第277話 カールの家族、空を飛ぶ

 白鷺亭では既にデッドフォレストへ帰る準備が出来ており、全員がルディとソラリスを待っていた。


「何処に行ってたんだ?」

「昆布を買いに行ったけど、売り切れでした」


ナオミの質問にルディが答える。すると、彼女はソラリスの持っている物を見て首を傾げた。


「私は料理の事は分からん。だが、何故昆布の代わりに魔道具を買ってきた?」

「これはこれで、面白そうだったです。それに……」


 ルディが手招きしてナオミを呼び、耳元で囁く。


「ローランドの銃の構造、何となく分かったです」


 その話にナオミが目を大きく開いた。


「本当か⁉」

「まだ推測の段階です。でも、結構自信あるですよ」

「それは朗報だ。だったら急いで帰ろう」

「了解です」


 ナオミとの会話の後、ルディたちは傭兵と店の店主に別れの挨拶をして、王都から外に出た。




 王都を出て3時間ほど歩くと、人と馬車の姿がまばらになった。

 ルディたちは街道を外れて草原に足を踏み入れた。


「やっぱり王都は物流の流れが他と違うですね」

「消費都市だから仕方がないですよ」


 ルディが隣を歩いていたルイジアナに話し掛けると、彼女は微笑んで答えた。


「ルイちゃんも今回は大変だったです。ご苦労様ですよ」

「大した事をしてませんよ。私よりも毎日ご飯を作っていた、ルー君の方が大変だったんじゃない?」

「んーー? 大変と言えば大変だったです。だけど、色んな食べ物手に入って作るの楽しかったです」

「ふふふ。私も色んな食べ物が食べられて楽しかったです。ソラリスもご苦労様でした」

「問題ございません」


 ルイジアナがソラリスに話し掛けると、彼女は表情を変えずに頷いた。




 草原を歩いて30分。

 行く先を知らないカールが質問してきた。


「なあ、ルディ君。一体どこへ向かっているんだ?」

「……輸送機に初めて乗る人、必ずその質問してくるですね」


 ルディがそう言うと、身に覚えのあるレインズ、ハク、ルイジアナが笑いを堪えた。


「それは説明しない、お前が悪い」

「驚く顔が楽しいのです」


 ナオミが呆れて頭を左右に振ると、ルディは詫びずにしれっと答えた。 


「それで、師範の質問ですが。目的地はここです。だけど、チョット輸送機が遅れてるから、あと30分ほど待ちぼうけです」

「何かトラブルか?」


 ルディにしては珍しいと思って、ナオミが質問する。


「輸送機、元々6人乗りよ。今回10人乗るから、チョット改造に時間掛かっているです」

「なるほど」

「ファーストクラスからエコノミーになるけど、そこは勘弁してです」

「その意味はチョット分からない」

「クソ狭めえって意味です」


 こうしてのんびり待っていると、ルディの言った通り、予定の時刻になって輸送機が空から現れて着地した。




 輸送機を見たカールの家族が驚いて色々と質問してきたので、ルディは全部ソラリスに振る。

 ルディが操縦室に入ると、何故かナオミも一緒に付いて来た。


「ししょーは客室ですよ?」

「だって狭いんだろ。だったら、そこの副操縦席に座った方が、リラックスできそうだ」


 副操縦席にはソラリスを座らせる予定だったが、ナオミの我儘でソラリスは急遽キャビンアテンダントをすることになった。


「席に座ったらシートベルトを締めてください」


 ソラリスの指示に、客室に座った全員がシートベルトを締める。

 シートベルトが分からないカールたちには、ソラリスが手伝った。


『発進です』


 ルディの機内アナウンスが流れると同時に、輸送機が空に浮かぶ。

 それにカールたちが驚き、空を飛んだ事にはしゃぎだした。

 一度乗ったレインズたちは、彼らを見て自分たちもああだったなと、初めて乗った時の事を振り返って苦笑いをした。




『レインズさん、師範。着いてからどうするか決めるの忘れてたです。今良いですか?』


 機内スピーカーからルディの声がして、空を眺めていたカールとレインズが、周りを見回した。


「ルディは操縦室に居ますが、そのまま話し掛けても聞こえるので大丈夫です」

「そうなのか? 便利だな」

「仕様でございます」


 ソラリスの説明に、カールが便利だなと感心した。


「それで、着いてからどうするとは?」

『ししょーの家、師範の家族全員泊まらせる、ベッド足りねーです』


 レインズが質問すると、ルディの声が機内に流れた。

 それを聞いた全員が納得する。

 前回、カールの家族がナオミの家に泊まった時は、ベッドが足りずに、ドミニクとションはリビングのソファーで眠っていた。


「あのソファーだったら、安い宿より寝心地が良いけどな」


 ションがそう言って肩を竦める。


『正しい姿勢で眠らねーと、体悪くするですよ。という事で、レインズさん。師範たちをレインズさんの家に泊まらせて欲しいです』

「なるほど、そう言う事か。こっちは問題ない」

「レインズ、すまないな。世話になる」

「いや、気にするな。黒剣のカールが家に来るんだ、息子が喜ぶ」


 カールの詫びにレインズが笑みを帰した。


「だけど、ルディの飯が食べれなくなるのは、残念だな」

「ション! やめなさい。ルディ君だって大変なのよ」


 呟いたションをニーナが叱った。


『僕もさすがにレインズさんの家に毎日通って、飯は作らねーです。だけど、ダイアナがレインズさんの家に香辛料を持って行ったです。春こ……いや、僕が派遣したメイドさんの誰かに作らせれば、僕の料理と同じ飯食えるですよ』


 それを聞いて、客室の全員が喜んだ。

 なお、ダイアナとは、「なんでもお任せ春子さん」の1人。

 彼女はルディが王都に居る間に、ナオミの家から香辛料を持って来ていた。そして、既にレインズの家族はダイアナが作る、香辛料を使った料理を食べていた。


「おお、そうだったのか。ルディ君、ありがとう」

『気にするなです。元々今回の報酬に支払う予定だったです。僕、約束はムカついてなければ守るですよ』

『最後のは余計だ』


 ルディの後に、副操縦席に座っていたナオミがツッコんだ。

 ルディが乗った輸送機は2時間のフライトで、デッドフォレスト領に到着する。

 領都の近くでレインズ、ハク、ルイジアナとカールの家族を降ろした後、輸送機はナオミの家へと向かった。

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