第280話 ロストプラネット

「なあ、ルディ」

「なーに?」

「私は宇宙の金銭感覚を知らないが、今のルディはこの星を含めて、ここの星系を手にしている様なものじゃないのか?」


 ナオミの指摘にルディが頭を左右に振った。


「んー確かにそーなんですけど……銀河帝国に申請したり、宇宙ステーションを作ったり、色々としなきゃ認められねーです。それに無防備のままだと、帝国内の別の国から侵略されるです。だから星系を手に入れても、お金がねーと、あっという間に滅ぶです」

「なあ、もしルディが銀河帝国に帰れたとしてだ。この星系を報告したら、この星に暮らしている人間はどうなるんだ?」


 ナオミの質問にルディが首を傾げた。


「……はて? どーなんですかね? ハル、何か知ってるですか?」

『銀河帝国の歴史上、今回のケースに該当する案件は一度もございません。なので、ロストプラネットのケースが適応されるでしょう』

「ロストプラネットとは?」


 ナオミが質問すると、それについてハルが答えた。


『宇宙開拓時代。まだ、ワープ理論が未発見だったため、人類はコールドスリープ状態で眠り、何百光年先の惑星へ開拓に向かいました』


 ハルの話にナオミが目をしばたたかせた。


「なんでそんなマネを?」

『人口の急激な増加による食糧難を回避するためです』

「……なるほどね、理解した。中断させてすまない。続きを話してくれ」

『はい。ロストプラネットとは、当時の開拓民が無事に惑星に着いたが、そのまま忘れられて、何千年も後で発見された文明を言います』

「なるほど。確かに私たちと類似しているな」

『今回は1200年と短いですが、同じでしょう』

「それで、ロストプラネットだと認定されたら、そこで暮らす星の人間はどうなる?」

『帝国法では保護対象となります。300年ほど時間をかけて文明を進化させたのち、帝国に組み込まれます』

「そうか……奴隷になるわけじゃないんだな」


 ハルの話にナオミは安堵するが、逆にルディが顔をしかめた。


「ししょー。心配するのは甘めーです。あくまでも帝国の法律がそうなだけで、惑星を手に入れた国がそれを守るとは限らねーです」

「そうなのか?」

「良い国があれば、悪い国も同じ数だけあるですよ。300年間文明を進化させる? ものすげー金掛かるです。それよりも原住民を放置して、星の資源根こそぎ採取してポイ捨て。そっちの方が儲かるです」

「……宇宙も平和じゃないんだな」

「平和なんて夢物語です」

「それでルディ。もし、お前が帝国に帰れたとしたら、この星の事を報告するのか?」

「僕したくねーですけど、ハルがするですよ」

「何故?」

『ロストプラネットを発見した場合、AIには報告する義務があります。これは強制されており、私の意志では否定できません』

「と言う事は、できるだけお前たちが帰れない方が、この惑星にとって安全なんだな」


 そうナオミが言うと、ルディが苦笑いをして肩を含めた。


「残念ですがそのとーりです」




 話が長くなったので、一旦休憩を入れようとリビングに戻れば、ソラリスがルディたちの溜まった洗濯物を干している最中だった。


「一郎とアイリンは何処に行った?」


 ナオミの質問に、ソラリスがナオミのパンティを握りながら森の方を指さした。


「友達の家へ遊びに行きました」

「友達?」

「アイリンの報告によると、彼にゴブリンの友達が出来たそうです」

「へぇ……ところで、その掴んでいる私の下着を早くどこかへ隠してくれ」

「まだ湿っていますが?」


 ソラリスが首を傾げる。


「違う、そう言う意味じゃない……今のは忘れてくれ」

「分かりました」


 ソラリスは頷くと、中断していた仕事を再開した。


「一郎に友達が出来たらしい」

「そうみてーですね。アイリンから報告聞いてるです」


 キッチンでコーヒーを淹れていたルディはリビングに戻り、ナオミの分を彼女の前に差し出した。


「心配してないのか?」

「心配? 何をですか?」


 コーヒーを飲んでいたルディが首を傾げる。


「一郎がゴブリンの集団を率いて、人間を襲ったりするかもしれないだろ?」

「襲う理由が見あたらねーですね。人間でも魔物でも、どんな生物にも生存本能ありやがるです。他の生物襲う理由色々あるですが、他の生物の縄張り襲う理由の大半が食料問題です」

「……ふむ」

「もしかしたら、ローランドが侵略を始めた理由も、それが目的だったかもしれねーですね……おっと、話が逸れやがったです。報告によると、一郎、ゴブリンたちにアイリンから教わった獲物の狩り方教えているらしいです」

「そうなのか?」

「そうなのです。食料確保できるのに、わざわざ人間の暮らしている村、攻める? 人間側が何かしてこねー限り、襲う必要どこにもねーです」

「なるほど。どうやら私は全ての魔族は人間を襲ってくるものだと、勘違いしていたらしい」

「容姿が違えど魔物も人間も同じ生き物ですよ。人間だって肌が黒かったり白かったりするです。見た目だけで判断する差別主義な思想は、人間の悪いところです。ですが、それは異生物に対する警戒心が故の本能でもあるから、致し方ねえですね」

「反省しよう」


 ルディの説教にナオミは頷き、疲れた脳をスッキリさせようとコーヒーを飲む。

 そして、話の続きをするために、また地下の研究室に向かった。

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