第328話 人材不足
「ルディ。少しやりすぎだぞ」
バジュー公爵が去った後で、クリス国王がルディを叱る。
だが、彼の目元は笑っていた。
「バジュー公爵の事です。ワインの売り上げを落とさないために、何かしてくるかもしれませんぞ」
「うむ。彼に歯向かって潰された貴族は多い。ルディどのも気を付けなされ」
ペニート宰相の話にセシリオ軍務大臣も頷く。
バジュー公爵に潰された貴族は中立派と国王派の貴族が多く、今まで守れなかった2人は心を痛めていた。
今回もバジュー公爵が何か仕掛けてくるだろうと予想した2人は、ルディに警告した。
だが、その話を聞いたルディが目を輝かせて、笑みを浮かべた。
「はいはい! 質問です。バジュー公爵に潰された貴族は、何で潰されたですか⁉」
「いきなりだな……潰された貴族の大半は、派閥抗争の巻き添えの犠牲者だな」
「うむ。お主にはまだ分からんかも知れんが、貴族というのは権謀術数が渦巻く醜い社会だ。利権のためなら同じ派閥間でも争っておる」
ルディの質問に、クリス国王とペニート宰相が答えた。
「それはバジュー公爵見てれば分かるです」
ルディの言い返しに、全員が苦笑いを浮かべた。
「それよりもですね。今、デッドフォレスト領は人材が全然居らぬのです」
「うむ。あの設計書には数多くの計画が載っていたが、全部をやろうとしたら大変だろうな」
ルディの話に、『デッドフォレスト領経営設計書』を熟読しているたクリス国王が頷いた。
「まさにそのとーり。今、デッドフォレスト領の最大のボトルネックは、管理職の不足です」
「ボトルネック?」
システム用語を知らないセシリオ軍務大臣が首を傾げる。
「失礼したです。ボトルネックは問題点という意味です。設計書を作っても文字を読める人材が不足していて、作業効率が悪いです」
「ふむ……宰相。私は領地の経営についてそれほど詳しくないが、そういうものなのか?」
大半の人生を城の中で暮らしていたクリス国王は、周りの人間が全員文字を読めるので、それが当然だと思っていた。
だが、どうやら違うらしいと気付いて、ペニート宰相に質問した。
「そうですな。文字を読めたり計算できる人材は、どこでも不足しがちでしょうな。貴族なら家庭教師を雇うのは当然ですし、金のない商人の子供でも、親から学問を教わります。だが、ただの平民では自分の名前と単純な計算しか出来ませぬ」
「そういうものか……」
初めてそれを知ったクリス国王が驚きつつ頷いた。
「今はデッドフォレスト領の人材不足を、どーやって解決するかです」
ルディは悩み始めたクリス国王を強引に戻すと、自分が考えている事を放し始めた。
「バジュー公爵に潰されてまだ消息のある貴族、全員デッドフォレスト領に招きたいです」
「なぬ⁉」
それを聞いてナオミ以外の全員が驚いた。
「文字が読めるだけでも有能です」
「さきほどの話を聞くと、そうみたいだな」
クリス国王の返答に、ルディが何度も頷く。
「彼らをデッドフォレスト領に呼び寄せて、中間管理職で働かせながら、領地運営を学ばせるです」
「……ほう?」
それに興味が湧いたのか、クリス国王の目が鋭くなった。
「そいつらに領地経営を学ばせた後の事を、陛下も気づいたですね?」
ルディがクリス国王に微笑むと、彼はニヤリと笑った。
「ルディ。本気で私の部下にならぬか? 子爵辺りの身分を与えて、宰相の下に付けよう。彼が引退した後はお前を宰相にしてやるぞ」
「それは素晴らしい案ですな」
クリス国王のスカウトに、ペニート宰相も良き考えだと同意する。
一方、セシリオ軍務大臣とクリス国王の側近は、驚いている様子だった。
「僕はししょーの弟子だから、駄目でーす」
国王の命令を断るルディに、クリス国王の側近たちが驚く。
彼らが驚くのは、国王の命令は絶対であるという概念があったから。
だが、断られたクリス国王は平然とした様子でナオミに話し掛けた。
「では、奈落殿も我が国へ来ぬか? 最高位の宮廷魔術師として優遇するぞ」
「今の生活を捨てる気はないね」
ナオミからも断れてクリス国王がため息を吐いた。
「これだけの人材が在野に居るのが、実に惜しい……」
「全くですな。お2人、いや、ソラリス殿も含めて、3人が国政に関わっていただければ、この国はたちまち発展するでしょう」
悔しがるクリス国王に、ペニート宰相も残念そうに頷いた。
「あの……陛下。話が読めぬのですが。何故、デッドフォレスト領に没落した貴族を送る事がそれほど重要なのですか?」
彼らの中でセシリオ軍務大臣だけが話を読めず、陛下に質問した。
「分からぬのか? ルディはローランド国からカッサンドルフ地域を奪った後、その領地に経営学を学んだ貴族を送ると言ってるんだ」
クリス国王の返答を聞いて、セシリオ軍務大臣が驚き目を大きく開いた。
「……なんと⁉」
「驚く事もあるまい。今回の戦争で一番の功績をあげるのは間違いなくレインズだ。だが、彼は領主になったばかり。褒美にカッサンドルフ地域への鞍替えなどしたら、他の貴族からの反発があるのは確実だろう」
クリス国王の話に全員が頷く。
「なら、ローランドが奪還に来るかもしれない領地を誰に渡す? お主、欲しいか?」
クリス国王がセシリオ軍務大臣に尋ねると、彼は頭を左右に振った。
「おそらく、私では守り切れませんな」
「なに、悲観する必要はない。お主が出来なければ誰も出来んよ。と言う事で、暫くの間は直轄領にする。そこで問題になるのは、誰を代官に任命するかだが……おそらく、バジュー卿が口を挟んでくるだろう」
「しかし、彼は今回の戦争に反対しておりますぞ」
セシリオ軍務大臣の進言に、クリス国王が頭を左右に振った。
「それでも裏で支持者を集めて、強引に割り込ませるのがアレの手段だ。だが、今回最大の功績者であるレインズの子飼いを送ると言えば、どうなる?」
「……まさか、ルディ殿はそこまで考えて⁉」
思わずセシリオ軍務大臣がルディを見れば、彼は胸を張ってドヤ顔を浮かべていた。
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