第15話 スマートフォンと電子マネー

「ほらよ」

 ダイモンはスマートフォンを投げて返却した。


「一台一万ビット……ああビットってのはこの大陸で使える通貨のことだ。それが二〇台で二〇万ビットだ」


 ティリオンがスマートフォンの画面を見る。しかし表示されるウォレットには一九万ビットしか表示されていなかった。


「言っとくがこのホームはタダで利用できるわけじゃねえぞ。最長で三日。三日後にはふたりとも出て行ってもらう。その分の宿代と夕食分だけは前払いで頂いておいた。嬢ちゃんの分も含めてな」

「ええッ! ココを出ていかなアカンの?」

「オレも慈善事業でやっているわけじゃあねぇ。大体、異世界(アウターネット)に来るヤツらってのはどこか甘い考えが抜けきらない、腑抜けな連中ばかりだ。要するに可愛い子には旅をさせろってことだよ」

 フフンとダイモンは鼻で笑った。


「そこを何とかならないか? 金なら払う」

「金の問題じゃねえんだ」

「何やねん、ちょっとくらい親切にしてくれたってええやんかッ、このドケチッ!」

「何だとッ!」

 アイナの挑発に、ダイモンがカウンターから身を乗り出しそうになる。


「若い娘が言うことだ、ゆるしてやってくれ。その代わりと言っては何だが……」

 ティリオンはリュックの中から何やら小箱のようなものを取り出した。

「これは世話になるお礼だ」

 と、それをダイモンに握らせた。


 ダイモンが手のひらに視線を落とすと、そこには国産煙草が三箱握らせられていた。

「ティリオン……オメエ分かってんじゃねえか」

 ダイモンは急に機嫌が良くなった。「気に入った。好きなだけココに泊まっていけ」


 その言葉を聞いてティリオンとアイナはタッチして喜んだ。

「ところで、腹が減ってるだろ? 今仕度させるから一緒に喰おう」


 ティリオンが周囲を見渡すと、奥からレッジーナが姿を現した。部屋の手筈てはずは整ったらしい。


「では、お部屋へどうぞ」

 体を斜にずらして彼女が案内役を買って出る。


 嬉々としてアイナが歩き出し、そのあとをティリオンが付いて行こうとする。それをダイモンが肩をグイっと掴んでそれを制した。


「先に忠告しておくがティリオン……レッジーナには手を出すなよ。何を考えてんだかさっぱり分からねえ女だが、前々からアイツのことを狙ってんだ。なかなか情にほだされねえタイプみたいで、苦労してんだが……。もし、オマエがあいつに手を出したら——」

 ダイモンが後ろを振り返る。そこには鋭い光を帯びた手斧が飾られていた。

「俺の得物がオマエの脳天をカチ割ることになるぜ」

 と耳元で脅した。


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