第279話 惑星の価値

「……なあ、ルディ」

「なーに?」

「お前、さっき一郎の親になりたいとか言ってなかったか?」


 ナオミのツッコミに、ルディが手を出して止めた。


「皆まで言うなです。確かにこの動画見て、さっきのアレはねーだろと思うのは当然です。僕もこの時は一郎が死んだら捨てるつもりだったです」

「うむ」

「だけど、一郎と一緒にいるうちに、愛着が湧いたのです。そう、愛とはいきなりにょにょき育たず、ゆっくり育むものなのです」

「言っている事は立派だが、やった事は鬼畜だな」

「だって、僕もこーなるとは思わなかったですし。まあ、子供を産む苦労を経験した気持ちになったです」

「産むときに苦しいのは、母親の方だ」

「父親の気持ちです」

『そろそろよろしいでしょうか?』


 いつまでも続きそうなルディとナオミの漫才を、ハルが止めた。


「そーいえば、まだ話し終わってねーでした」

「そうだな。不毛な話は後にしよう」

「ちゅー事で、この時の一郎。ワクチンで体内のマナ全部なくなって、応急処置しなかったら死んでいたです」

「ローランドの銃も、これと似た方法で人間からマナを吸い取っていると言いたいんだな」

「そーです。全部ごっそり取ったら死ぬから、兵士いくらあっても足りねー。だから全部は取らねーと思うけど、それでも体に悪影響をもたらすぐらいは絞り取ってる気がするです」


 ルディの話にナオミが腕を組んで考える。


「……上位マナニューロンは脳に直結する。おそらく生死のボーダーラインは、下位マナニューロンまでだろう」

『私の予想もその考えと同じです。なお、私の計算では、下位マナニューロンのマナの消失で、身体に障害が残る可能性が高いと出ました』

「障害?」

『麻痺障害、心肺機能の低下、消化器官の低下など。それに加えて、病気による精神衰弱もあるでしょう』


 ナオミの質問にハルが答えると、それを聞いてルディとナオミが顔をしかめた。


「やっぱりローランドの銃は危険です」

「そうだな……前にルディが言っていた事を思い出したよ」

「僕、何か言ったですか?」


 ルディが首を傾げる。


「急な文明の発展は危険を伴うって言ってただろ」

「んー? 何となくそんな事、言った気がするです。多分、その時の僕、イキってたです」

「そんな事は知らん。だけど、ローランドの銃を入手しても処分するよう、カールたちに話すべきだろうな」

「それは賛成です」


 ナオミの意見を聞いて、ルディは頷いた。




「ローランドの銃も問題ですけど、一番気になってるの魔石です。僕、魔石はマナウイルスの結晶と予想してるですが、ハル、分析結果を報告しやがれです」

『イエス、マスター。その予想で正解です。魔石とは化石化したマナウィルスの集合体でした』

「と言う事は、魔石から出るのはマナですね」

『マナに間違いないのですが、魔石に含まれているマナはタンパク質の殻がありません』

「……ほう? マナウィルスは化石化すると、タンパク質が無くなるですか?」

『そもそも、ウィルスの構造体が、空中に散布し続ける方が異常です。調査した結果、魔石は純粋なエネルギー体として利用可能です』

「僕の予想ですが、この惑星の文明が産業革命まで発展したら、魔石の争奪戦が始まりそうですね」

『その可能性は十分に高いでしょう』

「すまないが、私にも分かるように説明してくれないか?」


 置いてきぼりされたナオミの質問に、どう説明するべきか考えてルディが口を開いた。


「この家の家電、電気で動いているです。これは前にも話したですね」

「うむ。雷と同じ動力と聞いて驚いた」

「電気は基本的にモーターぶん回して発電するです。要は勝手にぐるぐる回る装置が無いと、電気作るのとっても大変よ」

「ふむふむ」

「だけど、魔石はそーですね……ハル、ソーラーパネルと同じで合ってるですか?」

『それに近いです』

「電気を作る装置の1つに太陽発電があるです。そいつはモーター使わねーで、シリコン半導体に光が当たると電気が発生する現象で電気を作るです」

「ほう?」

「魔石もそれと同じです。魔道具屋の兄さんに聞いたところ、一定の圧力を加えると、電気の代わりにマナが流れるらしいです」

『マスターの説明の通り、マナを流したい方向以外から圧力を加え続ける事で、魔石から殻のないマナが放出されました』

「燃やさねーで発電? 発マナ? どっちか分からねーけど、環境に優しいエネルギーですね。それで、キャパシタがあるという事は、魔石のマナにも+極と-極がある筈ですが、どーですか?」

『電気と同じく、ありました』

「やっぱりです。おそらく、魔道具を最初に作ったのは、この惑星に不時着したビアンカ・フレアの船員です。そーじゃねーと、ここまで電気と同じ仕組み作れねーです」

『私の計算でも同じ結果がでました』

「なるほど、理解した。つまり、この星はエネルギーの塊なんだな」


 ナオミの考えに、ルディが両手を広げて頭をブンブン振って頷いた。


「海、空、地上……それだけじゃねーです。毒でもあるマナに適応した生物、それらを全部ひっくるめて、この惑星はエネルギー体の塊です。その資産は宇宙の金額に換算すると、小さな星系だったら余裕で買えるです‼」


 ナオミにその価値は分からなかったが、何となく凄いという事だけは理解した。

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