第371話 ルディの要望とハルの制限

 会議が終わった後、ルディとナオミは会議室に残るとハルを交えて今後の話を始めた。


「それで、さっきの会議では色々と豪語してたけど、実際にどうするんだ?」


 ナオミから話し掛けられて、ルディが腕を組み顔をしかめた。


「さすがに最新の防衛拠点を作るとシャレになれねーですから、すっごーく縛るですよ」

「一応、確認するけど、どうシャレにならないのか教えてくれ」

「んーーと。まず、自動レーザータレットを配置して、近づいてくる敵を撃ち殺すです。そして、敵の陣地に短距離ミサイルを撃ち込むだけで、戦争が終わるです」

『却下します』


 ルディの構想を、すぐにハルが却下した。


「あくまでも喩えです。こんな拠点作ったら、僕、この惑星の人類から恐れられる存在になるです。そーしたら人類増加計画に狂い出るから、やらねーです」

「発達し過ぎた科学というのは、恐ろしいな」


 ナオミが顔を引き攣らせて呟く。


「これでも大量破壊兵器を使用してねーから甘めー方ですよ」

「……もし、その大量破壊兵器を使用したらどうなるんだ?」

「もちろん、ローランドの主要都市を全て消滅するです。だけど、それは僕もできねーです」

「何故?」

『個人による惑星破壊は銀河帝国法で禁止されていますので、私が止めます』


 ナオミが質問すると、ルディに替わってハルが回答した。


「前に隕石を落としたのは、惑星の破壊ではないのか?」


 以前、ルディは隕石を落としてローランド兵を全滅した事がある。その時、ローランド兵と一緒に多くの自然を破壊した。

 ナオミからすると、あれも惑星の破壊行動に思えた。


『確かにあれも破壊行動でしたが規模の問題です。小規模の単発攻撃なら許可しますが、あれ以上の惑星破壊行動はマスターの命令でも却下します』

「あれで小規模なのか……」


 ナオミはそれを聞いて、宇宙と自分ではスケールが違うと思った。




「この惑星の文明に合わせて、防衛拠点は有刺鉄線を使うです」

『私のデータでは、現在の文明レベルと数百年ほど開きがありますが、現在の文明レベルでも作製可能なので許可します』


 確かに今の文明でも有刺鉄線を作ろうと思えば作れる。

 ただし、作るためにはそれなりの施設が必要だった。


「要塞の前に有刺鉄線を配置して、機関銃を……」

『却下です』


 最後まで言わせず、ハルが却下する。


「駄目ですか……カール師範にグレネードを貸してるのに、機関銃がダメーなのおかしいです」

『あれも本当でしたら不許可です。今回は相手が銃を所持しているから、同等の条件だとマスターが言うので許可を出しました。だけど、機関銃はローランド国の魔法銃以上の威力があるため不許可です』

「むぅ……グレネードの矢じりは許可して銃を許可しねーの、やっぱり変ですよ」

『私は火薬の使用を却下してるのではなく、文明レベルで判断しています。矢じりに付けるだけの単純構造なら、魔法と偽れるので許可しますが、この惑星の文明レベルでは、銃を作れるほどの技術が発達していないため不許可です』

「ぐぬぬ……早く文明レベルを上げてーです」

『武器の開発の為に文明レベルを上げるのは、推奨しません』

「そんなの分かってるです! 仕方がねーからバリスタを使用するです。それなら矢じりにグレネード付けられるです」

『……許可します』

「なら、大量のバリスタをカッサンドルフの城壁と、野営拠点に配置するです」


 ナオミは戦争準備を始めた時から、この様なやりとりを何度も見てきた。

 強い武器の許可を求めるルディと、それを却下するハル。

 ハルがルディの意見を却下するのは、人類増加計画とルディ自身の規制を命令の上位に設けているからだった。


 もし、その規制がなければ、今以上にルディは色々とやらかしてただろう。例えば、中世文化レベルの世界に機関銃を持ち込んだり、人前で農耕トラクターで耕したり等々。

 だが、以前にもルディ自身が言っていた通り、急成長する文明は多くの問題が発生する。

 それでも目の前に問題があれば、ルディは科学の力で解決したいと思う。それをハルが規制する事で、ルディは自重する事ができた。




「ところで、バリスタを用意するとしても、材料の確保と作製はどうするんだ?」


 ナオミの質問にルディが「ん?」と首を傾げた。


「デッドフォレスト領からですよ?」


 デッドフォレスト領には魔の森という大森林がある。

 人手さえあれば、木材の確保は容易かった。


「デッドフォレスト領で木材を手に入れても、運ぶ手段がないだろう」

「ししょー。何言ってるですか? 丁度良い川が流れてるじゃねーですか」


 ルディの返答に、ナオミがハッと気づいた。

 デッドフォレスト領とカッサンドルフには、フロントライン川が流れている。

 水に浮く木材なら上流のデッドフォレスト領から川に流せば、数日でカッサンドルフへ運べた。


「なるほど……それなら数日で運べるな」

「運んだ木材は魔法で乾燥させてから、人手のあるカッサンドルフの工房で、バリスタと矢を作成するです」

「よくまあ、色々と思い付くな」

「せっかくレインズさんが行政官になったです。この戦争でデッドフォレスト領と僕、儲けさせてもらうですよ」


 ルディはそう言うと、右手の親指と人差し指を合わせて金の形を作り、ニヒヒと笑った。

 それが私欲ではなく、デッドフォレスト領の経済の活性化を狙っていると分かっている。

 だが、ナオミはルディの狡猾で強欲な考えに肩を竦めた。

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