第307話 王都の話とうどん
「そういえば、一郎君が見当たらないですね」
こたつという自堕落製造機があれば、ゴブリン一郎は絶対に入っている。
そう思ったルイジアナの質問に、ルディが肩を竦めた。
「アイツ、最近、たまにしか家に帰ってねーです」
「え? もしかして家出ですか?」
「ちゃうですよ。アイツ、最近ゴブリンの友達できやがったです。その友達の冬支度を手伝ってるです」
「へぇ……一郎君にも友達ができたんですね。いつも1人だったから、心配してました」
「この前、帰った時に話し聞いたら、友達20人居ると自慢してたです。僕、もっと居ると自慢返してやったですよ」
「えっと……」
ルディの話に、ルイジアナは何と答えて良いか分からず戸惑った。
人間側からしてみれば、ゴブリンは家畜や食べ物を狙う外敵な存在。しかも、ゴブリンは繁殖率が高く、一度の出産で4,5人の子供が生まれる。
ルイジアナも雪の大森林に居た頃、他の部族がゴブリンの集団に襲われて、フォレストバードを奪われたという話を聞いたことがある。
このままゴブリンが増え続けたら、何時か問題になると思う。だけど、ゴブリン一郎が頑張っているなら応援したかった。
「ルイちゃんの気持ちも分かるです。このまま増え続けたら、何れ問題が起こるです」
ルイジアナは、ルディもきちんと考えているんだなと思って、ウンウンと頷いた。
「新勢力が誕生すると既存勢力は脅威を感じて、それを潰そうとするです。一郎もそれに気づいていれば良いんですが……」
私が思っている危機感と何かが違う。
ルイジアナは頷いていた頭を横に傾かせて、あれ? と思った。
「ルイ、安心しろ。私が一郎と話をして、この家から西へ行くなら、命の保証はしないと言っておいた。アイツなら守るだろう」
ナオミの話にルイジアナが安堵する。
その安堵は、ゴブリンの問題よりも、自分と同じ事を考えてくれる人が居たという、共感の方が高かった。
ルディとナオミは、昼にソラリスが作った天ぷらうどんを食べながら、王都で感じたルイジアナの話を聞いていた。
彼女の話によると、どうやら王都では、戦争反対派の貴族がクリス王太子の動向を監視しており、彼に面会したルイジアナにも尾行が付けられた。
彼女を監視衛星で監視していたアイリンから、ルイジアナのスマートフォンに連絡が来て、それが分かったらしい。
そして、アイリンの指示に従って、追っ手を撒いて帰ってきた。
「戦争反対派の貴族が動いたですか……ところでししょー? 七味唐辛子入れ過ぎちゃうですか?」
「ん? そうか?」
ナオミはそう言いつつも、七味唐辛子の瓶を振る腕を止めない。
彼女の天ぷらうどんには、七味唐辛子が雪の様に積もっていた。
そのうどんに、ルディとルイジアナの顔が引き攣る。だが、ナオミは激辛うどんを美味しそうに啜った。そして、口元をナプキンで拭いてから口を開く。
「私の予想だが。まだ戦争反対派は、クリス王子がレイングラードと軍事同盟を結んだ事に気付いてないと思う。もし気付いていたら、もっと動きが激しいだろう」
その意見に2人も同意して頷いた。
「ところで、戦争反対派はクリス王子が戦争を考えている事をどうやって知ったんだ?」
「私がクリス殿下と会っている時は、側近を退席させてから、教わった防音の魔法をしていたので、聞かれていないと思います……ですが、もしかしたら……」
ルイジアナは話を途中で止めると、少し考えてから思った事を話し始めた。
「財政大臣が戦争反対派の筆頭です。クリス殿下の計らいで、今月中にデッドフォレスト領へ、200頭の軍馬と半年分の飼い葉が送られます。もしかして、その発注書を見て気づいたのかも」
「200頭の軍馬と半年分の飼い葉となると大金だ。大臣の目にも止まるだろうな」
ルイジアナの考えに、ナオミが頷いた。
「数字は嘘をつかねーです。その財政大臣は優秀ですね、ところで名前は何て言うですか?」
「財政大臣はマクシム・バジュー公爵と言いまして、確か年齢は60歳を超えていたかしら? 彼が居ないとハルビニアの経済が回らないとまで言われています。クリス殿下が国王になった後も、引き続き財務大臣の地位が確約されていますね」
うどんを食べ終わったルディが、目を瞑って腕を組み考える。
そして、目を開けると口を開いた。
「ルイちゃん。次クリス殿下に会うのは何時ですか?」
「約束しているのは、年が明けてから1カ月後です」
「ずいぶんと間が開くですね?」
「国王になった後は、面会や行事が埋まっていて、忙しいみたいです」
「こっちは早急な問題じゃないから、後回しにされるのは当然だろう」
ルイジアナの話にナオミが呟く。
「分かりましたです。僕、決めたです。次のクリス殿下……来月だから陛下ですか。ルイちゃんの替わりに僕が面会するです」
「「は?」」
ルディの決定に、ナオミとルイジアナは振り向いルディの顔を見た。
「何でだ?」
「ルイちゃんは女性ですよ。しかも、エルフです。もし誘拐されたら、エロエロな事されちゃうです」
ルディがナオミの質問に答えると、ナオミとルイジアナが顔をしかめた。
「まあ、その可能性はあるけど……」
「私は大丈夫ですよ。それなりに強いですし」
「ルイちゃん! その油断がダメダメです。男は皆、獣ですよ」
「お前もか?」
「……心はそーですけど、気持ちと体が反応しねーです」
ナオミのツッコミに、ルディはしょぼんとする。だけど、直ぐに気持ちを切り替えた。
「陛下と会った時、僕のプレゼントは直接受け取る言ってたから、丁度良かったです。お祝いの酒でも持って、ルイちゃんの替わりに僕が報告に行くです」
「だったら私も行くとするか」
「おや? ししょーも行くですか?」
「ああ、心配だからな」
2人だけで大丈夫なのだろうか?
会話を聞いていたルイジアナは、2人の心配よりも、絡んで来る相手の方を心配した。
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