんやけど?」
「その状態を保ちつつ、指に理力を移動させて弓の弦を引き絞って」
チェルシーの指示通りに指を動かしてみる。すると、さっきまでピクリとも動かなかった弦が、まるで輪ゴムのように引っ張ることが出来た。
「うわっ、凄い、凄すぎる!」
「この状態が『
アイナは言われた通り、一歩後ろに下がった。大地からの力の流れが止まり、引っ張っていた弦は、急に元の針金のような固さに戻った。
「あ、急に弓が固くなった!」
「
「へ~、あの人、そんなに凄かったんや」
「だから、
アイナは忘れないうちに、もう一度、
「いいよ。その調子その調子。で、次に、矢を番えて」
背中に背負っている矢筒から矢を一本引き抜く。矢羽根を弦に添えて引き絞る。
「目標は木の幹に刺さったナイフ。しかし、この小さな的を射抜くために何かしらの手引きが欲しいところだ。そこで『
「まだ覚えることあるんかいな?」
「
「待って待って待って、分からへん。どういうこと?」
アイナは少しパニックになっている。
「いい? 矢が空中を走るイメージ、そしてそれが木にぶつかるイメージ。それを何とかやってみて」
「そんなぶつかるイメージって……」
アイナは目を瞑り、過去の出来事を思い起こした。
(ぶつかると言えば、調子こいて原チャで飛ばして電柱にぶつかったことやな。大したケガはなかったけど、原チャはボコボコやったなぁ)
「最後に
チェルシーの大きな声にビクッとなり、アイナは思わず弦と矢を放してしまう。十分に引き絞ってはいたから、飛ぶことは飛ぶだろう。ただ、狙いが甘いとアイナは考えていた。
「あちゃ、失敗や」
そう
「大丈夫!」
とアイナの動作に太鼓判を押した。
矢はアイナの言う通り目標とする木の幹よりも、かなり脇を抜けていきそうな気がした。ところが、矢が空中で軌道を変えると弾道がカーブし、ナイフの隣にスコンッという小気味良い音を立てて突き刺さった。
「え、嘘ッ! マジで?」
アイナは走り出し、刺さった矢のところへ走り寄った。それを掴み取り、「ひょっとしてウチ、めっちゃ才能あるんちゃうん?」
チェルシーはニコニコしながら、
「姉ちゃんは、矢を放つとき何をイメージしたの?」
「何をイメージって、原チャに乗ってて、事故ったときのことを思い出しただけや」
「原チャってのがオイラよく分かんないんだけど、
「そうなんか~」
「姉ちゃんが使った短弓は人間用にとオイラが作ったものさ。今日は上手くいったお祝いにプレゼントするよ」
「ホンマ? 嬉しい~、ありがと~」
アイナはチェルシーに飛びつき、顔をすり寄せ大きなウサギ耳をもふもふするように撫でた。
「おい、耳は、耳はやめろって言っただろ!」
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