第330話 豪華な宮廷料理

 ルディたちは従者に案内されて、下級貴族用のサロンに入った。

 そこでは城に用事のあった数人の下級貴族が、豪華な料理を前に緊張しながら食事をしていた。


「こちらでございます」


 従者に言われて、ルディが椅子に座る。

 ナオミは反対側の席に座ると、ワインだけを注文した。


「ししょー。また飲むですか?」

「またと言っても、さっきはたった1杯だけじゃないか」

「日本酒とワインのちゃんぽんとか、成金のやる事ですよ」

「ただ酒は誰かと飲んで、秘蔵の酒は1人で飲むのが良いのさ」

「ぐむむ……」


 今の冗談はルディも同意。言い返せずに言葉が詰まった。




「お待たせしました。オードブルでございます」


 女中がルディの前に料理を置いた。


「見た目は豪華ですね」


 最初に出されたオードブルは、銀の皿の上に一口サイズのバケットが3つ。

 その上には其々、何かの魚、魚の切り身、薄く切った肉が乗っていた。

 それと、周りにパセリらしき野菜を乗せて、料理を色華やかに見せていた。


「上に乗せてるのは何ですか?」

「左から、塩漬けキャビア、鱈の切り身、牛のパストラミでございます」

「ありがとうです」


 質問をスラスラ答えた女中にお礼を言うと、ルディはさっそくキャビアを乗せたバケットを食べてみた。


「…………」

「……どうだ?」


 顔をしかめるルディの様子に、ナオミがにやにやと笑って質問する。


「キャビアは久しぶりに食べたです。キャビアにしてはしょっぺーですね。バケットはグルテンの少ない小麦粉を使っているから、丁度良いサクサク感があるです」

「家で食べるパンはしっとりして柔らかいけど、ここではそれが普通のパンだぞ」

「それぐらい僕も知ってるですよ。使っている小麦粉の問題です」

「ルディが提供する小麦の種は、そのグルテンというのが多いのか?」


 ナオミの質問に、ルディは鱈の切り身を乗せたバケットを食べながら頷いた。


「もぐもぐ……塩味です。そーですよ。デッドフォレスト領で作る予定の小麦粉はグルテンいっぱいです。それで小麦粉を作ると強力粉になるですから、パンが柔らかくなりやがるです」

「なるほどね」

「あとはビールをぶち込めです」

「パンにビールを入れるのか?」


 ビールを入れると聞いて、ナオミが目をしばたたかせた。


「本当はイースト菌がベストですけど、ビールの酵母でもパンは膨らむです……なんで、このパストラミは胡椒を追加で加えたですか? 喉が渇くですよ」


 ルディは説明した後、パストラミを乗せたバケットを食べるや、顔をしかめて水を飲んだ。


「それが贅沢だからさ」

「その意味を理解したです」


 ルディはオードブルを食べただけで、貴族の料理に否定的だったナオミの考えを理解した。




 その後もルディは、オニオンスープを飲んで、「胡椒を入れ過ぎです」と評価を下し。

 魚料理を食べて、「見た目は豪華だけど、ハーブがキツイ」。

 肉料理を食べる前に、「口直しの一品を用意しないと味がボケる」。

 出された胡椒がふんだんに掛った牛肉料理に、「これは体に悪そうです」と言って、ナイフで胡椒を避けて肉だけを食べるや、「肉に砂糖が染み付いて、酷い味です」を酷評した。


 料理を食べる度にルディの酷評が続き、それを聞いていたナオミが笑いを堪える。

 逆に配給係の女中は、豪華な料理を批評するルディに、目を丸くして驚いていた。


 最後にデセールが出されたけど、砂糖菓子みたいな物を見るや、ルディは一口も食べずに皿を下げた。


「さすがにこれを食べたら体に悪いです」

「まあ、砂糖の塊だからな」

「味もアレですが、栄養バランスも悪いですね。野菜が出たのがオードブルのパセリとオニオンスープだけで、ビタミンが足りねえです」

「……確かにそうだな」

「この手の料理の腕の見せ所は、魚や肉の料理に和えるソースです。だけど、これは香辛料で誤魔化して、料理人が味付けから逃げてるですよ」

「まさにその通り!」

「ふぁ⁉」


 突然背後から声がして、驚いたルディが奇声を上げる。

 何事かと振り向くと、そこには太った男性がルディの方を向いて何度も何度も頷いていた。


 男性の年齢は見た目から40代ぐらいだろう。

 膨らんだお腹に二重顎。目が垂れていて、素顔でも笑っている様に見える。

 そして、服装の色からレインズと同じ子爵だと分かった。


「見た目から美食家ですか?」

「見た目言うな」


 ルディの質問に男性がツッコミで返した。




 声を掛けられた時、ルディは酷評ばかり言う自分に、彼は怒っていると思っていた。

 だが、どうやらそうではなく、逆にルディの評価に同意している様子だった。


「身分低いからこちらから名乗るです。僕、ルディですー。身分は平民ですよ」

「私はナオミ。ただの魔法使いだ」

「ふむふむ。私は クレメンテ・コンバロ。身分は子爵だ」


 クレメンテはルディたちの言葉遣いを特に気にせず、自分も名乗る。

 そして、女中に命令して椅子を動かし、ルディのテーブルに相席した。


「先ほどからずっとルディの話を聞いていたが、まさにその通り。ここの料理は豪華だけど味が頂けない」


 クレメンテが周りに聞かれない様に小声で話を始めた。


「威厳を見せる料理です。仕方ねーですよ」

「その威厳の見せ方がそもそも間違っているのだ。豪華な料理とは、金を掛ければ良いものじゃない。金を掛けて、さらに美味しい料理でなければならん」

「そーですね」


 クレメンテの考えに同意してルディが相槌を打つ。

 だけど、何でこの人は急に力説を始めたのか? それが分からなかった。

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