第281話 コイルガン

ルディとナオミは地下の研究室に戻ると、ローランドの銃について話し合っていた。


「ルディ。王都でローランドの銃の仕組みが分かったと言っていたな」

「あくまでも推測です。ししょーはローランドと戦った時、実際に銃を見たですよね?」

「当然だ。だが、私は魔道具の知識が無いから、敵から奪って調べてもさっぱり分からなかった。それなりに知識がある人間にも見せたけど、そいつも分からなかったよ」

「ふむふむ。インダクターによる磁場の発生の知識は、それほど広まってねーですね。ハル、コイルガンの内部構造を表示させろです」

『イエス、マスター』


 ハルの返答と同時に、投射スクリーンにコイルガンの内部構造が表示された。


「これが僕、予想した、ローランドの銃の構造です」

「私が見たのと確かに似ているな」


 投射スクリーンには、銅線をぐるぐる巻きにしたハンドガンが映っていた。


「銅線でもなんでもいいですけど、伝導率がある金属をぐるぐる巻くと、一時的に電気貯めるです。おそらくこれはマナも同じだと思うですけど。ハル、どーでした?」

『マスターの考えで正解です』

「じゃー磁力も?」

『同じく発生します』

「電気じゃねーのに変ですね? もしかしてマナは電気の親戚……違う、電気がウィルス化した物かもしれねーです」

『電気のウィルス化……普通ならあり得ませんが、この惑星ならあり得るかも知れませんね。その方向で調査してみます』

「よろしくです。っと話が逸れたから元どーり。コイルガンはですね……このぐるぐる巻いた銅線に電気を流すと、磁力が発生するです。すると、電気に反応する金属がスポットっと中に入るです」


 ルディが説明しながら、投射スクリーンに映っているコイルガンをスロー動画で流した。


「電気流しっぱだと金属中ので動かねーですが、金属を入れて直ぐに電気の流れ止めると、入った勢い殺さねーで押し出されるです」


 動画の中でコイルに入った弾丸が銃身から撃ちだされた。


「ほう……なるほど、構造は理解した。それで、このコイルガンという武器の威力はどれぐらいあるんだ?」


 その質問にルディがコテンと首を傾げた。


「これ武器ちゃうですよ」

「はい?」


 予想外の返答に、ナオミが目をしばたたく。


「僕、これが武器だなんて、一言も言ってねーです」

「そうなのか?」

「そうなのです。これ、無重力環境下で釘を打つ為の工具よ」

「……工具」


 てっきり武器だと思っていたのが、ただの工具と聞いて、ナオミが口をポカーンと開けた。


「こんな重くてすぐにぶっ壊れそうなの武器に使うぐらいなら、もっと良い武器が宇宙にはいくらでもあるです」

「……宇宙は広いなぁ」


 ルディの話にナオミがため息を吐いた。




「それでさっきの質問ですが、近くだったら、鉄板ぐらい軽くブチ破るです。飛距離は……色んな要素が絡んでくるから計算チョット無理ですけど、この惑星の技術で300mは飛ばねー気がするですねぇ」

『マナが電気の実体化した物ならば、魔石を弾丸にした場合、可能性は無きにしも非ずです』


 ルディが悩んでいると、ハルが可能性の高い推測を言ってきた。


「うーん。もし弾丸に磁力あったらレールガンですよ。でも作りが雑過ぎて飛距離が飛ばない? やっぱ、実物見ねーと分からねーです。まあ、仮として飛べるという前提で話し進めるです」

「適当だなぁ」

「僕からしたら、この惑星自体がファンタジーよ。魔法の理論を考えているだけで寿命終わるです」


 呆れた様子のナオミに、ルディが肩を竦めた。




「さて、ここまでの話で、魔石のマナが電気とほとんど同じだと分かったです。そこでししょーに問題です。マナ回路を作るのに必要な、2つの素材はなんでしょうか?」

「1つはマナを流すための素材。もう1つは……そうだな、マナを流さない素材でどうだ?」

「さすがししょー。正解です」


 正解を言い当てたナオミに、ルディが微笑んだ。


「絶縁体がねーと、抵抗もキャパシタも作れねーです」

「ふーん。絶縁体にはどんな物があるんだ」

「単純な物だと木とかガラスなどです。そもそも金属の定義、電気伝導率がある物質です」

「だからこの魔道具も、基盤とやらに木材を使っているんだな」

「そーですけど……木は燃えるから基盤に相応しくねーです。荷電で抵抗チップ燃えたら火事になるです。いや、もしかしてマナは許容超えても燃えない? ハル、後で調べろです」

『イエス、マスター』

「それで、何で突然そんな話をしたんだ?」


 その質問にルディがパネルを操作して、一番最初に流したローランド兵の射撃画像を表示した。


「僕、ししょーから、魔法は幻で実物と違う教わったです」

「うむ」

「例えば、火の魔法使う」


 ルディが右手の人差し指を立てて、魔法で指先に小さな炎を灯す。

 そして、近くにあったメモ用紙を近づけて燃やした。


「炎は幻だから熱くないけど、可燃物は燃えるです。そして、魔法の火はマナが消えると同時に消えて、燃える可燃物だけ残るです。それで合ってるですか?」

「合ってるよ」


 ナオミが頷くと、ルディは燃え尽きそうなメモを捨てて、指先の魔法を消した。


「今回、魔道具を調べて新たに分かったのは、マナは電気と性質似ているです。そして、人間にも微弱な電気、体に流れているです。魔法はマナと体内の電気が融合しているから使えると考えたです」

「………なかなか面白い考えだな」


 そうナオミが言うと、ルディがにっこり笑った。

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