第394話 悪魔の生贄

『23;00作戦開始時刻だ』


 ハルの連絡と同時に、ローランド軍の東西南北に潜んでいた「なんでもお任せ春子」さんの八人が行動を開始した。




「遅っせえなー。アイツ本当にシコってんのか?」


 トイレに行ったきり戻ってこない仲間を、先ほど冷やかした兵士が心配する。

 仲間が消えた方を眺めていると、暗闇からヒエンとアイリンが姿を現した。

 兵士は夢かと思って目を擦り、もう一度見て本物だと分かるや、口笛を吹いてニヤニヤ顔で近づいた。


「おいおい、ねーちゃんたち。遊びに来た……ゴヒュ!」


 会話の途中で、ヒエンが相手の喉に手を突き刺す。そして、食道と首の骨を掴んで一気に引き抜いた。

 兵士は喉の痛みを感じて息もできず、白目になって息絶えながら地面に倒れる。

 ヒエンは手に持っていた肉と骨を投げ捨てると、腰に付けていた剣を抜いた。




 八人のアンドロイドは目に付いた敵を、相手が寝ていよう起きていようが、次々と殺し始めた。

 その素早さは電光石火。敵は誰かが近くに居ると思った瞬間、首を刎ねられ、心臓を突かれて命を落とした。


「な、何だ⁉」

「……敵か⁉」

「敵襲だ‼」


 当然、ローランドの兵士もアンドロイドの存在に気付いて、大声で応援を呼ぶ。

 その声に寝ていた兵士が目を覚まして起き上がった。


『敵警戒レベル2に上昇。敵残存数99.98%』


 ハルが状況を全員に知らせる。

 彼女たちは反撃される前に、起きようとしている兵士から順に殺し始めた。




 八人のアンドロイドが戦っている最中、ソラリスは作戦開始と同時にローランド軍の中央に向かって走っていた。

 最初のターゲットは、軍の指揮官アニバル・リモン侯爵。

 居場所は既にハルが確認しており、彼女は寝静まっている敵軍の中を駆けていた。

 当然、ソラリスの姿を見つけた兵士も居るが、呼び止めようにも声を掛ける前に走り去るため、目をしばたたかせて見送る事しか出来なかった。


 500メートルの距離をたった20秒で走ったソラリスは、息切れした様子もなくアニバル・リモン侯爵が寝ているテントに到着した。

 テントの入口の前には、護衛の兵士が寝ずの見張りをしており、彼女を見つけて声を掛けた。


「とまれ! ここはリモン様のテントであるぞ!」


 二人の護衛は槍を構えるが、警告した相手が女性だと気付いて目を見張る。

 戦時国際法などない世界、基本的に女性は身の危険から存在していない。

 一応、ホワイトヘッド傭兵団に一人だけ女性の傭兵が居るけど、彼女は自分で自分の身を守れるだけの強さがあるので、あれは例外。

 女性というだけで場違いなのに、月明かりに照らされたソラリスの容姿は美しく、まるで月の女神の様だった。


 その時、離れた場所から敵襲の声が聞こえてきた。

 声に護衛の兵士が目を離した瞬間、ソラリスの振った剣が、二人の護衛を鎧ごと叩き切った。


「……なっ⁉」


 護衛の兵士が驚きながら地面に倒れる。

 ソラリスは倒れた兵士を見下ろしてから、テントの中に入った。




 テントの中ではアニバル・リモン侯爵が全裸で眠っていた。

 彼の左右には娼婦らしき女性が一緒に寝ており、彼は戦場であろうが性欲を満たした後だった。


「ん? なんだ?」


 テントの入口が捲れる音と気配に気付いて、リモン侯爵が目を覚ます。

 そして、目を擦りながらソラリスを見ていたが、やがて焦点が合うと彼の股間がむくっと大きくなった。


「ほうほう? これはなかなかの上物ではないか! ほれ、こっちにこい。儂が可愛がってやろう」


 スケベ心むき出しでニタニタ笑うリモン侯爵に、ソラリスが近づく。

 そして、彼の頭を優しく撫でると、もう片方の手で顎に触れた。


 ゴキッ‼


 ソラリスが力を入れて、リモン侯爵の頭を90度以上に曲げる。

 首の骨が折れる音がテントの中に響いた。


「……あれ?」


 リモン侯爵は本当に首を傾げながらベッドの上に倒れと、そのまま意識を失って死亡した。

 ターゲットの死亡を確認したソラリスはテントの外に出ると、次のターゲットに向かって走り出した。




 ローランド軍の外周では、八人のアンドロイドの手で多くの死体が生まれていた。


 最初、兵士たちは敵が女性と聞いて直ぐに終わると思っていた。そして、生きたまま捕えて楽しもうとまで考えていた。

 そんな彼らがヘラヘラ笑いながら騒ぎのする方へ行ってみると、鎧ドレスに身を包んだ美女が死神と化して、味方の兵士を殺していた。

 相手は女性。コイツ等、何をやっているんだと思いながら兵士が近づく。その瞬間、自分の首が空を舞った。

 首を刎ねられた兵士は、状況が理解できないまま死亡する。

 そんな光景が8カ所で起こっていた。


『敵警戒レベル3に上昇。敵残存数82.43%。ソラリスの敵将校の殺害数2』


 ハルからの報告が全員に通達される。

 ナインシスターズの虐殺はまだ始まったばかりだった。




 それから20分後……。


『敵警戒レベルMAX。敵残存数74.81%。ソラリス、全敵将校の殺害完了。ソラリスは東の処理が遅れているので、支援に回れ』

「了解」


 最後のターゲットを殺したソラリスが、ハルの命令で東へ移動する。

 この頃になると、ローランドの兵士たちも突然現れたアンドロイドをただの女性と思っておらず、全力で殺そうと戦っていた。

 だが、頼りの魔法銃で殺そうとしても、彼女たちの鎧は耐熱アーマーなので歯が立たず、肌が見える箇所も耐熱クリームで保護されているため、一切効かない。

 それなら接近して殺そうにも、近づくだけで殺される。

 そして、何よりもアンドロイドは疲労しない。彼女たちは戦い始めた時と同じペースで敵を殺し続けていた。


『このままでは、高熱により機能低下の可能性があると判断する』


 敵の魔法銃による攻撃で、周りの空気が高温の状態が続く。

 アンドロイドの一人サラは、このままの状態が続けば筐体に支障がでる可能性があると判断してハルに警告した。


『……了解。敵の銃使用一定数を超過。発砲を許可する』


 ハルは文明レベルの違いから正体が発見されるのを恐れて、アンドロイドの銃の使用を許可していなかった。

 だが、事前にルディから、正体が発見されるよりも、アンドロイドの安全を優先せよと命令されていたため、彼女たちに発砲を許可した。 


 ハルからの許可が下りると、アンドロイドたちが左腕を前に突き出した。

 左手の手首から先が切れて、カーボンの骨格がむき出しになる。

 さらに手首がガシャガシャと音を鳴らすや、その手が銃に変形した。


『射撃開始』


 銃口からサブマシンガンの如く無数の光の弾丸が放たれて、ローランド兵を次々に撃ち殺す。

 

「ぎゃあぁぁぁぁ!」

「ひぃぃぃぃ‼」

「あ、悪魔だ……」

「…た、助けてくれ」


 高速移動で敵に近づき、右手の剣で切り殺す。

 離れて銃を構える敵には、左手の銃で撃ち殺す。

 兵の中には土下座して慈悲を乞う者も居たが、アンドロイドはその願いを無視して、土下座している兵士の頭を踏み潰した。


『敵、逃走兵の数増加。ソラリスは東へ逃げる兵の処分を行え』

「了解」


 東に逃げられると、デッドフォレスト領が荒らされる。

 ハルはソラリスに命令して、逃亡する兵士の処分に向かわせた。

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