第322話 ルディとナオミの登城

 イケルとトニアと別れた後、ルディたちは白鷺亭に戻って一泊した。

 その翌日。この日は予定通り、クリス王太子への謁見する予定だった。

 ルディは何時もと違う、濃いめのブラウンカラーで統一した、ロココ調にネクタイを締めた衣装に着替えた。

 髪の色を魔法で黒くして、目には黒いコンタクトを入れる。


 前にレインズから、その服の色は目立つと言われていた。たが、ルディは多少目立っても別に気にしないし。子供の格好に一々文句を入れる貴族など、どうでも良かった。


 ルディがクロークを羽織って1階に降りると、ナオミが何時もの格好で待っていた。

 彼女のルディと同じく、他人の目を気にしない性格。

 彼女は今の服を着るようになってから、貴族の服が堅苦しく感じて、面倒なドレスを着る気がなかった。


「待たせたです」

「うむ。髪と目だけ凡人になっても目立つな」


 ナオミがルディの顔を見て笑う。

 銀髪とオッドアイの瞳。ルディの際立せてる特徴を消すことで、印象は大分薄れているが、それでも素でルディの容姿が美しく、目立っていた。


「顔もいじくるですか? 今すぐは難しいですね」


 ナオミの指摘に、ルディの頭の中で、シリコン樹脂を使ったマスクが浮かんだ。


「容姿を変える魔法があるぞ」

「あっ、そっち? そーいえば、ししょーも顔を変えられたですね。ですが、僕、一度クリス陛下と対面してるから、今更変えても無理ですよ」

「それもそうか」


 ルディの話にナオミが頷いていると、馬車と御者を連れて来たソラリスが白鷺亭に入ってきた。


「お待たせしました。馬車が外でお待ちです」


 彼女は事前に車借屋に予約しており、今日は馬車と御者を借りていた。


「では、行くか」

「とっとと終わらせて、家でのんびりしてーです」


 ナオミとルディは立ち上がると、外で待機していた馬車に乗り込んで、王城へと向かった。




 城門前で馬車が停まり、ソラリスが入城許可書を門兵に提出する。

 彼女は今日の為に2週間前から王都に滞在しており、入城許可書を入手していた。


 門兵から許可を得て、馬車が城内へ入る。

 広い敷地を進んで城の玄関に到着すると、ルディが先に降りてナオミをエスコートしようとするが、それを無視してナオミが馬車から降りた。


「今の私は貴族じゃない。体裁など不要だ」

「相手を誰だか忘れた僕が馬鹿だったです」


 ルディが肩を竦めて、彼らを待っていた城の従者に視線を向ける。

 従者はナオミの行動に驚いていたが、ルディの視線に気付くと表情を戻して深々と頭を下げた。


「ルディ様とナオミ様ですね。お待ちしておりました。城内にご案内します」


 ルディたちは平民だがレインズの代理人であり、国王への謁見者なので、従者は丁寧に持て成す。

 なお、ソラリスはルディの従者という立場なので、客人扱いはされていなかった。


「ではご案内します」

「ヨロシコです」


 従者の後に続いてルディたちも城内に入る。

 従者は平民なら城の豪華な様子に驚くと思っていた。

 だが、ルディたちは一度隠蔽の魔法で城の中に入っている。

 物応じないルディたちの様子に、従者はこの2人はただの平民ではないと認識を改めた。




 ルディたちが案内されたのは、前回とは違う部屋だった。

 前回よりも内装が豪華で、絨毯は赤く、装飾品も華やか。

 部屋も20人ぐらい入れるぐらい広かった。

 前回面会した時のクリスはまだ王太子だったが、国王になった今、王としての威厳を見せつける必要があるためだった。


「ただいま国王陛下をお呼びしますので、暫くお待ちください」


 ルディとナオミがソファーに座り、ソラリスが彼らの後ろに控える。

 それを確認した従者が頭を下げて部屋を出て行くと、彼と入れ替わって城の女中が部屋に入り、2人にお茶を用意した。


「城の中は寒いですね」


 部屋の中には暖炉がある。彼らが入る前から部屋を暖めていたが、部屋が広くて、それほど温まっていなかった。

 それをルディが指摘すると、ナオミが肩を竦めた。


「城なんて広いだけで不便なものさ」

「ししょーも昔はお城で暮らしていたですか?」

「私が暮らしていたのは大きな邸宅だったけど、フィアンセが王子様だったから、城へは何度も通ったよ」

「なるほどです」


 ルディたちの世話をしている女中は、部屋に入る際に従者から小声で、ただの平民ではないと耳打ちされていた。

 今の話を聞いて、彼の話が真実だと確信した。




 暫く待っていると部屋のドアが開いて、クリス国王が部屋に入ってきた。

 彼は護衛する4人の従者と、2人の男性を連れていた。


 1人は高齢期に入りそうな髭を生やした男性で、体つきが逞しく、軍服を着ている。

 もう1人の男性は既に高齢期に入っており、温和な表情の老人だった。


 クリス国王が入ってきたので、ルディとナオミが立ち上がって頭を下げる。

 それに合わせて、2人の背後で控えていたソラリスも頭を下げた。


 クリス国王は上座の1人用ソファーに座り、彼が連れて来た2人の男性は、ルディたちの反対側のソファーの前に立つ。

 4人の従者の内、2人はクリス国王の背後に控えて、残りの2人は部屋の入口前で警護に任った。


「頭を上げろ」


 全員が配置について、クリス国王の従者がルディたちに声を掛ける。

 2人が頭を上げると、クリス国王が口を開いた。


「堅苦しくてすまんな。国王になると、色々と面倒くさいんだ」

「陛下!」


 クリス国王の発言に老人の男性が窘めると、クリス国王が肩を竦めた。


「こんな感じにな。まあ、座れ。このままでは話ができない。公式の場でもないから発言も自由だ」


 ようやく着席の許可と発言の自由を得て、ルディとナオミがソファーに座った。

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