第276話 魔道具とは?

 ルディはナオミから少しだけ魔道具について聞いていたが、実際に見た事はなかった。

 魔道具の話を聞いた時、魔道具は1200年前に墜落した宇宙船ビアンカ・フレアの遺品だと思っていた。

 だが、よくよく考えてみれば、宇宙から持ち込んだ物だとしても、1200年も経てば老朽化して使えなくなる。今も現役で動いているのはどうもおかしい。

 丁度目の前に魔道具を扱っている店があるんだから、一度は確かめてみるべきだろうと、ルディは魔道具店に入った。




 魔道具店の中は陳列棚がなく、カウンターがあるだけの店だった。

 カウンターの奥では、二十歳前半の若い男性店員が難しい顔をして、何かの作業をしていた。

 ドアのカウベルが鳴って、店員は作業を中断して顔を上げた。


「いらっしゃい。今日はどのようなご用件で?」


 店員が初来店のルディを珍し気に眺めて話し掛けて来た。


「魔道具を見に来ました」

「ん? 魔道具を買いに来たって事かな?」

「気に入ったのがあったら買うです。だけど、僕、魔道具知らねーです。だから、色々教えて欲しいです」


 魔道具は高級品で、貴族でもおいそれとは買えない。

 店員はルディが1人で来たら断っていたけど、メイド服のソラリスを見て考えを改めた。

 もしかしたらこの少年は貴族の子供なのかもしれない。そして、お忍びで街に遊びに来ている。

 もし、その考えが当たっているならば、雑な対応をしたら後で俺の首が飛ぶ。

 店員はルディに対して警戒レベルを上げると、丁寧に対応する事にした。


「分かりました。丁度今こちらの商品を修理している最中ですので、ご説明します」

「……? ありがとです」


 ルディは急に態度が丁寧になった店員に首を傾げつつ、彼の説明を聞くことにした。




「これは明かりを照らす魔道具です」


 そう言って店員が見せたのは、電球の付いた低いライトスタンドだった。


「電球、存在していたですね」


 王城には品質の悪い曇り窓ガラスはあったけど、この惑星に電球が存在しているとは思わず、ルディが目をしばたたかせた。

 一方、店員は電球を知っているルディを、やはり貴族の子供だったと確信した。


「電球は、今はローランドに併合されたフロートリアという国で、ガラスを膨らませて丸くする技術が発見されました」


 フロートリアと言えば、ナオミの故郷。ルディはその事を思い出して、ふむふむと頷いた。


「この電球の中は魔法で真空にして、中に入っているフィラメントを光らせます」


 店員の説明からどうやらこの照明道具は、白熱電球と同じ構造らしい。


「動力源はなんですか?」

「それは魔石です」


 ルディの質問に、店員が修理中の内部を見せた。

 

「この黒い石がそうですね。魔石に一定の圧力をかけるとマナが出力されて、配線に流れます」


 配線と言っても、木材で作られた基盤に、薄い金属の板を張り付けた代物だった。


「配線の材料、なんですか?」

「銅、もしくは黒鉛です」


 銅⁉ 電気配線と同じ素材に、ルディは心の中で驚いていた。


「……もしかして、これ抵抗ですか?」


 ルディが四角い部品を指さすと、店員が驚いた様子でルディの顔を見た。


「おや? よくご存じで。これが無いと、電球の糸が直ぐに燃え尽きます。この魔道具は抵抗を使って明るさを切り替えます」


 店員が魔道具についているレバーを切り替えると、配線の流れに抵抗チップが1つ追加された。


「これで明るさが弱まります」

「理解したです。ところでこの魔道具、キャパシタは付いてねーですか?」

「んーと、キャパシタ?」

「だったらコンデンサで通じるですか?」

「ああ、蓄電装置ですね。それはこれです」


 そう言って店員が別の部品を指した。


「これが無いと明るさにムラがでるから、照明道具には必ず付けます」

「なるほど、大体分かったです」


 と言うよりも、電気がマナに変わっただけ。初歩中の初歩の話なので、ルディは途中から全て分かってた。




「他に何か質問はございますか?」

「そーですね。魔石ってどうやって取るですか?」

「鉱山からです」

「ほっ⁉」


 魔石と言うからには、漫画やアニメで登場するように、魔物の体内から採取すると思っていた。ところが、まさか採掘で取れると聞いて思わず声が漏れた。


「ハルビニアにもいくつか採掘場はあるけど、殆どがローランドへ輸出されています」

「…………」


 ルディは店員の話に、ローランド国の魔石の使用目的を直ぐに理解した。そして、ローランド国が使う銃の構造は、コイルガンに似ていると想定する。

 インダクター。銅線を巻いたコイルを作れば、おそらく電気と同じ様にマナが蓄電されるのだろう。そして、蓄電されたマナで弾丸を放つ。

 これはあくまでも推測だが、可能性としては十分に高かった。




「ありがとうです。色々と参考になったです」

「いえ、大した事はしておりません」


 本音を言うと、魔道具の構造は秘匿技術なので話したくなかったが、貴族に歯向かって死ぬぐらいなら、素直に話した方が良いとベラベラ喋った。


「お礼に何か魔道具を買うです」

「えっと、どのような物をお求めですか?」

「んー。キャパシタと抵抗が付いていれば何でも良いです」

「……はぁ」


 店員は変な客だと思ったが、言われた通り奥から羽の付いた魔道具を持ってきた。


「これはスイッチを入れると、羽が回って風を送ります」

「扇風機ですね。お値段ハウマッチです」

「えっと、ローランド金貨24枚です」


 値段を聞いて、ルディがロンダルギア金貨を10枚出した。

 これはローランド金貨に換算すると、30枚にあたる。


「情報料も含んでるから、釣りはいらねーです」

「は、はい! ありがとうございます」


 珍しいロンダルギア金貨の山を見て、店員の背すじが伸びる。そして、顔をにこにこさせて、ルディに頭を下げた。


 ルディは魔道具屋を出るなり、電子頭脳経由でハルに話し掛けた。


『俺が家に帰ったら、直ぐにこの魔道具を調査しろ。恐らくローランドの銃はコイルガンと同じ構造だ』

『イエス・マスター』


 ハルの返答にルディは頷き、白鷺亭へ帰る事にした。

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