第278話 一郎への愛情

 輸送機がナオミの家の前に到着。

 ルディたちが外に出ると、家の中からアイリンとゴブリン一郎が姿を現した。


「一郎、久しぶりです!」

「ぐぎゃぎゃ?(ルディ、元気だったか?)」


 ゴブリン一郎が喋りながら手話で返答すると、ルディが目をしばたたかせた。


「お前……アル中で震えてるですか?」


 ルディの発言に、ソラリス以外の全員がズッコケた。


「ルディ。今のは手話で、アルコール中毒症状ではございません」

「もちろん、アイリンの報告で知ってるです。今のはただの冗談です」


 ルディはソラリスのツッコミに答えると、ゴブリン一郎の頭を撫でた。


「力、知恵、勇気。お前が成長する姿、見ている楽しいです」

「お前は一体、一郎をどうするつもりなんだ?」


 ナオミがルディに質問する。

 それはソラリスとアイリンも聞きたかった質問だった。


「僕、子供いねーです。そして、これから先も作れるか分からねーです。だから、僕、一郎の親になりたいのです」


 ルディは最初にゴブリン一郎を殺しかけたけど、その後一緒に過ごしている内に、ゴブリン一郎を息子の様に思えていた。

 ルディは子供を作れない。だったら、一郎を息子にして家族の愛を求めた。


「この先、一郎がどんな人生送るか分からねーです。もしかしたら、人類の敵になるかもです。それとも、人類と魔族の架け橋になるかもです。でも、僕、一郎がどんな風に成長しても、ずっと見守るつもりです」


 ルディがゴブリン一郎に微笑むと、彼もルディを見上げて笑い返した。


「……お前がそれを望むなら私は止めないよ。好きにしな」


 ナオミはルディに子供が出来ない事を知っていた。それ故、これもルディの享楽の1つなのだろうと理解した。


「アイリンもご苦労だったです。僕だとやっぱり甘やかすですね。お前の考えた教育方針、間違ってねーです」

「ありがとうございます」

「このまま引き続き、一郎の教育任せるです」

「かしこまりました」


 ルディの命令にアイリンが深々と頭を下げた。




 ルディとナオミは家に入って直ぐ、病気や寄生虫などに感染してないか、メディカルチェックを受けた。

 結果は異状なし。2人は診断結果に安堵した。


 ルディたちが診断を受けている間、購入した扇風機型の魔道具をハルが解析する。

 メディカルチェックの後、ルディとナオミは地下の研究室でハルの報告を聞いていた。


『マスターの推測通り、電気がマナに変わっただけで、構造はほとんど同じでした』

「やっぱりそうですか」

『それとこちらの画像をご覧ください』


 そう言ってハルが投射スクリーンに画像を表示する。

 そこには、監視衛星が撮った、ローランド国の銃を撃つ兵士の練習風景が映っていた。


『こちらがローランドの銃になります』

「これが銃ですか? 僕にはバズーカーに見えるです」


 ルディは兵士が持っている、いや、肩に担いでいる大きな筒を見て首を傾げた。


『おそらく、精密な金属加工を量産する技術がないせいでしょう』

「なるほどです」

『時間を流します』


 投射スクリーンの画面が動いて、画面の兵士が銃を撃つ。

 すると、放たれた弾丸らしき物が的に命中して、的が燃えだした。

 動画が終わると、ルディと一緒に動画を見ていたナオミが口を開いた。


「これがローランドの銃だ。300mぐらいから炎の魔法を発動させる魔石を飛ばして、それが命中するとそこで魔法が発動する。普通の魔法の飛距離が大体50mぐらいだから、6倍近い差があるな」

「こいつは驚いたです。てっきり魔石、動力に使う思っていたですが、違ったんですね」

「何度かローランド上級兵士を拉致して尋問した事がある。その時に聞いた話だと、射撃者の体内のマナで撃つらしい。それ以上は開発者しか知らないらしく、どの兵士に聞いても詳しく分からなかった」


 ナオミの話を聞いて、ルディが腕を組む。

 なお、どんな尋問をしたのかは、あえて聞かなかった。


 以前、ナオミからローランドの銃は生命エネルギーを使用すると聞いていた。その時は生命エネルギーとは何じゃらほいと思っていたが、投射スクリーンの動画を見て、生命エネルギーの正体が分かってきた。


「マナが電気だと考えるです。人体には微妙に電流流れているです。それが、急激になくなる。当然、体に悪影響出るです」

「……ふむ」

「これ推測です。マナが体内から突然スポッと抜けたら、人体に悪影響出るんじゃねーですか?」

「それを言ったら、魔法使いも同じだろ? 私が知っている長生きの魔法使いは、100歳以上生きてるぞ」

「んーー。これも憶測です。魔法の発動、上位マナニューロンの命令に下位マナニューロン経由して、体内のマナかき集めて発動するです。ですが、銃を使う場合、マナニューロン無視して体内のマナ消費する。その場合、人体に影響でる可能性、どーですか?」

「……検証してないから、何とも言えないな」


 ナオミの返答を聞いて、ルディの目が笑った。


「僕、実は一度検証してるです」

「なんだと?」


 ナオミが驚いていると、ルディがパネルを操作して、過去に撮影した動画を流した。


「これ、最初のワクチンを一郎に打った時の動画です」


 その動画には、ワクチンを打たれて、もがき苦しんでいるゴブリン一郎が映っていた。

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