第329話 人材教育と派遣

「それでルディ。デッドフォレスト領に人を送って、どれだけの期間で使い物に育てられる?」

「そーですね。過密スケジュールで教育すれば、早くて半年で使い物になるはずです」


 クリス国王の質問に、ルディは少し考えて返答した。


「そんなに早く使い物になるのか?」

「真面目で頭が良い人ならです。今までの貴族の悪習が抜けねーヤツは、ブートキャンプで精神から鍛え直すから、もっと時間が掛かるです」

「ブートキャンプ?」

「兵士の訓練所みてーな所です」

「なるほど」


 あそこへ貴族を送り込むのか……。クリス国王とルディの話を聞いていたナオミは、ブートキャンプに送り込まれる貴族を予想して、笑いそうになるのを必死に堪えていた。


「だけど、デッドフォレスト領も人が欲しいですから、陛下にあげるのは、30歳以上のおっさんだけです。子供はこっちで使うです」


 ルディの要件にクリス国王が頷く。


「それで問題ない。占領した後の行政官だ。ある程度の年齢がなければ、信用されないだろう。それにしても、子供を人質に取って働かせるか……意外と容赦ないな」

「んーー。そーなるのかな?」


 ルディ本人にその考えはない。

 ただ単純に、単身赴任で頑張れぐらいの気持ちだった。


「はははっ。なんにしろ没落した貴族だ。地位は戻らなくても、給金が貰えるだけで感謝するだろう」

「働き次第で昇給は弾むです」


 ルディの言い返しに全員が笑っていた。




 その後、バシュー公爵に潰されて現在でも所在が判明している貴族8家に対して、デッドフォレスト領で働くかの打診をする事が決まった。

 貴族8家の中には元伯爵家も含まれており、今のレインズよりも身分が高かったが、彼らは今日の食事にも困っているらしい。


「ドゥラン殿は優秀なのは確かですが、潔癖で石頭なところもありますぞ」


 ペニート宰相の話によると、没落した伯爵家の家名はドゥランと言う。今は貴族でないため、彼も卿ではなく殿と敬称した。


「物申す良いですね。ガンガン言って欲しいです」


 ソラリスの作った設計書も完璧ではない。現に人手不足という問題が発生している。

 今まで彼女の作った設計書を褒める人は多く居た。だが、誰も間違いを指摘する人が居なかった。

 それ故、この設計書に物申して改善してくれる人物が居るのは、ルディとしてもありがたかった。




「陛下そろそろお時間です」


 クリス国王はまだ色々と話をしたかったが、側近の耳打ちに仕方がないと諦めた。


「ルディ。この一戦にハルビニアの命運が掛っている。本来なら父か私が何とかするべきだったのだろう。それを全てお前に押し付ける形になったのは、申し訳ないと思っている」

「全部、戦争が大好きなローランドが悪いから、気にしてないです」


 ルディの物言いに、クリス国王だけでなく全員が笑いそうになる。


「まあ、そうなんだが……勝った暁には褒美は弾むぞ」


 クリス国王が大盤振る舞いな発言をするが、ルディは頭を左右に振って拒否した。


「僕に褒美はいらねーです。全部レインズさんに渡してくださいです」


 ルディの返答に、クリス国王が困った表情を浮かべた。


「地位でも金でも土地でも思うままだぞ?」

「僕の望みは誰にも邪魔されない人生です。それには、地位も土地も金も全部邪魔でございますです」


 それを聞いた途端、クリス国王が笑い出した。


「あっはっはっはっ。欲があるのか無欲なのか分からんヤツだ。だが、私もその考えは何となく理解するぞ」


 クリス国王は子供の頃から王宮で暮らして、常に誰かが側に居た。

 それが当たり前の生活だったが、時々それが堅苦しく思う時もある。

 クリス国王はルディの生き方を少しだけ羨ましく思った。


「奈落、良い弟子を持ったな」

「全くだ」


 クリス国王は最後にナオミに話し掛けてから席を立ち、連れて来た重鎮と共に部屋を出て行った。




「なあ、ルディ」


 クリス国王との会談を終えた後、ナオミがルディに話し掛けた。


「なーに?」

「お前、のんびりしたいと言っている割には、仕事を増やしているけど大丈夫なのか?」

「酒作りも教育も僕が直接やるわけじゃねーから、別に問題ねーです」

「まあ、そうなんだが……」


 ナオミが呆れつつ考える。

 酒作りをハルの命令でドローンがやって、貴族の教育はソラリスが担当するのだろう。だから、ルディの言っている事は間違っていない。

 だが、物事を考えて命令を下す。簡単そうに思えるが、それが出来る人間は少ない。


 そうナオミが考えていると、部屋の扉がノックされて、王城の従者が部屋に入ってきた。


「お疲れさまでした。食事はどうなさいますか?」

「私はいらない」

「僕は食べるです」


 ナオミはいらなかったが、ルディは挙手して料理を頼んだ。

 王城で出される料理は威厳を見せつけるためにも、豪華な食事が提供されると決まってる。

 ナオミは城で出てくる料理よりも、ルディの作った料理の方が美味いと思っていた。だが、その本人が城の料理を食べたことがない。

 そこで今日はせっかくの機会なので、食べてみる事にした。


 注文を聞いた従者が「かしこまりました」と言って、部屋を出る。


「どんな料理か楽しみです」

「期待すればするほど落胆するぞ」


 わくわくしているルディに、ナオミはそう答えて茶を飲んだ。

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