第333話 暗殺者の襲撃
誰もが寝静まった深夜。
白鷺亭を取り囲んでいた男が集まって、襲撃の最終打ち合わせをしていた。
彼らは、暗殺、盗み、誘拐などを生業とした裏組織の人間だった。
今回は仲介人から「黒髪の子供を殺せ」という依頼を受けて、集合していた。
「……いいか? 殺すのはガキだけだ。女には手を出すな」
暗殺者グループのリーダーが最終確認をしていると、手下の1人が口を開いた。
「なあ。それだけど、やっぱり女も誘拐しねえか? さっき客として紛れ込んだ時に見たけど、結構美人だったぜ」
その案に仲間の半数が同意して頷いた。
「やめておけ、多分死ぬぞ」
だが、暗殺者のリーダーは頭を横に振り、許可しなかった。
「俺が女相手にやられるとでも言うのかよ!」
自分では女1人相手にも勝てない。見下されたと感じた手下が暗殺者のリーダーを睨み返した。
「今回の依頼に女を殺せという命令は受けてない。だから、手を出す出さないはこっちの自由だ」
「だったら……」
「待て、まだ話には続きがある。なあ、変だと思わないか? 何故ガキ1匹殺すだけなのに、これだけの人数が集められた?」
暗殺者の数はリーダーを含めて6人。子供を1人殺すだけなら、過剰な人数だった。
「…………」
暗殺者のリーダーは全員の様子を伺って、誰か反論してみろと誘うが、誰もが答えられず、互いの顔を見合わせて首を傾げた。
「まるで、俺たちが女を拉致するのが当然みたいな内容。そう思わないか?」
「それは、依頼主が女はどうでも良いと思っているだけじゃねえのか?」
「そうかもしれん。だが、俺の勘が女には手を出すなと叫んでる。あの後ろ姿……どこかで……」
暗殺者のリーダーが悩んでいると、誘拐に反対意見の手下が口を挟んできた。
「別に女は見つかったら連れ去るで良いだろう? 寒いんだ、早く仕事を終わらせたい」
「……そうだな。女を誘拐するかどうかは、先にガキを殺してからだ。良いな?」
リーダーの念押しに、拉致を企てた手下も逆らわず頷いた。
侵入する前に、2人を見張りとして白鷺亭の前後に配備させる。その中には、先ほど女を拉致しようと言った手下も含まれていた。
手下の男は不満だったが、もしリーダーに逆らって依頼に失敗したら、翌日の朝には死体となってドブ川に浮いている。その未来が見えて素直に従った。
手下の一人で鍵開けのプロが、ロックピックで白鷺亭の玄関扉を開錠して、4人が侵入する。
そのまま物音1つ立てず食堂を抜けて、2階へ上がった。
事前にルディが寝ている部屋は調べており、鍵開けのプロはもう一度ロックピックを取り出して、ルディの寝室の扉を開錠した。
物音しない廊下にカチッと鍵の開く音が鳴り響く。
鍵を開けた手下が目線を暗殺者のリーダーに送り、開けたと知らせる。
それに暗殺者のリーダーは頷くと、扉のノブを回してゆっくりと扉を開け……開け……何故、開かない?
その様子に鍵開けのプロがドアノブを二度見する。
確かに開錠前に確認しなかった自分も悪い。だけど「寝る時は鍵を閉めろ‼」と、常識的な事を心の中で叫んだ。
鍵開けのプロが面倒くさそうに、もう一度開錠して扉を開ける。
今度こそ開けたはずだと、自分で扉を少しだけ開けて確かめた。
暗殺者のリーダーに合図を送って、鍵開けのプロが後ろに控える。
彼は戦闘が得意でないため、殺害は他に任せて廊下で見張る予定だった。
視線を受け取った暗殺者のリーダーと他の2人が部屋の中へ侵入する。
3人の中に素人は居ない。彼らは暗殺のプロであり、子供1人を殺すことなど造作もなかった。
実行はリーダーが行い、1人は背後で待機。
初手で失敗しても逃げられないように、もう1人が窓の方へ移動した。
まだこの世界に窓ガラスはない。窓は窓ガラスの替わりに木の扉で締まっており、部屋の中は暗闇で何も見えなかった。
暗殺者のリーダーがベッドの上を確認する。
暗闇の中、ベッドのシーツは、子供1人分の膨らみがあった。
暗殺者のリーダーが、突き刺し専用の武器スティレットを抜く。そして、殺害を実行すべくベッドへ近づくが……。
寝息が聞こえない? それに気付いたリーダーがシーツを掴んで一気に捲った。
ベッドの上には人など居らず、身代わりとして、包んだシーツが置いてあった。
既に感づかれている。暗殺者のリーダーは、舌打ちしそうになるのを堪え、手下に合図を送ろうとした。
だが、その前に廊下から呻き声と、床に倒れる音が聞こえた。
廊下から聞こえた音に暗殺者の3人が警戒していると、開いていた扉からルディがひょこっと姿を現した。
「1,2,3人。1人倒して、外には見張りが2人です。全員がこっちに居るという事は、ターゲットは僕ですか? やだ、僕、人気者です」
ルディの問いかけに対する返答は、刃物による襲撃だった。
扉から一番近かった暗殺者の手下が、ダガーナイフでルディを刺そうとする。
そのダガーナイフの刃にはトリカブトの毒が塗ってあり、かすり傷でも命に係わった。
普通なら暗闇で見えない攻撃だった。
だが、ルディは左目のインプラントを既にサーモグラフモードに切り替えており、暗闇の中でも相手の姿が丸見えだった。
ルディが手に持っていた薪で、相手の手首を思いっきり叩くと、手首からバキッと骨が折れる音がした。
手首を叩かれた暗殺者がダガーナイフを落として、手首を押さえる。
「さて、お前たち覚悟は良いですか? 師範直伝の剣術、ご覧あれです」
ルディは腕を伸ばすと薪を横にして構えを取る。
そして、3人の暗殺者に向かって不敵な笑みを浮かべた。
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