第268話 服従のご飯
ルディたちが白鷺亭に帰ると、全員が結果を待っていた。
「交渉成功したです。ついでに予算もぶんどってきたですよ」
ルディがピースサインを出して報告した途端、歓声が上がった。
特にカールの家族たちは、結果次第で故郷が滅ぶとあって何よりも喜んでいた。
「これで俺たちも仕事に入れる。特に国から予算を奪ったのは上出来だ」
そう言うスタンに、ルディが腕をクロスしてバッテンを作った。
「税金だから無駄使いはダメーです」
「それは贅沢している貴族に言いやがれ。アイツ等、人様の金だと思って、気にしちゃいねえ」
スタンはルディに言い返して、カールに話し掛けた。
「それでカールの旦那。これからどうするんだ?」
「その話はレインズとしてくれ。彼がこの作戦の指揮官だ」
「ほう?」
スタンが片方の眉を吊り上げてレインズを見ると、彼は肩を竦めて苦笑いをした。
「デッドフォレストの英雄様が指揮官か。お手並み拝見だな」
「ところが、俺は近衛兵だったから、盗賊退治ぐらいしか経験がないんだ」
「経験があるだけまだましさ。この国は何十年も戦争してないから、兵士と言っても名ばかりの金食い虫ばかりだ。まあ、よろしく頼むぜ」
手を差し出すスタンの手を、レインズはがっちり握って「よろしく」と頷いた。
落ち着いたところで、ルディたちは奥の席に座って、これからの事について話し合った。
テーブルには、ソラリスが作ったサンドイッチが配膳されて、昼食を抜いて帰って来たルディたちの腹を満たした。なお、昼食を食べたスタンもちゃっかり便乗していた。
「スタンさん、けっこー食い意地張ってるですね」
食いっぷりにルディが感心していると、スタンがニヤッと笑った。
「傭兵なんてもんは、戦場に行ったらいつ食えるか分からねえ。食べれる時は食べとかねえと、死んでも死にきれねえのさ」
「チョット何言ってるのか分からねーです」
スタンの話にナオミが呆れて肩を竦めた。
「ルディ。コイツは美味い飯を食いたいだけの言い訳だから、気にするな」
「なるほどです」
ルディが頷き、それを聞いた全員が笑った。
「さて、これからについてだが。まず、スタンとハクを副官にする」
レインズが本題を話し始めると、全員が真剣に彼の話を聞いた。
「分かった」
「ハッ!」
スタンが頷き、ハクが頭を下げる。
「ルディ君と奈落様は、ホワイトヘッド傭兵団と一緒にカッサンドルフの攻略に当たってくれ」
「分かったです」
「うむ」
ルディとナオミが頷いた。
「ハク、領地から何人の兵士を出せる?」
レインズの質問にハクが腕を組んで考える。
「そうですのう……領内の治安維持を維持しながらだと、予備兵を含めても50人が限界じゃな」
その報告にカールが頭を左右に振った。
「それだと足りないな。俺がピースブリッジを渡る時に見たローランドの砦には、200人ぐらい常駐していたぜ」
カールの話にレインズが考える。
「ふむ……労役の刑になった連中は使えないか?」
労役の刑の連中とは、レインズが領主になる前、領民に乱暴を働いた兵士たち。
その彼らは現在、デッドフォレスト領内で重労働を課せられていた。
「アイツ等を使うんか? うーん。元々素行が悪い連中じゃからのう……根性を叩きなおしても、使えるかどうか分からんぞ」
今回の作戦は秘密裡に行う必要がある。出来れば他から傭兵を雇うのはしたくない。かと言って、素行の悪い兵士は使い物にならない。
ハクの話に全員が唸っていると、ルディが一計を思い浮かんだ。
「飯で従わせるのどーですか?」
「飯?」
聞き返すレインズに、ルディは思い浮かんだアイデアを話し始めた。
「まず確認ですけど、労役刑の人たちの食事、マズイですか?」
「大した物は食べておらんよ」
ハクの言う通り、労役中の彼らは、重労働で働いているのに、麦粥と干肉、それと僅かな野菜を、1日2食しか与えられていなかった。
「もし兵士に志願したら、僕の作る美味い飯、時々食べられる。そうなったら従うと思うですけど、どーですか?」
「なるほど、それな……」
「チョット待ったーー‼」
レインズはルディのアイデアに、それなら労役刑の連中も従うだろうと考えた。そして、採用しようと口を開くが、その前に突然スタンが大声で叫んだ。
「な、なんだ?」
「その美味い飯を、何卒、何卒、俺の仲間にも分けてくれ‼」
突然スタンが椅子から降りて、ルディに向かって土下座をする。
その姿にルディは驚くが、その後すぐに、宿に居た傭兵の全員が一斉に土下座をしたから、さらに驚いた。
「皆、突然どーしたですか?」
「どうしたもこうしたもない! 俺の仲間は毎日美味い飯の匂いを嗅がされて限界なんだ。ついでに、俺の体も限界だ‼」
「それは自業自得だ。自分だけ美味い飯を食べてるからだろ、馬鹿め」
ナオミが呆れた様子でスタンをツッコむ。
彼女の言う通り、傭兵団の中でスタンだけがルディの飯を食べていた結果、彼は傭兵団の全員から恨みを買っていた。
その彼らはムカつくスタンに、毎日訓練と偽って殴りかかり、彼の体はボロボロ、既に限界を超えていた。
「でも、契約に飯を作る含まれてねーです」
「それは重々承知だ。金なら払う!」
「傭兵の皆、100人居るです。それだけの料理作るの大変よ。それ、分かってるですか?」
「だったら、仲間の何人かを使ってくれ! 料理のレシピが貴重なのは分かってる。だからレシピ代も払う。週1でも構わない。だから、お願いします‼」
『お願いします‼』
スタンが頭を下げると同時に、傭兵団の全員が一斉に頭を下げた。
「ん-、ししょーどーするですか?」
押しに押されてルディがナオミを見れば、彼女は必死に笑いを堪えていた。
「くっくっくっ。駄目だ、わ、笑いが止まらない……お、前の負担にならなければ、い、良いんじゃないか? 駄目、もう限界。あはははははっ!」
ルディは腹を抱えて笑うナオミに肩を竦めて、スタンと傭兵団に振り向いた。
「ししょーの許可得たから、作ってやるです」
『やったーーーー‼』
ルディの返答を聞いた途端、傭兵団の皆は白鷺亭が揺れるほど歓喜した。
「なるほど。毎日飯の匂いを嗅がせれば、労役兵は従うな」
「そうですのう。確かに効果的かもしれません」
傭兵の歓喜する様子に、レインズはルディのアイデアは成功すると確信した。
なお、傭兵たちが叫んで直ぐ、近隣からうるさいと白鷺亭に苦情が入った。
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