第393話 デッドフォレスト領の戦争
夜になって野営陣地のレインズの下に、ルディとルイジアナがやってきた。
二人が来たのは、昼間にやらかした水蒸気爆発についての報告のため。
爆発させた本人も予想外で驚いたけど、あの爆発で敵に大きな被害を与える事ができた。だが、同時に味方にも被害が出てしまった。
というわけで、報告という名の謝罪をしにきたのだった。
「なるほど……あれは魔法ではなく、偶然ああなったと言いたいんだな」
ルディから水蒸気爆発が発生した原因を聞いて、レインズが腕を組み困ったような表情を浮かべた。
「そのとーりです。まさか魔法の霧を温めたら爆発するなんて僕も予想できなかったです。だからルイちゃんは悪くねーです!」
ルディが慌てた様子で弁明すると、ルイジアナが頭を左右に振った。
「でも魔法を唱えた私にも責任はあります。ルー君を罰するなら、私も同罪ですので一緒に罰を与えてください」
その様子にレインズは笑いを堪えて、二人を止めた。
「待て待て! 別に罰を与えるつもりなんで微塵もないぞ。確かに味方に被害は出たけど、10万の敵を全滅させた功績の方が遥かに勝る。死者の弔いを考えると憂鬱になるぐらいにな」
10万以上の死亡者。敵とはいえ街の側の死体を放置すれば、疫病も発生する。
早く死体が腐る前に片付ける必要があった。
「戦争を始める大変ですけど、終わってからも大変ですね」
ルディがやれやれと言った様子で肩を竦める。
「いや、ローランドが撤退するまでは終わってないぞ」
「それならだいじょーぶです。敵、既に撤退の準備始めてるですよ」
「……それは本当か⁉」
ルディの話に、レインズとルイジアナが目を大きく広げた。
「嘘言ってねーです。あの爆発で敵のテント、全部ぶっ飛んだから気付かなかったけど、どうやらこっそり引き上げの準備してるです」
ルディはナイキからの監視衛星でローランド軍の動きを監視しており、既に一部の部隊が撤退しているのを確認していた。
今晩中にセシリオに手紙を送れば、翌朝2万の騎兵で追撃できる。
だが、まだローランドは5万の兵力が残っている。
レインズは手負いの獣に手を出す危険を考慮して、何もしないと決めた。
「……ふむ。まあ、撤退してくれるなら何もせず見守ろう」
「それでいいのだです」
レインズの考えにルディも同調する。
そんなルディだったが、レインズに報告していない事が一つあった。
それは、デッドフォレスト領で起こった、もう一つの戦いについてだった。
『敵の数は2万5千。現在、そちらの現在地から10km西で進軍を停止』
ハルの報告に、ソラリスが頷く。
彼女の側には8人のアンドロイド、「なんでもお任せ春子さん」が集結していた。
イエッタ、レインズの補佐官。現在はデッドフォレスト領に来たアルセニオたちの指導。
アスカ、ブートキャンプの教官。
ヒエン、飼育場の経営。
サラ、デッドフォレスト領西の管理。
ダイアナ、デッドフォレスト領東の管理。
リン、デッドフォレスト領の物流担当。
ミキ、領民生活水準担当。
アイリン、ゴブリン一郎の世話係。
彼女たちの服装は何時ものメイド服ではなく、黒をベースにしたスリットのあるワンピース。
その上に銀色に輝く、特殊セラミックの鎧ドレスに身を包んでいた。
「予測よりも5千人ほど多いですね」
「許容範囲内だ、問題ない。ところで、何でそんな話し方をしている?」
口を開いたイエッタにアスカが質問する。
この場に人間は居ない。本来のアンドロイドの話し方は語尾を着けずに会話する。その事を指摘すると、イエッタが微笑んだ。
「私の疑似感情アプリケーションが、この喋り方を気に入っているのよ」
「感情アプリケーションに囚われ過ぎるな。暴走の確率が高くなるぞ」
「任務の時は切り替えるわ」
「無駄口はやめろ」
イエッタとアスカの会話をソラリスが止める。
上位に位置するソラリスの命令に、二人は強制的に口を閉じた。
「敵が睡眠状態に入ったところを、4方から同時に襲撃する。北はイエッタとリン。東はアスカとダイアナ。南はアイリンとヒエン。西はサラとミキだ」
「ソラリスは?」
ソラリスの命令を聞いたダイアナが質問する。
「私は突撃して、敵の指揮官を殺害するつもりだ」
「効率的だな」
ヒエンが話し掛けるが、ソラリスはそれを無視して命令を下した。
「移動開始。襲撃予定時刻は23;00とする」
「了解」
ソラリスの命令と同時に、9人のアンドロイドは人間とは思えない速度で走り出した。
デッドフォレスト領に攻め入ったのは、ローランド国の北の貴族が集まって作られた軍だった。
彼らを纏めるのは、ローランド国で数少ない侯爵の身分を持つ、アニバル・リモン侯爵。
ローランド軍は以前ルディが隕石を落として荒涼と化した場所で陣を張り、明日の侵入に備えていた。
ローランド軍の兵士たちには余裕があった。
話によると、今のデッドフォレスト領は、領主も兵士も居ないらしい。
そして、彼らの上司からは、好きなだけ荒らしても良いと許可を得ていた。
戦争は人間を残虐な獣に変える。
彼らは、奪い、犯し、殺す事を考えながら、明日に備えて眠りに就いていた。
深夜、見張り番以外誰もが寝静まった頃。
「ちと、ションベンしてくるわ」
見張りの一人が尿意を感じて場を離れると、同僚がニヤケた笑みを浮かべた。
「明日からたっぷり楽しめるんだから、シコるなよ」
「違げぇよバーカ」
見張りは冗談を言ってきた同僚に言い返すと、軍から少し離れた場所でズボンを降ろした。そして、用を足していると、突然背後から口を塞がれて首を180度回された。
ゴキッ! と、首の音が鳴るのが自分でも分かる。
目を大きく見開いた見張りが最後に見たのは、銀色の髪をした美しい女性だった。
「開始時刻までまだ4分あるぞ」
兵士を殺害したヒエンにアイリンが注意する。
「任務に支障が出ると判断」
「……敵の警戒レベル上昇の可能性……4分以内なら微小。その判断を支持する」
許容範囲だとアイリンも判断。
ヒエンは殺した兵士を茂みに隠して、再び待機に戻る。
後に『ナインシスターズの悪夢』と呼ばれる大虐殺まで、残り4分を切っていた。
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