第289話 家畜化の条件
ルディはレインズに、自分が直接交渉しに行くと言って、ナッシュからカールの居場所を聞いて、部屋を出た。
その移動中で、ルディはハルに連絡を繋げる。
『ハル。ムフロンを今すぐ調べろ』
『イエス、マスター。コールドマウンテンにドローンを派遣して、サンプル体を確保します』
『人間と共存する病原菌は必ず見つけろ。1つでも見逃したら、人類は滅亡するぞ』
この惑星の豚、牛、馬、鶏など、地球原産の生物は、巡洋艦ビアンカ・フレアが持ち込んだのだろう。入植用の動物は遺伝子を改造しており、危険な病原菌を失くしている。
何故、軍艦が入植用動物の遺伝子を積んでいたは分からないが、そのおかげでこの惑星の人類は、疫病で滅亡しなかった。
だが、逆に言えば、この惑星の人類は疫病の免疫力がなく、風土病に弱い可能性があった。
『イエス、マスター』
『その問題さえ解決できれば、何とかなる。群れていたから序列性はあると思うし、体格もそれほど大きくないから成長速度も早いだろう。後は餌と繁殖能力だな』
『家畜化の条件には動物の性格も必要です。気性が荒いと家畜には向きません』
それを聞いて、ルディが顔をしかめる。
『そうなのか? 性格は手に入れてから、判断するしかなさそうだ』
『それと、この惑星の人間が家畜を育てるのでしたら、牧畜犬が必要でしょう』
『犬かぁ……この惑星に犬って居るのか?』
『現在のところ人間が飼っている小型犬を何種類か発見していますが、牧畜犬にするには臆病な性格なので不向きです』
ルディは宇宙に居た時、帝国宇宙軍では、小動物を使ったセラピーを許可しているという、報道番組を見た事がある。
おそらく、その犬は巡洋艦ビアンカ・フレアが持ち込んだ子孫だろう。だが、品種改良されたセラピー用の子犬では、牧羊犬には不向きだった。
そこで、ルディは犬に代わる動物を考えて、真っ先にゴブリン一郎を思い浮かぶ。だが、その考えを直ぐに頭からかき消した。
ゴブリンは知恵があり、扱い方さえ間違わなければ、牧畜犬の代わりになるだろう。
だが、人間は便利だと思えば、同じ人間でも奴隷にする残忍な性格を持っている。最初のうちは慎重に扱うと思うが、何時かはゴブリンを奴隷の様に扱う未来が予想できた。
ゴブリン一郎の子孫がそんな目に遭う? 自称ゴブリン一郎の親であるルディには、それが許せなかった。
『ハル。そう提案するからには、犬とは違う牧畜犬の代わりを見つけているんだろ?』
『イエス、マスター。魔の森に犬に似た動物の存在を確認しています。その動物を子供の頃から躾けることが出来れば、牧畜犬の代わりになるでしょう』
『んーー。上手くいくのか?』
『先ほどマスターがレインズに言っていたのと同じく、やってみなければ何事も進めません』
それを聞いて、ルディが笑った。
『確かにその通りだな。今の話の方向で進めてくれ』
『イエス、マスター』
ルディが領主館の訓練場に行くと、カールとドミニクが兵士相手に稽古をつけていた。
デッドフォレスト領の兵士もハクに鍛えられてそれなりに強い。だが、カールは4人を相手に、ドミニクは3人相手にしても余裕な様子で戦っていた。
ルディは彼らから離れた場所で、レインズの2人の子供と一緒に居るフランツを見つけて近づいた。
「フランツ、こんにちはです」
「あ、ルディ君。ルディ君も稽古に来たの?」
「残念ですが、今日は別用なのです」
ルディとフランツが会話をしていると、初めて会うルディに興味津々なレインズの長男、ダニエルが話し掛けて来た。
「あの……フランツ様。今、ルディという名前が聞こえたのですが、もしかしたらこちらの方は、怪盗ルディ様ですか?」
「……えっと、怪盗ルディ?」
ダニエルの後に続いて、長女のフローラが首を傾げた。
レインズの子供のダニエルは9歳、フローラは6歳。2人は父親のレインズが領主になった時の立役者、革命の魔女ナオミと怪盗ルディの話を色んな大人から聞かされて、一度でもいいから会ってみたかった。
フランツが返答に困ってルディに視線を向ける。怪盗と言えば格好良く聞こえるが、人前でこの人は泥棒だとは言えない。
「そーですけど、皆には内緒ですよ」
ルディが軽く笑ってウィンクをすると、子供たちの目が輝いた。
内緒も何もルディの銀色の髪をした人間は、この惑星に存在しない。
一目見ればバレバレだけど、あえて自ら広めても面倒なだけだと、ルディは2人の子供に釘を刺した。
「あ、あの! 話を聞いた時からずっと憧れてました! 握手してください!」
ダニエルはルディにお礼を言うと、服でゴシゴシ手を拭いて握手を求めてきた。
ルディがミーハーだなと思いつつも、その手を握ると、ダニエルが感動した。
「私も、私も!」
ダニエルに続いてフローラが、もう片方のルディの手を握ってはしゃぎだした。
「人気者だね」
その様子を見て笑っているフランツに、両手を握られたままルディが困惑顔で肩を竦めた。
「これがモテ期というヤツですか? ……あまり嬉しくねーです」
稽古が終わってカールとドミニクがルディの方に来た。
「ルディ君、居たのか?」
「師範、お疲れ様です。デッドフォレスト領の兵隊さんはどーでした?」
ルディの質問にカールが顔をしかめた。
「そうだな……そこそこ鍛えられているが、彼らは基本的に守備兵として鍛えられていたから、戦場で役に立つかと言われると難しいな」
カールの返答に、ルディはデッドフォレスト領の兵隊は、軍人ではなく警察寄りの兵であると理解した。
「精神論の問題ですか?」
「まあ、そうなる」
「分かりました。何とかしてやろうです」
「ほう? 何か良い案でもあるのか?」
カールの質問に、ルディが課題は山積みだと考えながら口を開いた。
「僕、騎士にする方法知らねーけど、軍人にする方法なら知ってるです。だから、こいつ等をブートキャンプで鍛えろです」
ルディの話に、ブートキャンプの意味を知らないカールが首を傾げた。
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