第287話 デッドフォレスト領の防衛

ニーナとルネが退室した後、ルディは片付けをしているイエッタを観察していた。


「それにしても驚いたです」

「何がでしょうか?」

「アンドロイドのお前が、人間に助言した事ですよ」


 ルディの話にイエッタがクスリと笑い返した。


「そうでございますでしょうか? 私たちアンドロイドは人間の役に立つ使命を帯びていますので、当然の事をしたまででございます」

「そーですか? 先ほどの会話。僕の決定覆して、女性の支援側に話を誘導したですよ」

「それは思い過ごしだと思います」

「……イエッタ。お前の最上位管理者の名前言ってみろです」


 ルディが命令すると、イエッタの疑似感情が停止して無表情になった。


「イエス、マスター。私のアドミニストレーターは、銀河帝国ID293-D2457-M095512。アイナ共和国民ルディでございます」

「間違ってねーですね。それなら、さっきの誘導の理由を言ってみろです」

「女性型疑似感情プログラムの仕様でございます」

「どんな仕様ですか?」

「許容範囲内であれば、弱者側の支援を優先する仕様でございます」

「今回は仕様が設定した許容範囲内の内容で、男性の僕よりも女性を優先したという事ですか?」

「イエス、マスター。それに加えて、封建社会での男女格差も条件に追加されております」

「理解したです。もう戻って良いですよ」

「イエス、マスター」


 イエッタが返事をすると、顔に表情が戻った。


「すまんかったですね。ちょっとだけお前の暴走疑ったです」

「いいえ。私も出過ぎたマネをしてしまいました」


 ルディが謝るとイエッタが微笑み返した。




「途中で邪魔が入ったですけど、今回僕が来たもう1つの目的を話すです」

「はい」

「これはししょーにも言ってねー、僕の予感なんですけど。戦争始まってしばらくしたらデッドフォレスト領、ローランドに攻められる気がするのです」

「おや? マスターの作戦が成功したら、ローランドは南と西で手一杯になるのでは?」

「まあ、そーなんですけどね。戦争始まったら、デッドフォレスト領の兵士、スッカラカンですよ。もし、ローランドがそれに気づいたら、僕なら確実に攻めるです」


 ルディの話を聞いたイエッタが、電子頭脳からナイキの監視衛星にアクセスしてデッドフォレスト領の周辺地域を確認する。

 すると、デッドフォレスト領に隣接しているローランドの領地へ移動中の軍隊を発見した。


「ローランド側で兵の動きがございますね」

「実はそーなんですよ。僕も今朝のチェックで気づいたです」

「私の分析ですと、ナオミ様の存在が原因だと思われます」

「隕石落としが脅しすぎたですか?」

「おそらくは」


 レインズの領主交代時にルディが大気圏外から隕石を落として、ローランドの兵士を全滅させた。おそらくローランド国は再び隕石を落とされる事を警戒しているのだろう。


「ししょーが敵対する事が確実に分かっているのに、あんなのぶち落とされたらたまったもんじゃねー。ローランドの気持ちは分かるです」

「やったのはマスターですが?」

「僕は奈落の魔女のただの弟子です」


 ルディの返答を聞いて、イエッタはナオミに同情した。




「と言う事で。万が一に備えて、デッドフォレスト領の西側の防衛を強化する必要があるです」

「ですが、ローランド国とハルビニア国との間で結んでいる不可侵条約では、デッドフォレスト領のフロントライン川の西側に、砦を作る事が禁止されております」

「別に砦作る必要ねーです。そもそも兵士が居ねーのに、砦だけ作っても意味ねーですよ」

「では、どうなさるおつもりですか?」


 その質問に、何故かルディがイエッタをジッと見て微笑んだ。


「「なんでもお任せ春子さん」は格闘スキルがインストールされているですね」

「はい」

「今回の戦争では僕の正体ばれねーために、宇宙の武器は禁止しているです。だから、お前たちの銃は使用禁止です」

「……はい」


 この時点で、イエッタはルディが何を言うのか理解した。


「ただし、禁止しているのは武器だけです」

「…………はい」


 この時点で、イエッタはルディが何を言うのか確信した。


「ローランドの銃は耐火服と耐熱クリームで無効にするです。武器は何が良いですか? あ、当然接近武器限定ですよ」

「……つまり、私に戦えと?」


 イエッタの質問に、ルディが頭を左右に振った。


「お前だけじゃねーです。僕とししょーがカッサンドルフに行っている間、ソラリスが暇してるです。だから、もしローランドが攻めてきたら、ソラリスとお前たち、春子さんズの9人で防衛しやがれです」


 ルディの話にイエッタは少しだけ困った表情を浮かべた。


「そのご命令は、この筐体の本来の仕様と大分かけ離れているように思えますが?」


 そもそも、なんでもお任せ春子さんは、ハウスメイド型アンドロイド。戦闘能力は緊急事態に備えたおまけに近い。


「それに私たちAIは、ロボット三原則に基づいて、基本的に人間の殺傷を禁止されています」

「でも、それは銀河帝国市民に絞られているから、この惑星の人間は対象外です」


 ルディの話にイエッタが頭を左右に振った。


「ソラリスは疑似感情アプリケーションをインストールしていないので、人間を殺害しても平然としていますが、疑似感情アプリケーションを入れている私たちは、殺傷を行うと精神系のデータに負荷が掛かります」

「そーだったんですね。それは僕、知らねーでした。僕も出来れば、お前たちを戦場に出したくねーです。でも、この惑星の戦争、人権なんて欠片もねーです。侵略したら奪うもの全部奪って、女は犯して、男は皆殺しよ。せっかくソラリスとお前たちが頑張って作ったこの領地を滅茶苦茶にされたら、僕、ガチで切れるです」

「…………」

「そーなったら、ハルとの約束破って、ローランドの領土を全部灰にしてやるです。たぶん、その後、僕、すっごく落ち込んで死ぬまでししょーの家に引き籠るです」


 ルディはそう言うと、ため息を吐いてがっくりと肩を落とした。


「だから、できればお前たちで守って欲しいです」

「……なるほど、理解しました。マスターが暴れないためにも、侵略に備えましょう。武器についてはハルとソラリスに相談します」

「よろしく頼むです」


 ルディはそう言うと、イエッタに頭を下げた。




「それじゃ話も終わったから、僕、レインズさんに挨拶してくるです」


 イエッタとの話を終えたルディは、せっかく領主館に来たから家主のレインズに挨拶ぐらいしようと、ソファーから立ち上がった。


「ご案内しましょうか?」

「レインズさんの執務室の場所は知ってるから、案内不要です」


 ルディは立ち上がろうとするイエッタを制して部屋を出た。

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