第370話 カッサンドルフ防衛作戦

 セシリオ軍務大臣にルディが招き猫のサイズを教える。

 戦争前にルディが説明した時は、内部に侵入して要人を全員取り押さえるとしか説明しておらず、具体的な内容は説明していなかった。

 なので、セシリオ軍務大臣は侵入方法にそんな大きな置物を作ったのかと驚いていた。

 なお、彼は驚きすぎて、どうやってそんな物を用意したのか? どうやって動かしたのか? などの疑問が頭からすっぽりと飛んでいた。


「ローランドからカッサンドルフを守る方法ですけど、籠城戦ではなく野戦にするです」


 ルディの提案に、スタンが手を挙げた。


「おいおい。せっかく頑丈な要塞が手に入ったんだから、籠城した方が楽だぜ」


 その意見にルディが頭を左右に振って否定する。


「もし、僕がローランドだったら、挟み撃ちになっても間違いなくカッサンドルフの東に陣を敷くです」

「その考えは俺も同じだ」


 レインズがルディの意見に同意する。

 カッサンドルフの東にローランド軍が陣を敷くと、唯一ハルビニア国に通じるピースブリッジが押さえられる。

 そうなると、ハルビニアからの援軍はピースブリッジで足止めされ、カッサンドルフが孤立。それだけは何としてでも避けたかった。


「そこで、ピースブリッジ砦の北東、ピースブリッジ砦の北。そこに陣を敷くですよ。陣地の作成は僕が担当するです。中は天国、攻めたら地獄な野戦陣地を作るです!」


 それを聞いてルディが作る物だから、きっと恐ろしい物になるだろうと、全員がローランド兵を憐れんだ。




「次にですね。戦争が始まったら、国軍の騎兵は南側の支城で待機するです」

「それはカッサンドルフの南側を回ってくる敵への備えだな?」


 ルディの要望に、セシリオ軍務大臣が質問する。


「それで正解です。西門を封鎖するから、敵は北と南のどちら側から東へ移動するはずです」

「門を無視して壁を破壊する方法もありますよ」


 ルイジアナがそう言うと、ルディがにんまり笑った。


「難攻不落のカッサンドルフを落とすですか? ローランドの銃は貫通力がねーから、近づかないと壁は壊せぬです。その時は壁の上からじゃんじゃん矢を撃ちやがれです」

「あーーなるほど」


 ルディの話にルイジアナだけでなく、他の皆も納得した。




「ここから僕の推測です。北は既に兵が居るから、おそらく街の南を回って東に移動すると思うです。そして、北と南から挟み撃ちにして攻めようとする可能性でっけーです」

「ふむ……敵の狙いはカッサンドルフではなく、ピースブリッジと見ているんだな」


 セシリオ軍務大臣の問いに、ルディがその通りだと頷いた。


「こっちの弱点は、唯一の補給路のピースブリッジです。そこを押さえられたら、おしめーです」

「分かった、南の敵は国軍で抑えよう」

「お願いするです。でも、いきなりツッコんじゃダメーよ」

「……む? 駄目なのか?」


 国軍の兵科は騎兵なので、最大に火力を出せるのは突撃時。

 それを駄目だと言われて、セシリオ軍務大臣が顔をしかめた。


「ししょーも言ったですよ。遠距離最強の銃兵にツッコんだら、ぼっこぼこにされるです」

「うむ。死ぬのは勝手だが、お勧めはしない」


 ルディの後にナオミがそう言って肩を竦めた。


「ではどうしろと?」

「それを言う前に1つししょーに確認です」

「なんだ?」

「支城を奪った兵士に聞いたですが、交渉を拒否した敵に奈落の魔女の名前を出したら、直ぐに降参したと聞いたです」

「ああ、私も聞いた」


 ルディの質問に、ナオミが笑って答える。


「もしかして、ローランドって、もの凄ごーくししょーを恐れてるですか?」


 ルディが質問すると、ナオミの替わりにスタンが答えた。


「そりゃそうだ。過去に、1発の魔法で数千人の兵士を失ったんだぞ。今は、ローランドの銃に対抗できるのは、奈落の魔女だけだと言われてるぐらいだ」


 その返答に、ルディはキラキラした目でナオミを見た。


「さすがししょーです」

「照れるからやめろ。それで今の質問の意味は?」


 ナオミが顔をしかめて続きを促す。


「ししょーは言わば大量破壊兵器です」

「人を兵器と言うな」

「喩えです。この戦いの鍵を握るのは、ズバリ! ししょーの居場所です」

「……む?」

「おそらくローランドが一番知りたい情報。それは、ししょーが何処に居るかです!」

「つまり、ローランドは奈落が居るところへ近づかないという事か?」


 レインズの質問にルディが頷く。


「そのとーりです。密集して近づいたところに、ししょーの魔法でドーン! 僕も以前、カール師範から、『奈落と戦おうとするな、あれは人外だ』と教わったです」


 ナオミが若干不貞腐れ、それ以外の全員が笑いを堪えて納得した。


「だから、ししょーは北から来るローランドへの対抗手段で、野営陣地に居ると噂を流すです。そーすれば、北のローランド兵は迂闊に攻めてこねーです。だけど実際はししょー、国軍と一緒に一番南の支城で待機です」

「と言う事は、私は南周りから来る敵を潰せば良いんだな?」

「正解です。国軍の騎兵は囮で、本当の火力はししょーの魔法です!」


 正しく考えを見抜いたナオミを、ルディが正解だと拍手をした。


「これも時代の流れか……」


 今まで主力であった騎兵が囮だと知って、セシリオ軍務大臣がため息を吐いた。

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