第369話 地方債と貴族債
「地方債? もしかして俺が借金をするのか?」
レインズの質問にルディが頭を左右に振って否定した。
「何言ってるですか。辺境の田舎貴族名義で金を借りようとしても、たかが知れてるです」
相手の貴族次第では不敬罪にあたるルディの発言に、レインズが思わず苦笑いを浮かべる。
「地方債とは地方都市の借金です。今回の場合は、カッサンドルフという都市が借金するのです」
封建主義の国では領地が災害などで復興資金が必要になっても、その土地を管理する貴族名義で借金をするのが普通だった。
これは貴族が財閥という組織に近く、私財で領地経営しているのが理由。
だが、今のカッサンドルフはハルビニア国の直轄領であり、貴族の支配下にない。そこでルディは、行政官に任命されたレインズに、カッサンドルフ名義の地方債を発行させようと考えた。
「……それって返済は税金で返すのか?」
「そのとーりです。滅多に踏み倒しが起こらないから、結構手堅い資産運用ですよ。その分だけ金利は低いですけど」
「街が借金を返せなくなったらどうなるんだ?」
「税金で返せなくなったら、生産物を売って借金を返すです。その代償に物価が上がって、景気がゲロ下がりよ。だから借金は計画的に借りすぎはダメーです」
「だが、その地方債とやらを発行したとしても、一体誰が買うんだ?」
「何言ってるですか? もちろんデッドフォレスト領ですよ」
「……は?」
ルディの返答に、レインズの口が開きっぱなしになった。
「うちが金を貸すのか!?」
慌てるレインズにルディが頷く。
「そーです。世界初の資産運用方法で、ローランドがいつ奪還しに来るかも分からん不安な状況。よほどのギャンブラーじゃないければ、こんな債券、見向きもされねーです」
「そりゃそうだ。そんなの俺だって買わない」
「だから、今回は僕がその債券を買うです」
それを聞いてレインズが目を見開いた。
「ルディ君が!?」
「そーです。ただし、僕が直接金を貸したら出処が怪しまれるです。だから、デッドフォレスト領に僕が投資するという形で、カッサンドルフに貸すです」
ルディは宇宙で集めた大量の金を月に隠しており、カッサンドルフの防衛費程度なら、余裕で貸せる財力があった。
ただし、ルディが直接カッサンドルフに金を貸したら、ルディの存在が公になる。
そこでルディは、個人投資家の一人がデッドフォレスト領の地方債を買ったという形にして、デッドフォレスト領はその地方債でカッサンドルフの地方債を購入したという、非常に面倒な手段を取ろうとしていた。
「デッドフォレスト領も地方債を発行するのか? そんなまどろっこしい事をしないで、俺が密かにルディ君に金を貸りてカッサンドルフに貸した方が手間がかからないと思うが?」
ルディから詳しく話を聞いたレインズがそう言うと、ルディが人差し指を立てて左右に振った。
「チッチッチッ! それじゃダメーです」
「何故?」
「国がデッドフォレスト領に金があると勘違いするです」
意味が分からずレインズが首を傾げる。
「クリス国王はデッドフォレスト領に金がないと思っているから、今回の戦争準備に沢山の予算を領地に回したです。だけど、レインズさんに金があると知ったら、その予算打ち切りにされるですよ」
「あーーうん。確かにそうかもしれんな」
その発想はなかったと、レインズが物思う。
「レインズさんはカッサンドルフの行政官になったですけど、デッドフォレスト領の領主である事、忘れちゃダメーです。戦争始まったのはしゃーないですが、その戦争でどれだけ稼げるかが、今後の領地の発展に繋がるです!」
「儲けるのか?」
「とーぜんです。今の話の中でも、既に債券の金利で稼いでいるです。さらに、デッドフォレスト領からカッサンドルフへ物を輸出すれば、もっと儲かるです!」
拳を握って力説するルディを、レンンズは頼もしいと思う反面、恐ろしい事を考えていると思った。
それから、ルディ、ナオミ、レインズ、ルイジアナ、ハク、セシリオ軍務大臣、スタンの7人が集まって、カッサンドルフの防衛作戦の会議が開かれた。
「セシリオ卿。国軍の維持費は国が出すという事で宜しいんですね?」
レインズの質問に、セシリオ軍務大臣が頷く。
「うむ。陛下からはそのように伺っている。ただし、命令系統はそちらではなく、私が一任されているのは忘れないでくれ」
要は国軍の経費は国で持つけど、不利益になる命令は聞かない。セシリオ軍務大臣がそう言った。
「分かりました。戦争が始まるまでの間、街の治安維持をお願いします」
カッサンドルフに居た衛兵はナオミの策略で全員が北の街へ逃げてしまったため、現在街の治安は不安定になっていた。
そこでレインズは、セシリオ軍務大臣に街の治安をお願いした。
「うむ。それなら引き受けよう」
「助かります。ではルディ君。後は任せた」
「はーいです」
レインズが会話の主導権をルディにバトンタッチした。
「まずですね……。ハルビニアから見て西門は邪魔なだけだから、完全に封印するです」
確かにその通りだと全員が頷く。
だが、高さ10m以上ある外門を完全に閉じるには時間が足りない。
そこでルディは一つのアイデアを出した。
「招き猫を門の所に置いて、通行止めするです」
それを聞いて、実際に物を見ていないセシリオ軍務大臣以外の全員が、「あーー」と言って納得した。
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