第265話 惑星初の電話会談

 話の内容が大き過ぎて、クリスの意識が飛んだ。

 レインズたちもこうなる事は予想しており、クリスが正気に戻るまで待つ。

 暫くして、クリスが紅茶を一気に飲み干して正気を取り戻した。


「あー驚いた。人生で一番驚いたかもしれない」

「それは申し訳ございません」


 クリスの呟きにレインズが謝罪すると、彼は手を左右に振って笑い返した。


「いや、構わん。だが、軍事同盟か……ローランドが西に軍を動かしているという話は知っている。目的はレイングラードか?」

「我が国の鉄鉱山さえ押さえれば、近隣諸国の軍事力が落ちます。それが狙いでしょう」


 クリスの質問をカールが答えた。


「なるほど。西側の資源についてはよく知らぬが、戦略的にそれが正解だろう」

「このまま戦争が始まれば、我が国の敗北は確実。そこで我が国の陛下はハルビニア国と密かに軍事同盟を結び、二局面作戦を考えております」


 カールの話に、クリスは安易な返答を控えて頷いた。

 クリスもローランド国の領土拡張路線には、危機感を感じていた。

 今は相手の軍事力が上でも、防衛だけなら何とか凌げるだろう。だが、ローランド国が西側諸国を全て征服して、全軍を向けられたら間違いなく敵わない。

 できれば今のうちに何か対策を打ちたいが、ローランド国に攻め込むには、フロントライン川を挟んで、鉄壁の要塞カッサンドルフが存在する。

 南から攻められないなら、北のデッドフォレスト領からになるが、そうなると国内の補給路が伸びる問題があった。

 ローランド国もそれぐらい分かっており、デッドフォレスト領の近隣には、多めに軍を配備していた。


 それと国内にも問題がある。いくら自分が今のうちにローランド国に対して対策を打ちたくても、大半の貴族が戦争反対派に傾いている。自分が国王になっても、彼らを押さえる事は出来ないだろう。


 そして、何よりも問題なのは、ハルビニア国はレイングラード国について何も知らない。

 同盟を結ぶには、まずお互いに大使を派遣して相手の事を知り、信用できて初めて同盟が結ばれる。

 もし、レイングラード国と軍事同盟を結んだ後、卑怯にもローランド国にその事を密告したら、ローランド国はハルビニア国に報復するだろう。

 その事は絶対に避けなければならず、同盟を結ぶのはメリットよりもデメリットの方が大きかった。




「残念だが、直ぐには同盟は結べない」


 クリスは暫く悩んで出した返答を予想していたのか、カールは彼の返答を聞いても残念がらずにただ頷き返す。

 その反応が予想外だったのか、クリスが眉をひそめた。


「そのお考えは御もっとも。同盟は相手の信用がなければ結べません。それが軍事同盟なら猶更です」

「うむ」


 カールの話にクリスは頷きながら、レイングラード国がハルビニア国の信用を得る方法を考えた。

 無難なところで、カールを人質として差し出すつもりだろう。黒剣のカールならば知名度も高く、人質としての価値は高い。

 だが、それだけでは同盟を結ぶには物足りない。


「そこで、クリス王太子に会って頂きたい人が居ます」


 クリスが考えていると、カールが話し掛けて来た。

 その顔を見れば、どことなく悪戯を思いついた様な笑みを浮かばせていた。


「まだ他にも来客がいるのか?」

「いや、ここには来ていません。何故ならその人はこの大陸の反対側、レイングラードの国王だからです」

「……まさか、国王自ら、この国に来ているのか⁉」


 それにはさすがにクリスも驚き、席を立ち上がりかけた。


「いや、国王はまだレイングラードに居ます。だけど、遺跡から遠距離でも会話できる魔道具を手に入れました。それで会話が可能です」


 カールはそう言うと、懐からスマートフォンを取り出した。


「なんと⁉ そんな物があるのか!」


 クリスもいくつかの魔道具は知っている。だが、遠距離での会話が可能な魔道具の存在は知らなかった。

 驚くクリスの前でカールがスマートフォンを弄る。すると、スマートフォンからレイングラード国の国王、ラインハルトの声が聞こえた。


『カールか?』

「兄貴、待たせたな。無事に王太子殿下と会っている最中だぜ」

『そうか、それで結果は?』

「もちろん断られた。後は兄貴次第だ」


 カールは電話先のラインハルトにそう言うと、スマートフォンをクリスに差し出した。

 クリスが息を飲んでスマートフォンの画面を見る。

 そこには、カールと顔が似ているレイングラード国、ラインハルト国王が映っていた。


 こうして、この惑星で初めて電話による、トップ同士の会談が始まった。




『初めまして。ハルビニア国王太子クリス殿。私がレイングラード国王、ラインハルトだ』

「あ、ああ……」


 動揺しているクリスに、ラインハルトが微笑んだ。


『まあ、気持ちは分かる。私も最初にこれを貰った時、同じリアクションだったからな』

「本当にラインハルト殿はそちらの国から出てないのか?」

『当然。ローランドのおかげで忙しくて、休んでいる暇がない』

「それは大変だな……」

『クリス殿、他人事ではないぞ。ローランドが西を全て喰ったら、今度はそっちだ。今のうちに対策を打たなければ、間に合わないぞ』

「うむ。それは重々分かっている。だが、今すぐ同盟を結ぶのは難しいのは理解して欲しい」

『こちらもいきなり結んで貰えるなど考えていない。我が国とローランドの戦いが始まった後で構わない。それだけでも、勝率が上がると思っている』

「……相手は大軍だぞ。こちらが攻めるまで持つのか?」

『全軍で掛かられたら兵力差は6倍と言ったところか。まあ、3カ月は耐えてやる』

「それは凄いな」


 どんな対策を立てているのか分からない。だが、6倍の兵力差があっても3カ月耐えると豪語するラインハルトに、クリスは素直に驚いた。


 その時、スマートフォンから着信音が鳴って、横に居たカールが身を乗り出してスマートフォンの画面を押下する。

 すると、画面が二つに割れて、片方の画面にルディの顔が映った。

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