第423話 ホームへ帰ろう

 帰ると決まれば善は急げと、ルディたちはその日のうちに王城を出た。

 その直後に城の従者がアマンダ王妃からの手紙を持ってきたが、ルディたちとはすれ違いで会えずじまいだった。

 手紙の内容は、明後日に昼食会を開くので、ルディに料理を作って欲しいという依頼だった。

 従者はルディが平民だったので、それほど重要な案件ではないと思い込み、後を追わずにそのまま戻る。その従者は、後でアマンダ王妃に叱られた。


 ルディたちは、二台の馬車を借りて、日が暮れる前に王都を出てカッサンドルフに向かった。

 馬車を借りたのが日没前、御者は夜の移動を嫌がったが、ナオミとルディが馬車の前に車のヘッドライト、しかもハイビーム仕様の魔法を唱えた。

 御者は見た事のない魔法に驚き、相手が魔法使いだと知って何故か土下座をし始めた。

 彼が土下座をした理由は、普段の一般庶民は魔法を目にする機会がなく、不思議な力を持つ魔法使いを恐れているからだった。


 多少のトラブルはあったが、ルディたちは二台の馬車に分かれてカッサンドルフへ向かった。




 馬車を走らせて、翌日の昼前にカッサンドルフに到着する。

 そこでルディたちはリンと別れて、ハクを呼び寄せた。

 彼女はこの後、カッサンドルフ行政官のアルセニオたちと面会して、王都での結果を知らせる予定だった。


 ルディたちは街には入らず、人気のない草原に向かった。

 そして小一時間ほどまっていると、魔の森から来た輸送機が上空から現れた。


 ソラリスが操縦席に座り、他の皆は客席に座る。

 ルディは席に座ると、窓から空を眺めて、今回の事を色々と思い出した。


「少しやり過ぎたです」


 ルディの呟きにナオミ、レインズ、ルイジアナ、ハクが思わず吹いた。


「ルディ。少しじゃない、思いっ切りやり過ぎだ」


 ナオミからのツッコミに、ルディが首を傾げて考えた。


「……確かに戦争しておいて、少しは過小評価でした」

「それよりも私は、国家間の状況を変えた方を評価するけどね」


 レインズ、ルイジアナ、ハクは戦争に勝ってカッサンドルフを手に入れた事を評価していたが、ナオミはそれよりも、ハルビニア、ローランド、レイングラードの三国関係を評価した。


「まあ、今回の話カールから来た時、ローランドが負ければ自ずとこうなる事は、半分予想していたですよ」

「予想するのと実現するのでは全く違う。それで、ルディ。お前の見立てでは何年ぐらい戦争が起こらないと予想している?」

「……そーですね。何もなければ、5年ですかねぇ……」

「あれだけ大敗北をしたのに、そんなに早くローランドは戦争を起こすのか!?」


 5年と聞いてレインズが驚き、ルディに問うた。


「ローランドはレイングラードに侵略したくても、レイングラードと軍事同盟を結んでいるハルビニアが背後に居るため、攻められねーです」

「そうだな」

「戦力が劣るレイングラードには最低限の兵を置いて、ハルビニアに攻めてくるですよ」

「ローランドが攻めて来ないという、考えはないんですか?」


 ルイジアナの質問に、ルディは頭を左右に振った。


「だから僕、さっき少しやり過ぎたと言ったです。カッサンドルフ地方の食料庫を奪われて、数年後には基軸通貨のローランド金貨が他国でも生産されるですよ。どちらか片方だけならまだ何とかなったけど、両方を封じられたら、僕ならキレて戦争するです」


 ルディの話に、全員が理解して口を閉ざす。


「まあ、やっちまったものは仕方ねーです。はははっ」


 そんな中、ルディは他人事の様に笑った。




 ナオミがツッコもうとするが、その前にルディが手で制する。


「僕の予想。次の戦争でバイバルスが攻める先は……デッドフォレスト領です!」

「うちか⁉」


 ルディの宣言に、レインズとハクが目を見張った。


「そーです。5年後。僕が提供した小麦で収穫量が三倍に増えているです」

「……あっ!?」


 それでレインズもルディの言いたい事が分かった。


「5年も経てば、情報が洩れて種もみ生産してるの僕だとバレバーレです。F1種だから収穫した種もみで育てても同じ様に成長しねーですが、そんな事、どーでも良いのです」

「…………」

「僕を捕まえて種もみを作らせれば、それだけで全国の小麦の生産量が三倍になるですよ。ローランドが少ない戦力で最大の功績を得る。次の狙いは間違いなく僕です」


 ルディの予想が当たっているかどうかは、今の段階では分からない。

 だが、レインズは5年という時間が短く感じた。




 ルディたちを載せた輸送機は空を飛び、数時間後にはデッドフォレスト領に到着した。

 領都の近くでレインズとハクを降ろす。


「レインズさん。さっきの話はまだ陛下には内緒にして欲しいです」

「何でだ?」


 秘密にする必要が分からず、レインズが質問する。


「まだ予想の段階です。それに、種もみの正体をまだ知られたくねーですよ」


 収穫量が三倍に増えると聞けば、根掘り葉掘りルディに質問してくるだろう。

 ルディはそれが嫌なので、レインズに秘密にするようお願いした。


「分かった。君には数えきれないほどの恩がある。陛下であろうが秘密にしよう」

「お頼み申すです」


 約束してくれたレインズに、ルディは頭を下げた。


「それとですね。僕、数年は世間に出る気ねーです」

「そうなのか?」

「そーなのです。平民の僕、活躍しても貴族の反感買うだけですよ」


 その話にレインズもその通りだと頷いた。


「僕と連絡してー時はイエッタに言いやがれです。それで、僕に通じるですけど、よっぽどの事じゃなければ、イエッタが何とかするです」

「……君と会えなくなるのは寂しくなるな」


 ルディと一緒に居るのは確かに大変だった。

 だが、同時に冒険の連続で楽しいとも感じていた。


「これが根性の……根性? 違う、今生の別れちゃうですよ。魔の森でデッドフォレスト領の発展を……そーですね、ルーン正教に願うです」


 ルディが微笑んで手を差し伸べる。

 その手をレインズが握って、がっちりと握手をした。


 ルディが輸送機に乗って魔の森へと向かう。

 レインズとハクは空を飛ぶ輸送機が見えなくなるまで見送った。




※ これで4章が終わりです。

  文字数が分からないけど、多分文庫二冊分ぐらいになったのかな?

  次章は再びエルフの森に行く予定だけど、さすがに一年間毎日投稿して疲れました。

  書き溜めも尽きたし、最低一週間は休んで、続刊が確定したら執筆します。


  だけど、掴んだ読者は逃がさねえぜ。

  という事で、私が休んでいる間は、チョロチョロと書き貯めていた、別の小説を投稿します。是非、読んでください。

  ……とは言っても、多分読みに行ってくれない人が大半だと思うので、最初の冒頭部分だけここに記載します。

 タイトルは『蒼のスターダスト・ギア』です。


      『第1話 砂漠の陽炎』




 アンタの魂は何色だい? え? 分からない?

 それは、まだ自分と向き合ってないからさ

 だったら、私の魂は何色かだって?







   私の魂はスカイブルー

      私の名前と同じ、どこまでも広がっている空の色さ







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 私が産まれた年に、WU太平洋連合とロシミール中華国連盟RCFの戦争が始まった。


「自由と平和のための戦争だ!」


 ガキの頃、教師から戦争の理由について散々そう聞かされたけど、今なら違うと分かる。

 この戦争は互いの国の政策が正しいと主張し合っているだけのくだらない戦争さ。

 民主、共産、ファシスト……どんな国でも戦争を始める支配者ってのは、どいつもこいつもクソ野郎。

 戦争は自由と平和ためなんかのじゃない。クソッタレな政治家と悪魔に魂を売った武器商人が、兵士の命と引き換えに力を手に入れているだけだろ。無学の私でも分かる、本当にくだらない話さ。


 開戦から18年経った今でも戦争は続いて、両陣営合わせて4000万以上の人間が死んだ。

 多くの魂を犠牲にした、血塗れの自由と平和なんて、私は欲しくない!




 父さんはアメリア合衆国空軍のパイロットだった。

 たまに家へ遊びに来る父さんの同僚の話だと、父さんはエースパイロットらしい。

 父さんは自慢する性格じゃなかったけど、家に遊びに来る酔っ払った同僚が父さんの活躍を色々と教えてくれた。

 そんな父さんは自分の事を自慢げに話す同僚を止めながらも、何所か恥ずかし気な様子で、私はそんな父さんが大好きだった。


 私が16歳の時、父さんは激戦地で交戦中に同僚を庇って天国に行っちまった。

 降り積もる雪の中を神父が神に祈り、墓守人が遺体のない遺品だけが入った棺桶を埋める。

 父さんの同僚は嗚咽を漏らして墓穴向かって何度も謝り、上司は大事な駒を失って落胆していた。

 私は泣き崩れる母さんの横で空を見上げる。

 その日の空は灰色の雲に覆われて、天使が住むには汚い色の空だった。




 父さんが死んで、母さんは生きる気力を失った。

 私は母さんを励まそうと、辛い心を無理やり奮い立たせて元気に振舞う。

 そんな私に母さんは微笑むけど、その目は私を見ておらず、幸せだった頃を思い出していた。

 父さんが死んで二年後、後を追うように母さんも病気で死んだ。


「ごめんね……」


 母さんの最後の言葉は私への謝罪だった。


 戦争は私から両親を奪った。

 幸せな時間は過去の物となり、辛い現実だけが残る。

 母さんの葬儀を終えた一週間後、私は両親の思い出の残る家を出た。




 ここまで! 続きが気になったら、下のプロフィールにある『作者の他の小説』をクリックしてください。


以上

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